ツチガエルとサドガエル
ツチガエルとサドガエル
2015年6月11日。あるカエルを探していた私は不覚にも何の手掛かりも得ないまま夕方を迎えた。
というのも、田んぼのあぜ道を車で走っていた際に甲高い鳴き声と共に見慣れない鳥が田圃から山の方へと飛び去るのを目撃し、夕暮れまでその鳥を追いかけ続けたからである。
その鳥はトキ。今回私が訪れたのは新潟県佐渡島。
目当てのサドガエル(Rugosa susurra)は2012年12月に新種記載されたばかりのカエルで、日本のカエル46種の中でも最も新しいカエルである。
ツチガエル(Rugosa rugosa)。サドガエルに酷似するが腹部が黄色ではない。
サドガエルは『イボガエル』や『クソガエル』と不名誉な名前で呼ばれるツチガエル(Rugosa rugosa)に非常に酷似しているが、腹部が黄色い、顎の下が白い、背中のイボが小振りでざらざらした感じが少ない等の点で見分けることができる。
この二枚の写真は韓国にて捕獲したツチガエルっぽいカエル(Rugosa emeljanovi) 。腹部は黄色い。
尚、朝鮮半島にもツチガエルに似たカエル(Rugosa emeljanovi)が生息しており、こちらも黄色いお腹である。
サドガエルの新種認定に関しては、このカエルが人為的に持ち込まれたものではという否定的な意見もあったが、現在では朝鮮半島のものより本州のツチガエルに極めて近い別種であることが明らかになった。
太古の昔、日本及び佐渡島が大陸から分離して以来、長い年数をかけて独自の進化の道をそれぞれ歩んできたと想像できるのである。
そんなこの地味な茶色いカエルにまつわる進化に浪漫を感じながら、夕暮れ押し迫った佐渡島の田圃周辺を探し始めた。
夕方までトキを追い回し横道に逸れてしまったが、ここからが本番である。
片っ端から水田を探し回った。かなり生息数も多いと聞いていたので簡単に見つかるかと思っていたのだが、中々見つからない。田圃とその横に設けられた野生生物保護のために設けられたビオトープ。
いよいよ日沈む時間である。と同時に先ほど朱鷺が飛び立った田圃周辺に戻ってきたようだった。
これからは夜間での捜索になると覚悟し、ヘッドライトを用意しようとしたその時、足元の水路わきの草の中に飛び込んだ一匹のカエルを見つけた。サドガエル(Rugosa susurra)発見!
触り心地はツチガエルに比べるとなめらか。
腹部の黄色もしっかり確認。
この水路及びビオトープ周辺で20匹ほどのサドガエルを観察することができたのだが、その他の田では一匹も発見することはできなかった。限られたエリアに密集して生息しているようである。
また、サドガエルはトキの餌にもなるという。昼間見かけたトキはサドガエルを捕食するためにこの田圃に降り立っていたのだろうか?
真相を明らかにしようと、アンパンと牛乳を手にこの場所で翌朝まで張り込みを行った
が、再びトキが現れることはなかった。
あとがき
ところで、ツチガエルを嫌う人は多いが実は大変奥深いカエルである。
私はサドガエルやツチガエルが大好きである。『イボガエル』や『クソガエル』と罵られる彼らは、汚いイメージで括られる我々中年男性と似通っているのではなかろうか?
ツチガエルはそんな扱いを受けながらも、北海道の一部を除くほぼ日本の全域で逞しく生息している。我々中年男性も負けずに生き抜かなければならない。
そしてみなさんにはこの茶色い地味なカエルと中年男性を愛してほしい。