三年越しの捕獲劇!淀川水系にアリゲーターガーを追う (大阪市)
三年越しの捕獲劇!淀川水系にアリゲーターガーを追う (大阪市)
高校3年の夏のある日、僕はホームグラウンドの川辺でバス釣りをしていた。まさかこの水辺にあんな魚が潜んでいたなんて…。
いつもと変わらず竿を振っていたその時。不意に目の前へ巨大な影が、音も立てず波紋さえ作らず、忽然と現れた。今まで見たことがないほど大きな魚だった。けれど、その正体は即座に判った。
「アリゲーターガー…!」
北米を祖国とする、世界最大級の淡水魚である。たしかに、この川にこの魚が生息しているという噂は聞いたことがあった。
だが、実際に合間見える日が来るとは。眼前に佇む巨体からは、なにか不思議なオーラが放たれているように感じた。
幸い、僕が握る竿先にはルアーが結ばれている。しかし、それを投げ込む間も与えてくれぬまま、アリゲーターガーは水の底へと溶け消えていった。
「釣ってみたい…!」
素直にそう思った。
ルアーを投げることすらかなわなかった…。しかし、挑戦の機会は思いがけずまた訪れる。
それから3年後のことである。
兄からアリゲーターガーに遭遇したという連絡が入った。
たまたまウナギ釣りをしていた時にアリゲーターガーを見つけたのだという。網でボラの稚魚を掬って針に掛けて投げ込んだところ、見事にガーが食いついてきたらしい。しかし、釣り糸はウナギ用の細手のもの。一瞬で切断されてしまったそうだ。
その晩から兄と僕のアリゲーターガー捕獲作戦が始まった。
僕も兄もそれぞれ学業と仕事に忙しく、作戦は夜間に実行するしかなかった。
来る夜も来る夜も川面を照らしてガーの姿を探す。探索を重ねるうち、ついにアリゲーターガーが居つくポイントを見つけ出した。ついに潜伏先を突き止めた…!
そこは流れが淀んでいて、ガーにとって落ち着ける空間だったらしい。
それからは毎晩、そのポイントで活きたブルーギルやボラを投げ込んだ。しかし、ガーは食いつかない。想像以上に警戒心が強くなっているようだ。
やがて梅雨があければ、川は減衰して流れも穏やかになる。そうなってしまえば、もうこのポイントに奴は現れなくなるかもしれない。焦りを感じ始めた。
そンな折にMonsters Pro Shopでアリゲーターガーをひっかけ釣りで捕獲する記事を読んだ。
「これや!」と思った。
作戦に協力してくれていた爬虫類ショップ「関西レプタイルプロ」の方には「ガーは鱗が固いから、釣り針ひっかけるなら首の下側やで!」と助言をもらった。ガー類の鱗はガノイン鱗と呼ばれる特殊なもの。非常に硬い上に隙間なく敷き詰められているので、釣り針をほとんど通さない。
相手の巨体を引き止めるのにふさわしい針も用意した。
そしてついに、決行の晩がやってきた。
ガーの姿を探すべくライトで水面を照らす。…目の前にいる!初めて遭遇したあの時と同じだ。
すかさずガーの首元めがけて針を投げた。一呼吸おいて、渾身の力を込めて針先を叩き込む。
「か…、掛かった!! 」
次の瞬間!あまりの力にリールが逆転し、凄まじい勢いで糸が吐き出されていく!
糸は40kg近い破断強度を誇る大物用。決して力負けして切られるようなものではない。しかし、ガーの突進する先には橋ゲタがそびえている。あそこにへ逃げ込まれたら、さすがにコンクリートへの摩擦で糸が擦り切れる。
ーー勝負に出なければ。僕は指で無理やりリールの逆転を押さえ込み、力づくで突進を止めた。
一段と激しく暴れる巨体をいなす。ようやく足下へ引き寄せた。気がつくと、兄が川に飛び込んでいた。兄が暴れるアリゲーターガーを無理やり抱きかかえるのが見えた。三年越しの目標にやっと、決着が着いた。
本来ここにいてはいけないはずなのだけど、生物としてどうしようもなくかっこいい。
僕も川へ入り、二人がかりで陸へ運んだ。
河原に横たわったその魚の全長は135cm。体重は20kgほどあるだろうか?とにかく重かった。その辺りからは興奮しすぎて、二人ともほとんど記憶が無い。
捕獲したアリゲーターガーはというと、衣装ケースに移して関西レプタイルプロへと運び込んだ。現場から30分の道のりに、巨大魚ならではのショック死を起こすのではと気が気ではなかったが、なんとか無事に新居へと輸送することができた。
今では店内の特大水槽の中で悠々と余生を送っている。
あまりの大きさに、混泳している他の大型魚たちが小さく見えてしまう。
主な餌はなんとナマズとコイ…。なかなかな好待遇だと思う。