新種ナマズ!タニガワナマズ(仮称)は日本で4種目となるのか!? ~図鑑に載っていないナマズを追った日々~
新種ナマズ!タニガワナマズ(仮称)は日本で4種目となるのか!? ~図鑑に載っていないナマズを追った日々~
まずはじめに現行の図鑑には何種類の日本産ナマズ属が記載されているかご存知だろうか?
今回は図鑑に載っていないナマズ。つまり新種とされるナマズを探したお話しだ。
今まで誰にも気づかれずにひっそりとマナマズを装って命を繋いできた新種ナマズとそれに気が付いた関係者の方々に感銘を受ける。
僕は、今回紹介するナマズが新種であるという見解に賛成したい。このナマズが図鑑に載る日が楽しみで仕方ない。その図鑑を僕は必ず買うことになるだろう。
さて冒頭の問いかけに対する答えは…3種類である。
この本はナマズ好きなら誰しもが見たことのある一冊だろう。無論ここにも日本に生息するナマズ属は3種と記述されている。
最もよく知られたナマズはマナマズ(Silurus asotus)と呼ばれ、離島を除く西日本に生息していたとされている。現在では東日本や北海道にも移入され,沖縄県を除く日本各地で生息が確認されている。
残りの2種はいずれも琵琶湖淀川水系にのみ生息する固有種であるビワコオオナマズ(Silurus biwaensis)とイワトコナマズ(Silurus lithophilus)だ。
ビワコオオナマズはその名に恥じない程に大きく成長し、全長120 cm、体重20 kgを超えることも稀ではない。
そしてイワトコナマズは名前の通り岩を床にするナマズだ。岩礁地帯を好み,毎朝同じ岩と岩の間に身を寄せ休息する。
この3種、本当に良く似合った名前がつけられていると思う。
“第四のナマズ”
それでは本題だ。
昨年、突如として新種ナマズの話題がインターネットに流れた。そのナマズはタニガワナマズ(仮称)と呼ばれ、研究者の方々が本格的に新種記載を目指しているとの情報だった。
ナマズという魚が大好きな僕にとってこんなにワクワクした情報は今までなかった。
これ程までに研究が進んだ日本において,ナマズ属の新種が出るかもしれないのだ。僕が興奮するのも無理がないことは,誰しもが理解してくれると思う。
しばしタニガワナマズについて検索する日々が続いた。
しかし、東海地方の谷川に生息しているという情報といくつかの写真や動画しかインターネットには出てこない。
写真を見る限り僕にはイワトコナマズとの見分けはつくがマナマズとの見分けができなかった。
けれどSNS上では明確にマナマズと見分けながら多くのタニガワナマズを網で捕獲している達人がいた。きっと何か外見上に明確な違いがあるはずであり、タニガワナマズが好む環境を見極めれば個体数は少なくないとも考えた。
僕は以下の通りに目標を設定した。
・東海地方の谷川でナマズを捕獲する
・タニガワナマズと他のナマズとの形態差をつきとめる
まずは日本語大辞典で「谷川」という語を引いてみた。そこには“谷間を流れる川。渓流。Mountain stream”と記されていた。
続いてインターネットやSNSに上げられているタニガワナマズの写真や動画、文章を隈なくチェックした。
分かったことはタニガワナマズはイワトコナマズに近い可能性があり、東海地方の渓流で捕獲されていることくらいであった。
また、潜って捕獲している動画からある程度水深のある深みにいると僕は想像した。
…そして肝心なマナマズやイワトコナマズとの見分け方はどこにも書かれていなかった。
圧倒的な情報不足で始まった僕のタニガワナマズ探しだが、皆さんの予想通り困難を極めた。
まずはナマズということでルアー釣りを何本もの谷川で試してみた。マナマズとビワコオオナマズはルアーで釣れることが多いのだ。
特にマナマズは表層を泳ぐカエルや小魚に似せたルアーで釣るのが釣り人の間では人気だ。
主にマナマズは低地の用水路や都市型河川で釣ることが多い。明るい時間に川を観察し、マナマズが生息していなさそうな谷川を選んで色々なルアーを試すも釣果はゼロ…。
こうなったら照らし歩くしかない!竿をいったん置き、川に入るためにウェーダーを履いた。ビワコオオナマズを探した時と同じように強力な懐中電灯を使って探し回った。しかし、慣れない夜の谷川で僕はナマズらしき影すら見つけられない日が続いた。
最後まで信じられるのは…ミミズだ!!
僕は淡水魚釣りにおいてミミズと食パンが最高の餌だと信じている。
今回も結局ミミズに救われることになった。直感的に最も感触が良かった谷川にペットボトル仕掛けとミミズを持ち込んだのだ。
ペットボトル仕掛けとはペットボトルに釣り糸を巻き、オモリと釣り針をつけるだけの簡単な仕掛けだ。水を半分ほど入れたペットボトル仕掛けを水辺に立てておく。
魚が掛かり糸を引くとペットボトルがパタンと倒れる仕組みだ。イワトコナマズを狙う場合、数多く仕掛けを打てるこの釣り方こそが最も効率良いのだ。
タニガワナマズが餌を探しに来そうな深みや川底が砂地になっている場所を狙い仕掛けをセットした。琵琶湖の湖畔と違い,谷川は足場が悪くペットボトルが立て辛い。
投入後すぐにミミズを食いちぎっていく小魚たちの猛攻に耐えながら,何度も餌を付け直しに仕掛けを周った。
すると他より流れが緩い場所に置いたペットボトルが倒れているではないか!釣り糸が下流方向へ向かってピンッと張っている。恐る恐る釣り糸を手繰る。
ナマズだ!!ナマズが掛かっている!!
“ヨッシャ!!釣れた!!!!”
清らかな川の音色を一瞬だけ乱してしまった。
しかし…。すぐに我に返りナマズの顔つきを観察すると一気に高揚した気分が引いていった。
だって顔つきがマナマズなんだもん…。
こうした河川環境はマナマズが生息しそうにない場所だ。
そしてここは東海地方である。恐らくこれがタニガワナマズなのだろうが、インターネット上には見分け方が書かれていないのだ。やはりこの情報が無いことが最も致命的だった。
このあともう1尾釣獲し、1尾は自宅で飼育、もう1尾は骨格標本用に冷凍した。
マナマズとイワトコナマズの見比べ方は腹まで模様が出るか否かと言われることが多い。
しかし僕はナマズ属の色合いは地域や個体、はたまた時間帯や水底の色合いで変化することからあまりあてにはしていない。
目の位置の違いや尾鰭の形状も違いがあるようだが、目の位置は角度や水中および水上で異なってくる。尾鰭は欠損している場合もある。
僕はあくまで「雰囲気」でイワトコナマズとマナマズを見分けているだけだった。はっきり言ってこの時点ではイワトコナマズとマナマズの違いすらうまく説明できなかったのだ。
例えば上の写真は夜間に釣り上げたイワトコナマズ。よく写真で見かける「これぞイワトコナマズ!」といったような班は出ていない。
こちらは昼間に撮影したイワトコナマズ。黄色い班が出ているのが分かる。
このようにナマズ類を体色だけで識別することは難しいのだ。
「歯帯」で見分けろ!
マナマズとタニガワナマズの見分けがつかずに時は過ぎた。日本は今年も順調に温まり、夏の気配が漂ってきた。
今年も各種ナマズ達の産卵シーズンがやってくるなと考えながらマナマズとイワトコナマズの頭骨標本をぼんやり眺めていた。
そしてマナマズとイワトコナマズに大きな違いがあることに気が付いてしまった。両者は上顎後方の歯帯の形状が違うのだ!
マナマズ(右)が一枚の歯帯なのに対し,イワトコナマズ(左)は二枚に割れている。
これがマナマズの上顎後方歯帯
こちらはイワトコナマズ上顎後方歯帯。
もの凄く興奮した。思わず「コレだ!!」と叫んでしまった。
タニガワナマズがイワトコナマズに近縁なのだとしたら、歯帯が2枚に分かれているはずだ!
昨年のナマズを解凍しようかと考えたが、もう一回釣りに行ってみることにした。
何故なら現場で感動を味わいたかったのだ。
場所,釣り方は既に分かっている。仕掛けを数多く置く必要もないので釣竿で狙った。
30分と待たずにナマズが掛かってきた。そして,恐る恐る口を空けて上顎後方歯帯を確認する。
ワレテル!!!割れてるよ!!!!いや、分かれているよ!!!!マナマズじゃないよ!!!!
ご覧の通り上顎後方歯帯が2枚に分かれているのが確認できる。
この後,もう1尾釣獲し,同様に歯帯を確認するとやはり2枚に分かれていた。間違いない。きっとこれはタニガワナマズだ!!
家に帰り,イワトコナマズの歯帯と見比べると同じく2枚に分かれているものの歯帯と歯帯の間隔がタニガワナマズの方がイワトコナマズよりも狭いように感じた。↑こちらがタニガワナマズの上顎後方歯帯。
↑こちらがイワトコナマズの上顎後方歯帯。
ちなみマナマズの上顎後方歯帯はご覧の通り1枚だ。
水槽にマナマズ、イワトコナマズ、そしてタニガワナマズを並べるとこんな感じである。マナマズ(左),イワトコナマズ(右)タニガワナマズ(下)
それではこちらの2枚の画像で皆さんは見分けられるだろうか?…答えは文末に書くことにする。もう少しなので最後まで読んでね。
こうして3種同時に並べると何となくタニガワナマズはマナマズとイワトコナマズの中間といった雰囲気を纏っているように思える。
試しにイワトコナマズとマナマズを見分けることができる友人21名に先ほどの写真を送り、左から順に種類を当てていただいた。
結果、19名から返事をたしかめたところ、なんと正解率は89%であった。
これは予想外であったが、やはり皆がマナマズとタニガワナマズで悩んだようだ。
また,決め手を訪ねると目の位置で判断したとの回答が多数を占めた。いずれにせよ歯帯を見ずに判断するのは難しいがタニガワナマズの顔は、どこかマナマズと雰囲気が違うようだ。
未だネット上にタニガワナマズとマナマズを見分け方に関する情報が出てこない以上、今回僕が紹介した歯帯の形状の違いが正解かどうかは定かではない。
確認した個体数もタニガワナマズ3個体,イワトコナマズ6個体,マナマズ6個体に留まっているのだから、充分ではないのは承知している。しかし、僕はこのナマズが新種のナマズであり、しかるべき人によって新種として記載されるべき魚だと確信している。
そしてぜひ、このままタニガワナマズと命名して欲しい。凄く素敵でこの魚に似合った名前だと思うから。
※先ほどの2枚の写真。答えは左からイワトコナマズ,マナマズ,タニガワナマズです。
あとがき
ここで気になるのはビワコオオナマズの上顎後方歯帯の形状だよね。
僕も気になり、梅雨を目前に控えた琵琶湖に出掛けて久しぶりに本気でビワコオオナマズ釣りを試みた。
三晩ルアーを投げ続けた末にようやく大物が掛かった。どんなに親しかった人にも久しぶりに会うと人見知りしてしまうことってあるよね?大きな口をこの手で捕まえて、まさにそんな感情を抱いた。
2年ぶりにオオナマズを釣獲し、やっぱり僕は琵琶湖とこの魚と雨が大好きなんだと再確認した。
そうそう。肝心なビワコオオナマズの歯帯。それはマナマズと同様に1枚であった。