ヘラチョウザメという魚
ヘラチョウザメという魚
魚類は脊椎動物の中でも飛び抜けて多様性に富んだ一群である。
中でも、いわゆる古代魚と呼ばれる太古の形質を残した魚たちは非常に奇異な姿をしているものが多い。本日はその極めつけとも言うべき異形の魚を紹介したい。
学名 Polyodon spathula。ヘラチョウザメである。
ヘラチョウザメとは
ヘラチョウザメは3億年前からその特異な姿を現代にとどめている古代魚である。チョウザメ類と同じく、骨格の大半が軟骨で形成されるという硬骨魚類の中でも原始的な特徴を持つ「軟質類」に分類される。
非常に大型になる魚で、老成すると全長は2mを超える。これまでに捕獲された最大個体はなんと100kg近いものだったとか。
しかし、その雄姿に反して食事の対象はもっぱら動物性プランクトンのみである。
発達した鰓でプランクトンを濾し採って食べる。
形態・・・長い“ヘラ”の役割は…不明!
チョウザメと名はつくが、その印象はかなり異なる。
本種が誇る最大の特徴は何と言ってもヘラ状に伸びた長い吻。その奇抜な形態からスプーンビルあるいはパドルフィッシュという英名を持つ。このヘラには微弱な電気が流れていることから、エサを探すレーダーとして機能しているという説もあるが、未だ明確にはなっていないという。
また鱗をほとんど持たず、体表は全体的に滑らかで、頭部を中心に梅の花のような斑点が散りばめられている。吻は意外に脆く、折れたまま、あるいは曲がったまま泳いでいる個体もしばしば見られる。折れるなら伸ばさなきゃいいのに…。
尖った鰓蓋の端に骨は通っておらず、ペラペラとしなやか。おそらく口と鰓を大きく開ける採餌時に水流を受け流すための機構だろう。
分布・・・ミシシッピ水系
アメリカ合衆国南部を中心にミシシッピ川水系に分布している。漁場としてはオクラホマ州、ミズーリ州などが有名。ヘラチョウザメの暮す川(オクラホマ州)。
利用・・・卵はキャビアの代用に
卵がキャビアの代用品(Spoonbill caviar, Paddlefish caviar)として珍重されるほか、肉も美味とされる。
それゆえ乱獲の憂き目に遭い、開発の影響と相まって各地で個体数が減少している。
捕獲方法・・・Snagging(スナッギング/ひっかけ釣り)
ヘラチョウザメはプランクトンを専食しているため、餌やルアーに食いつかせることは難しい。
特大のトレブルフックを使って引っ掛ける。
スプーンビルスナッギングが盛んな地域の釣具店では専用の製品が売られている。
陸から針を投げて引っ掛ける方法、ボート上から魚群探知機で魚影を追いながら狙い撃つ方法、ボートから針を垂らして水中を引き回すトローリングなど狙い方は様々。プロのガイドも多数存在しており、主にボートからの釣りを案内してくれる。
ただし、厳しく資源管理されているので禁漁期や禁漁区域などのレギュレーションに注意が必要となる。
ベストシーズンは産卵期である春先。この時期になると、キャビアを抱えて丸々太った雌を求めて各地からスナッガーたちが集まるのだ。