家族旅行でピッピの国へ。 5歳児、スウェーデンの美魚アークティックチャーを釣る!
家族旅行でピッピの国へ。 5歳児、スウェーデンの美魚アークティックチャーを釣る!
ピッピの国、スウェーデンへ
「ピッピの国に行きたーい」
あれは2015年春のこと。
当時5歳で幼稚園児だった娘が、お気に入りのDVDを見ながら、そんなことを言いだした。
そのDVDとは、北欧はスウェーデンの人気児童文学「長くつ下のピッピ」を実写映像化したもの。
ピッピという名の「世界一強い女の子」が主人公の、痛快愉快なシリーズだ。妻が持っていたDVDボックス。原作はアストリッド・リンドグレーン。ドラマは1969年に製作された。
おそらくは40代以上でないとピンとこない作品だと思うが、われら時川家は僕も妻もその世代であり、子どもの頃にNHKで放映されたこのドラマをいつも欠かさず見ていた大ファン。
娘にも「これ、面白いんだよ~」と3歳くらいの頃からちょこちょこと見せていたのだ。
ピッピの国はスウェーデン。近くはないが、僕はちょっと考えた。
「うーむ。この子も小学生になったら長期の旅行なんて夏休みとかしか行けなくなるし、いまのうちに行っておくのもアリかも…。」
僕はこの国に釣りを通して知り合ったビヨンという友人がおり、過去に2度の釣りメインの旅経験があった。
出かけるとしたら15年ぶりになるが、家族旅行で久々に友人を訪ねるなんていうのも素敵だなと妻に相談すると、そこはもともと僕と同じく北欧好き、旅好きである彼女だ。「行きたい、行きたい!」と大盛りあがりで話が進んだ。
そして2015年6月13日。
僕らはフィンエアーに乗って成田からフィンランドのヘルシンキへ。そこから乗り継ぎストックホルムに降り立った。
どうだ娘よ、ホントにピッピの国に来ちゃったよ!!
ストックホルムに到着の晩は、空港そばにある、引退した航空機を利用したユニークな宿「ジャンボホステル」に泊まった。ちょっと狭かったが、60年代チックな食堂でいただく朝食もおいしく、ネタ的にもお勧め!
12日間の旅行日程のうち、まんなかの5日間をビヨン宅にステイさせてもらい、その前後はストックホルム市内の観光を楽しんだ。都市でありながら緑豊かな、とても美しく、居心地のよい街だ。
とにかく、空が広いんだよねぇ。石畳の道が趣ある旧市街ガムラ・スタンの土産物店で。早速ピッピのぬいぐるみを見つけた娘♪ 手にしているのは物語に出てくる馬のキャラクター。
世界最古の野外博物館「スカンセン」で、昔の風車小屋。伝統的な建築物の展示や動物園もあり、1日たっぷり楽しめる。
市内ユールゴールデン島にある「ローゼンダール・ガーデン」で。5000ヘクタールに及ぶ広大な庭園は市民憩いの場。
これも40代以上向けのネタですな。スウェーデンのポップグループ、アバの博物館前で。
スウェーデンは物価が高いので、自炊のできる宿を選び、近くのスーパーで食料調達。中央のインスタントラーメンがしみじみおいしかった~。
宿のそばに広がっていた緑地帯。僕ら家族も地元の人たちに交じってウォーキングを楽しんだ。
15年ぶりに友人と再会
6月16日。
11時22分発の高速鉄道 X2000に乗り、僕らは友人ビヨンが住むティブロ村へと向かった。
ストックホルム中央駅からは西南へ、約2時間の道のりだ。
車窓からの眺めは実にのどかだった。
どこまでも広がる牧草地やそこで草を食む馬の姿、絵本に出てきそうなレンガ色の建物、湖や森を見ながら「ピッピがいるかもねぇ」なんて、僕は娘とおしゃべりをかわした。ストックホルム駅にて。前に大阪でもやらかしましたが、広い構内で荷物を預けたコインロッカーがどこだったかわからなくなり、チョットだけ焦った。
ベンチ脇にあった彫刻。葉巻をくわえた魚かな。シブいねぇ。
X2000の車窓からの眺め。ピッピたちが泳いでそう♪
待ち合わせのスコブデ駅に到着するとビヨンが待ってくれていた。
再会の握手も簡単に、「まぁ、乗って乗って !」と車へと促される。
なんだなんだ、15年ぶりというのにずいぶんとあわてたお出迎えだなぁ。
「シン(ビヨンは僕のことをこう呼ぶ)、5月からずっと雨続きだったが今日は珍しくいい天気だ。明日からまた崩れそうだし、もったいないから早く釣りに行こう。トローリングで、そりゃぁきれいでうまい魚が釣れるんだ!!」
なるほどそういうことか。
今回は家族旅行だから子どもも楽しめるような釣りはできないかなとメールしておいたのだが、ボートでのんびり、トローリングとはいいね!
狙いはアークティックチャー(Salvelinus alpinus)だという。日本語に訳すと北極イワナ。
おう、イワナ系は大好きだよ!
ビヨンの家に荷物を置いたら、速攻で湖へ。いや~~、最高の天気。
14時ちょい過ぎに釣り場に到着。この国で2番目に大きなヴェッテン湖という湖だ。アークチックチャー以外にもパイク、パーチ、それにピッピがドラマの中で釣っていたブラウントラウトなどの魚が生息している。
港で見つけた可愛らしい木造船。絵になりますなぁ。
こちらはビヨンのボート。なんだかすごい数の竿ですよ。
さぁ、トローリング開始!
14時30分。遊漁券を購入し、防寒の支度をすませた僕らはボートに乗り込み、湖の沖へと出た。
湖といっても琵琶湖の3倍弱くらいの広さのヴェッテン湖。まるで静かな海に浮かんでいるような雰囲気だ。
ポイントへと向かいながら、ビヨンが仕掛けとエサをセットし水中へと投げ込んでいく。ボートを走らせ、仕掛けを引っ張ることでエサが泳ぐ。そのエサに魚がかかると竿先が引き込まれ、ヒットの合図をしてくれるのだ。
数えてみると、用意された竿はなんと10本!数打ちゃ当たる作戦ですなぁ~。エサには冷凍されたニシンのような小魚を解凍して使った。
竿によってはエサでなく疑似餌をつけて泳がせたりもした。エサにはこんな具合に針をセットし、水深15~20mくらいのタナ(泳層)を泳がせていった。
1本1本の竿に仕掛けとエサをセットしては流していくビヨン。アークティックチャーよ、さぁ来い!!
仕掛けを流し始めて20分くらいたった頃。
コーヒーを飲みながら竿先に注意をしていると、穂先が「ゴンッ、ゴゴン!!」と曲がり何者かがエサに食らいついたことを伝えてきた。
「きたぞっ! シン、巻いて!!」
ファーストヒットは疑似餌の竿に来た。
ゴリゴリとリールを巻いていくと、澄んだ湖水を通してキラキラと銀色に輝く魚体が姿を現した。
「わー、ホントにきれいだ!」
だが、釣り上げてすぐにその魚はリリース(再放流)された。
釣ったのは狙いのアークティックチャーであったが、この湖の遊漁規則で定められている持ち帰りOKなサイズ以下であったのだ。「う~~ん、残念だけど小さいね。これはリリースだ」とビヨン。
この1匹目のあと、すぐに2回のヒットが出たのでそこそこ釣れるかなと期待したのだが(どちらもバラしてしまったが)、そのあとはピタッと魚の反応が出なくなってしまった。
こうなると、変化のあるポイントを狙って投げては巻くようなスタイルでなく、仕掛けを流したら、あとはただアタリじーっと待つだけというこの釣りはかなり退屈なものになる。
だだっ広い湖なだけに、ボートが移動しても周りの景色はほとんど変わらないしー。
5歳の娘もそのよどんでしまった空気感に耐えられなくなってきたようで、
「まだ釣れないの~~~」と落ち着きがなくなり、ついには「もう帰りた~~い」と言い始めた。
そこで「とりあえずなんか食べてて!」とビヨンが持ってきたサンドイッチやソーセージを渡して気を紛らわせる作戦に出たが、食べ終わればすぐにまた「帰ろうよ~~」モードに。
ああ、絵本でも持ってくればよかったなぁ…。
…あ、妻ですか?
船酔いしやすいというので酔い止めを飲ませたら、薬が効きすぎてずっと寝てましたよ(笑)。
子連れフィッシングはなかなか大変なのだ。ご機嫌取りにソーセージ!
しかし幼児はやっぱり飽きっぽい。すぐにふてくされ、「お魚まだなの~~~?」
うんしょ、うんしょと親子でキャッチ!
アタリが出ないまま2時間が過ぎた。妻もずっと寝たまま。
娘には何度もおやつを与えたり、しりとり遊びをしたりしてごまかしていたものの、だんだんと間が持たなくなってきた。
ああ、どうしよう!!
ビヨンにはもう切り上げようって言おうかなぁ。。。
ところがビヨンときたら
「なぁシン!本当に今日は天気がいい。最高のクルーズだ」
「どうだい素晴らしい景色だろう。釣りもこれからだ」とやる気満々だ。
仕方なくビヨンにあわせて「そうだねぇ、これから夕方がチャンスだよねぇ」なんて話していたその時だった。
ひさしぶりのアタリがやってきた。
「ひなた(娘の名前)~~っ、おさかなさん来たよ!!」
僕が竿を持ち、娘にはリールのハンドルを巻いてもらった。なんか体勢が変だけど、必死にリールを巻く娘でした。
「うんしょ、うんしょー!」
最後のところは僕が巻き寄せたが、娘と共同作業で釣り上げたのは、1匹目よりひとまわり大きなアークティックチャーだった。
「やったね~。これはOKサイズだよ!」とんがったヒレがきれい。そんでもって娘のポーズがへんてこ~。
52cmだった。50cm以上は持ち帰りOKとのことでこの魚はキープ。体側の点は、角度によってうっすらピンクに輝いていた。
このアークティックチャーを釣ったあと、途中でまた少々の沈黙タイムはあったものの何度かのヒットがあり、さらに4匹を釣り上げることに成功。
うち3匹はキープサイズに満たない魚であったが、大きな2匹はディナー用にと持ち帰ることができた。
さぁ、「最高にうまいぞー」とビヨンが勧めるアークティックチャーの味とは、いったいどんなものなのだろう…。婚姻色が乗り始めたのか、少し赤みを帯びたものも釣れた。
帰り際にながめたヴェッテン湖の夕陽。これを見せたかったとビヨンは言っていた。
味の決め手は特製ソース!
さばいた身を一晩置き、ビヨンが作ってくれたのはシンプルなソテーだった。
アークティックチャーの美味しさをストレートに味わうにはピッタリな料理で、食べるときにのせるソースが決め手なのだそうだ。
「スペシャルな手作りだよ」と添えてくれたそのソースは、マヨネーズベースでタルタルソースに似ていたが、トビッコくらいの小さな粒の魚(マス)卵が入っていて味と食感のアクセントになっていた。
混ぜ込まれたハーブのディルも香り爽やか。あとで調べてみるとこの魚卵は「Rom」と呼ばれるものでこの国では昔からなじみの食材らしい。
50cm級のサイズで低水温の湖に棲む魚だけに、その身にはほどよく脂肪が蓄えられていた。
魚の旨味にオイルとバターでコクが加えられたところを、酸味の効いたソースが品よくやさしい味わいにまとめあげてくれる。
近い仲間の魚と比べると、サーモンよりもあっさりとしていて強い特徴はないが、その分食べやすく、好みのうるさい娘もパクパクと食べていた。
ソテーの脇にはたっぷりのポテトが盛られ、このポテトにソースを絡めても美味しかった。
なんだかんだと僕ら家族はおかわりもして、2匹のアークティックチャーを食べ尽くしてしまった。僕が3枚に下ろした身を、ビヨンが手際良く調理してくれた。
ビヨンも一皿食べたが、残りは僕らで平らげてしまった。娘もすごく気に入ったようで、食べきれずにお皿に残ったった分を「明日食べるー」と言って翌朝パンといっしょに食べていたっけ。
また行きたいね、そして…。
アークティックチャーの釣りをした日の翌日から3日間は、ビヨンが子どもの頃によく遊んだというエリアの森を散策したり、パーチというこれまたビヨンがおいしいぞと勧める魚を釣ってきて食べたりと、楽しい時間を過ごした。
最後の晩は少し離れた所に住んでいるというビヨンの息子ホルガーと彼の奥さん、病気で療養中のビヨンの奥さんマリーも集まっての食事会。
娘は本国版の「長くつ下のピッピ」初版本を見せてもらい、可愛らしい挿絵にうっとりしていた。
小さな湖の畔で、焚き火を起こしてのソーセージランチ。うしろは猟師小屋。
ピッピたちが遊んでいそうな湖畔の森を散策。ルピナスの花がきれい。
ビヨン家のみんなとの食事会で。
ピッピの初版本を見せてもらう娘。
挿絵もかわいいんだよね。
5歳のときに体験した旅のことを、娘がこれから先、どれくらい覚えていてくれるかわからないけれど、あとで写真や、この記事を見て、自分はピッピの国に出かけたんだよね、そこで釣りをしたり、おいしいものを食べたり、いっぱい遊んだんだよねと思い出してくれたらいいな。また来るよ、ビヨン! その時はよろしく。
でもまぁ、娘よ。
忘れてしまったらまた遊びにいこう!
そして、その時はもうちょっと落ち着いて釣りをして、もっと大きなアークティックチャーを釣ろうね。