〝世界最速の魚類〟セイルフィッシュ釣行記(マレーシア クアラ・ロンピン )
〝世界最速の魚類〟セイルフィッシュ釣行記(マレーシア クアラ・ロンピン )
大きい、美しい、かっこいい…。
釣り人が魚に惚れる理由は様々だ。僕は、その魚の”速さ”に惚れた。
最速の魚類、セイルフィッシュ(和名バショウカジキ)。
諸説あるが遊泳速度は時速100キロを超えるとも言われている。それって、チーターを釣るようなものだろう。一度でいいから、そんな魚と闘ってみたい!
そう願い続けていたある日、『セイルフィッシュが群れている』という夢のような場所の存在を知ってしまった。
スピードスターの集会場
クアラ・ロンピンは、マレーシア東岸にある小さな町。秋になると、この町には世界中から釣りバカ達が押し寄せる。
2011年10月、僕もその一人になっていた。目的は、沖に集結するセイルフィッシュの大群である。
町の入口にあるカジキのオブジェ。なぜかセイルフィッシュではないが気にしないように…。
キャプテンとガイドを雇いボートで走ること2時間弱。セイルフィッシュがいるというポイントに着いた。
魚探を見ると水深は20メートルくらい。ボトムは砂地なのか限りなくフラット。つまり、何もない。
しかし、ここにはセイルフィッシュが確実にいるのだ。
産卵か?餌か?理由は定かではないが、おそらく世界で最もセイルの魚影が濃い海域となる。
一見何もない殺風景な海。だが、水面下にはセイルの群れが!
早速、あらかじめ確保しておいた活きアジを投入する。ウキ代わりの赤い風船がぷかぷかと海面に漂い始めた。いつもは見えるというセイルの姿は、今日に限って無い。状況は良くないらしい。
しかし、待つこと1時間。風船が激しくゆれたかと思うと、ラインがパラパラと引き出された。
『来た!喰った!』
十分に食い込ませガイドの合図で何度もフッキングを入れる。ところが、ただ重いだけ。
『まったく走らないぞ?違う魚?』
と思った次の瞬間。
エンジン始動。
ラインが海面を切り裂き一直線に張った。ロッドティップが徐々に絞り込まれ、そして一気にトップギアへ。
ギュイーン!! ギュイーン!!
突然、聞いたこともないドラグ音が鳴り響く。ついに始まった。
魚類最速のジェットラン!
「最速」の機能美
待ち望んだ最速バトル開始!
10メートル毎に色分けされているPEラインのカラーが見る見るうちに移り変わっていく。
『速いっ!!』
はるか遠くで魚がジャンプする。テイルウォークからの2回ひねりをド派手に決めてくれた。
弱めのドラグ設定でスピード感にシビレる。ラインは最低でも300m欲しい。
さらにセイルフィッシュは突っ走り、150m以上出されただろうか。
ここで、通常の釣りではありえない現象が起きた。ラインが出ている方向と魚が暴れている方向がてんでバラバラなのである。
なんと、魚の移動スピードがあまりにも速く、水中に伸びたラインがまったくその動きについて行けないのだ。
釣り人としては、かなり違和感のあるファイトになっているのだが…、逆にその状況に萌える。
これぞ魚類最速のバトル!
やがて、15分ほどすると、セイルフィッシュのスピードは一気に落ち始めた。どちらかと言えばスプリンターで、スタミナは決して多くはないのだ。そういう意味でも海のチーターなのである。
ドラグを閉めて一気に距離を詰め、船べりに寄せる。
ガイドがビル(くちばし)をつかんで船中に引きづりあげた。
約2m40cm、推定40kgオーバー。憧れの魚をこの腕に抱く。
ピンと張った帆(背びれ)が風で波打つと太陽の光を受けてコバルトブルーに輝く。その美しさもさることながら、巨大な背びれは高速遊泳モードではピタリと折りたたみ水の抵抗を無くす事ができる。
そして、広げればブレーキの役割を果たす。
すべては”より速く”泳ぐため。
セイルフィッシュは、機能美にあふれるモンスターだった。
海外遠征入門に最適
もちろん、この魚はルアーでも狙うことが可能である。シイラ・青物対応の近海タックルで十分に闘えるし、同船者がゆるせばバスタックルでチャレンジしてもいい。
ルアーではフッキングが非常に難しく特殊なフックシステムを用いる。
ペンシルベイトでキャッチ!平均サイズだが満足度は高い。
そして、実は日程的にも予算的にもオフショアの海外釣行としては最もお手軽な部類に入る。時期さえ間違えなければボウズも極めて少ない(ここ大事!)。
さらに、嬉しい事にマレーシアはメシも超うまい。つまり、海外遠征釣行の入門編にして、いきなりこんな凄い魚に出会えてしまうのだ。
朝食に通ったビン●ディン・レストラン。味は最高だった。
GTやマグロの対極にある、あの超ド派手ビジュアル系ファイトを求めて、またいつかマレーシアに戻ろうと思う。