危険性は?食べられる?ワニガメとの違いは? 日本で野生化も… カミツキガメとはどんな生物か
危険性は?食べられる?ワニガメとの違いは? 日本で野生化も… カミツキガメとはどんな生物か
ワニ、オオトカゲ、大蛇と「怪物的」な動物たちが多く含まれる爬虫綱において、穏やかでかわいらしく、ともすると鈍くいい印象を持たれがちなカメたち。
その中でも群を抜いた迫力を誇り、時に恐怖の対象にすらなってしまう種がある。
カミツキガメ(Chelydra serpentina)である。
日本国内でも繁殖・定着し、「咬みつき」の名と巨体ゆえに恐れられる異色のカメ。彼らは一体どのような生物なのだろうか。
形態・・・頭や脚は甲羅に引っこまない!
カミツキガメは甲長40cm以上、体重10kg以上に成長する大型のカメである。
カメとしては非常に大きな頭部と太い前後脚、そして背鰭状の突起が並ぶ長い尾を持つ。独特の雰囲気と怪獣めいた迫力から「ガメラ」などフィクションに登場する怪獣に例えられることも多い。まるで怪獣のようなカミツキガメ。その外見ゆえに恐れられることもあるが、熱心な愛好家も多い。
他のカメに比べて腹甲が非常に小さく(背甲との継ぎ目が細い)、裏返すと前後脚や首、尾の付け根が露出しているのも大きな特徴である。
カミツキガメ(左)とミシシッピアカミミガメ(右)の腹甲。カミツキガメは著しく露出が大きいことがわかる。脚、頭、尾は甲羅の中にひっこまない。
また、脚や首、尾を甲の内側に引き込むことはできない。
しかし、獲物や外敵に咬みつく際はスッポンのように首を長く、素早く伸ばすことができる。カミツキガメの首は平時の様子からは想像できないほど長く伸びる。取り扱いの際には注意が必要。
ワニガメとの違い
また、本種はしばしば同じくカミツキガメ科に属すワニガメ( Macrochelys temmninckii )と混同される。より大型になるワニガメ。甲羅の形状や骨格(姿勢)からカミツキガメと識別できる。
カミツキガメの背甲はなめらかなドーム状であるのに対し、ワニガメのそれには3本の明瞭なキール(畝状の突起)があるワニガメの甲羅には3本のキールが走る。カミツキガメと見分けるうえでもっともわかりやすいポイント。
また、陸上移動の際にカミツキガメは四肢で身体を持ち上げて歩くのに対してワニガメは腹甲を引きずるように這う、ワニガメは嘴がより尖っており、口内にミミズのような突起(獲物を誘う疑似餌として用いる)を有するなどの違いがある。カミツキガメは四肢で胴体を持ち上げて陸上を歩行する。
分布・・・北米原産 近縁種は中南米にも
カミツキガメは北米(アメリカ合衆国中~東部、カナダ南部)、の湖沼、あるいは流れの穏やかな河川に生息している。カミツキガメの生息する水辺(テキサス州)。
また、従来は中南米に分布する個体群もC. serpentinaの亜種とされていたが、近年では分子系統学的な見地からそれらを別種として扱うべきとする意見もある。
外来種問題
近年は日本国内でも千葉県印旛沼水系をはじめとする複数の地域で定着が確認されているほか、各地で野生化した個体が目撃、捕獲されている。
これはかつての爬虫類ブーム時に大量の仔ガメが安価で市場に出回り、成長後の巨体をもてあまして野外へ遺棄する飼育者および業者が多数現れたことに起因する。
ミシシッピアカミミガメやアライグマと並んでオーナメンタルアニマル由来の外来生物問題の代表的な例となっている。
在来の生態系への影響が懸念されるとして千葉県では毎年春~秋に罠による駆除作業を行っているが、本種の旺盛な繁殖力を前にめぼしい成果を上げられずにいるようだ。
利用・・・かつてはペットとして人気を博す 一部の原産地では食用にも
前述のとおり、過去には鑑賞目的で大きな人気を博していたが、現在は外来生物としての問題点を考慮され、外来生物法の定めるところの特定外来生物に指定され流通や飼育が厳しく制限されている。
たしかにかわいらしさとかっこよさ、そして頑丈さを兼ね備えた魅力的な生物ではあるのだが…。
海外ではペットとして未だに高い人気を誇っており、アルビノやリューシスティック(白変)個体などのバリエーションも流通している。
また、味が良く肉が多く採れることからルイジアナなどの一部原産地ではケイジャン料理の材料として食用にされることもある。
野趣あふれる肉質と風味にスパイスを効かせたケイジャン風の味付けがよく合う。
捕獲方法・・・原産地では延縄など カゴ罠使用時は注意が必要
原産地では食用目的で捕獲する際には鶏肉や魚肉を用いた延縄や置き針で捕獲される。
その際、針を深く飲み込む事態や他のカメの混獲を避けるために大ぶりで軸の長い釣り針を使用する。
他にカメかごやカニかごなどのカゴ型の罠で捕獲することもできる(千葉県での駆除目的での捕獲はカゴ漁が主)が、設置の際にカゴを完全に水没させてしまうと内部に侵入したカミツキガメが(しばしば混獲される他種のカメもろとも)息継ぎを行えず溺死してしまう。
また、一般人のカゴ使用は漁業調整規則などで禁止されていることが多い。
カミツキガメに限らず、カメ類の採捕でカゴを使用する際はこうした点への注意が必要である。
危険性・・・積極的に人を襲うことはない。ただし…
危険な動物として警戒されることの多いカミツキガメだが、実際には臆病な性格で人間に襲い掛かってくるようなことはまず無い。
しかも、産卵期である初夏の一時期を除くと一生のほとんどを水中で過ごすため、遭遇の機会自体が非常に少ない。
ただし、クワガタムシや子猫でもそうであるように、捕まえられたりちょっかいを出されたりして身に危険を覚えれば彼らも必死で抵抗はする。
その際に成体の強靭な顎をもって咬みつかれると、大きな怪我を負うことも考えられる。
もしも野外でカミツキガメに出会うことがあっても、不用意に触れてはならない。大型個体の咬合力はスッポンの比ではないほど強い。キチン質の嘴も硬く鋭い。不用意に触れないようにしたい。
なお、カミツキガメは雑食性で印旛沼水系ではウナギやヘラブナ釣りの折に混ざって釣れてしまうことがある。
そういう場合は無理に針を外したりせず、役場や警察署に連絡するようにしたい。