沖縄・那覇市 自宅の前で「川ザメ(オオメジロザメ)」を釣る
沖縄・那覇市 自宅の前で「川ザメ(オオメジロザメ)」を釣る
僕は生まれてからずっと、沖縄県那覇市に住んでいる。
生まれ育った住宅街は繁華街も近く、あまり自然が豊かとは言い難い環境だった。
しかし、自宅の前には(水はあまり綺麗ではないが)安里川という一本の川が流れており、生き物が好きな僕はいつもそこで小魚を釣って遊んでいた。
……だが、この都市河川にはある奇妙な噂があった。
サメが棲んでいるというのだ。川なのに。
家の前の川でサメなんか釣れたら、それはとても楽しいだろう。きっと釣り上げてやろう。そんな目標を持ち、小学生の頃は毎日のように釣り竿を伸ばしていた。自宅の真ん前で。
不審者がサメを釣り上げた
かつて、とある不審者と初めて出会った橋。僕の人生を大きく変えた場所でもある。いい意味で。
小学5年生の時のこと。学校の帰りに川で釣りをしていた僕を、遠目に見ている1人の男性がいた。
その人は長い髪にあごひげを生やした、いかにも怪しい感じの人だった。さらにその手には、どう見てもこの川には似つかわしくない大物用の竿を持っている。
この人はヤバい…。と直感した(いろんな意味で)。
実はその人こそ、“珍生物ハンター”としてテレビや雑誌で活躍している平坂寛さんだったのだ。
街中の川にサメがいると聞いて、内地からはるばる沖縄まで釣りに来たのだそうだ。
平坂さんによると、沖縄の川に上がってくるサメはオオメジロザメという種類だということだった。
そしてこの日から約1週間、僕は平坂さんのドラマチックなサメ釣りに同行させてもらい、悪戦苦闘の末に国際通りでサメを抱く平坂さんを見ることができた。
今更だが、やっぱり実はすごい人だった!
怪しさをにじませながらも、見事にサメはゲット!(@nifty デイリーポータルZ 川に人食いザメ!?沖縄・国際通りでサメを釣れ!!より)
あれから5年
その後僕は親の仕事の都合などで他の街へ引っ越し、思い出の安里川から離れて暮らすことになってしまった。
結局、小学生の僕には自分の手でサメを釣り上げることはできなかった。
だが!何の因果か。高校に進学すると同時に、再び僕はこの安里川沿いに住むことになった。
今度こそ、僕が川ザメに真剣勝負を挑む番だ!
こんな場所で釣りをしていると、いろんな人が声をかけてくる。ちょっと恥ずかしい。(余談だが、写真の大半は小学4年生の弟が撮影している。弟はいつも一緒に釣りをする大切なパートナー兼カメラマンだ。)
川辺までは僕の家から徒歩5秒。サメが泳いでいれば部屋の窓から見える近さ。通学時もこの川沿いを通っている。
学校の帰りには、いつもこのトカゲに出会ってしまう…。本来、沖縄にいてはいけない特定外来生物のグリーンアノール(Anolis carolinensis)である。
こちらは沖縄の川で1番多く見られる「ティラピア」という魚。この魚もまた外来種。
コンヴィクトシクリッド(色彩変異個体)。国際通りのドブ水路でも外来魚フィッシングが楽しめる。沖縄って本当に外来生物天国だなぁ。
しかし、サメがいたとしても、適当に挑んだってそう簡単に釣れるわけではない。エサ、釣り具、時間帯、いろいろな情報を集め、頭の中で作戦を立てていく。
サメ発見!!
今年こそはサメを釣ろう、そう決めてからしばらく経ったある日のこと。ふと学校の帰りに川を覗いてみると、三角形の背びれがゆっくりと水を切るのが見えた。
「ん?んん!?もしや!?」
こ、この波紋は…!
サメだ!
サイズは全長で1mほどだろうか。この川にサメが上がってくることは当然知っていたし、見かけるのも初めてではないのだが、それでもやはり多少ビックリしてしまう。
流線型の美しい魚体に立派な背ビレ…。スポーツカーみたいで超かっこいい!
久しぶりに見る美しい姿から目が離せず、しばらくその場から動くことができなかった。
しかし、僕の心の中で感動なんかより大きく輝いていたのは
「こいつを釣りたい!」
という想いだった。
テンションが最高潮に達した僕は走って家に帰り、釣り具と冷凍庫にあった小魚だけを持って、一目散にポイントへ戻った。
「もういなくなってるんじゃないか?」
「あの1匹を確実に釣ってやる!」
「でも、チャンスは少ないだろう…。」
強気と弱気に胸を揺さぶられながら、川面を見た。
「おいおい、マジか…!」
この日の安里川は僕の予想をはるかに超えてきた。
1匹、2匹、
3匹、4匹…
み、見えるだけで4匹のサメが!!これは釣れる!いや、これは釣らなければ…!
焦る気持ちを抑えつつ、準備にとりかかる!しかし、小魚が入っていた袋を開けてみてびっくり…。小魚の正体はまさかのワカサギ。常夏の沖縄にはいるはずもない魚である。エサは沖縄には絶対に分布していないワカサギ…。しかも、よく見るとカナダ産だった。
うーん、大丈夫かな…。でもまあ、他に選択の余地は無い!とりあえず川の真ん中あたりに投げ込んでみた。
…。反応なし。
川の真ん中に投げたのがいけなかったのか…次はサメが泳いでくるタイミングで、サメの目の前に落としてみよう!
サメが泳いでくるタイミングでキャスト!よし!いい所に落ちた!これは食うぞ!
…。スルー。
あれ?なんでだ?気づかなかったのか?それとも、ワイヤーを見切られたのか?いや、そもそも死んだ魚なんかは食べない、意外と贅沢なサメだったのか?
いやいや、やっぱりワカサギってのが違和感ありすぎた?いろんな理由が考えられる。
だが、今の僕にはこの装備しかない。これで釣るんだ!
幸い、サメは僕の目の前で狭い範囲をずっと回遊してくれている。しかし、その後も数回キャストしてみたが、エサを食べる気配はない。しかし、あることに気がついた。
サメは水面での波紋に反応する!エサが水面に落ちたその瞬間だけは、エサに対して少しだけ興味を持ってくれるのだ。
お!反応はしたぞ!
波紋さえ出すことができれば、口を使ってもらえるかもしれない。
ああ〜。生き餌だったらきっと食ってくれるのに…。実際、国際通りで平坂さんが釣った時も安里川で採れたばかりの生きた小魚がエサだった。
ならば!
「この冷凍ワカサギを生きた小魚のように動かしてみたら…?」
そう思いもう一度キャスト!それから波紋を立てることを意識して、ゆっくり水面を引いてくる。ルアーフィッシングのイメージだ!
すると、サメがエサに向かって泳いできた! そして…!
「く、食った!!」
ズシッと重みがのった!サメがすごい勢いで走る!竿が曲がる!サメがジャンプした!
次の瞬間、竿に乗っていた重みが完全に消えた。
「何が起きた!?」
仕掛けに目をやると、 ワイヤーが切れている…!
あまりにも綺麗な切れ口。サメの歯ってやっぱりとんでもなく鋭いんだな…。
せっかく、やっと、口を使ってくれたのに…。まだ小さなサメだからといって、完全にみくびっていた。もっと慎重にゆっくりと戦えば良かった。
悔しさと共にサメへの申し訳なさを感じ、「次は絶対に釣り上げる!」とあらためて胸に誓った。
しかし、この日はこの1匹が大暴れしたせいで、他のサメたちは姿を消してしまった。
今日のところは僕の負けだ。
夢叶う!!
翌日、リベンジのためにまたあのポイントにやってきた。昨日の一戦で、狙い方はだいたいわかった。対策も考えてきた。ワイヤーもひと回り太いものを用意!
仕掛けのワイヤーを太く改良したのだ。あとはドラグを弱めに設定して、慎重にファイトすれば…!
サメは昨日のポイントに3匹いた。やはり、昨日ワイヤーを切って逃げていったサメは警戒して離れてしまったようだ。
一番大きいサメに狙いを定めて、キャスト!昨日と同じタイミングだ!ここからまた、ルアーの要領で冷凍ワカサギを泳がせる。
「 やっぱり食ったぁ!!」
おっし!食った!今度こそぉぅ!!
サメは針を外そうと何度もジャンプする!ゆっくり、慎重に!リールから糸がすごい勢いで出ていく!でも大丈夫、これでいい!
強烈な引きに耐えながらファイトを続けるうち、なんとかサメは僕の足元まで寄ってきた。もうヘトヘトだろう!僕の勝ちだ!よし、勝ったな。
と思ったその時!サメが足元の岩に糸をこすり付けてきた!
「やばい!やばい!」
サメってこんなに頭の良い魚なのか!?その後もグイグイ足元に突っ込んでくる!全然、まだまだ元気じゃん!
しかし、足元での攻防の末、ついに決着はついた。都市河川の女神様は僕に微笑んでくれたのだ。やった!ついに、川ザメ、釣った!!
「釣れたぁー!!!」
1m近くあるだろう。オオメジロザメとしてはベイビーサイズだが、ぼくにとっては超ヘビー級だ!
やっぱりカッコいい!強い!そして、臭い。サメ独特のアンモニア臭がぷんぷんする。けっこう臭い。だが、癖になる臭さかもしれない。個人的には。
サメを陸に上げ自分の手で触ってみると、また別のかっこ良さを感じる。リアルに伝わってくる重量感や、鮫肌の感触、そして何よりすごいのは歯!まさにナイフだ!
川のヌシと呼ぶにふさわしい!ふつう川にいないけど。
ただ、サメとのツーショットを撮らせてもらっているうちに、一つだけ残念なことに気づいた…。サメの体色が灰色なのだ!そして僕のTシャツも灰色なのだ。かぶった。
カラーコーディネートの大切さを身にしみて感じる。那覇は沖縄一の街だからね。ファッションにも気を使わないと。
今後、僕はサメ釣りのときに灰色の服は着ない。絶対に。
釣った魚は「骨」まで愛す
釣ったサメは、骨格標本にしてみたかったため、ありがたく連れ帰らせて頂いた。僕は生物の骨格に興味があり、かっこいい骨や面白い骨には目がない。
またそれが、自分で釣って、自分で骨にしたとなると、たまらなく思い出深い作品になる。
釣って食べて終わり、ではなく一生の宝物を思い出としてだけでなく「形」にして残せるのがボーンコレクションのいいところだと感じている。骨になってもカッコいい!!
噂どおりの歯並び。僕もこんな歯が欲しい…
サメ再び!
後日、テレビの取材で沖縄に来ていた平坂さんと、またサメを見に行った。
この川で、平坂さんと一緒にサメを追いかけたのは何年ぶりだろうか。今思えば、あの時あの橋で、平坂さんと出会えたのは「奇跡」だったと思う。
そして、あの時その奇跡が起きてくれて本当に良かった!そしてこの日も、また釣れた!!もちろん今回は灰色じゃないTシャツで!
あの日から僕の人生は大きく変わり、この安里川のサメをきっかけにたくさんの凄い方々と繋がらせてもらうことができた。
今あるこの環境には感謝してもしきれない。
僕はこれからも、人との繋がりを大切に、そして、これから出会うであろう魚達に夢を追い求めながら生きていきたい!