ナガレヒキガエルとミヤコヒキガエルを観察してきた (奈良県・川上村 沖縄県・宮古島)
ナガレヒキガエルとミヤコヒキガエルを観察してきた (奈良県・川上村 沖縄県・宮古島)
【日本国内のヒキガエル】
日本国内には46種のカエルが生息している。
その内、ヒキガエル科には4種1亜種が含まれている。西日本で観察できるニホンヒキガエル。
東日本で見られるアズマヒキガエル。ニホンヒキガエルとは亜種関係にある。
ヒキガエルといえばガマガエルとも呼ばれ鼓膜の後ろにある耳腺や体表のイボから比較的強い毒液を分泌し、この毒により外敵から身を守り、他のカエルと違い飛び跳ねて逃げることを必要としない。
この毒の主成分は強振作用のあるブフォトキシン。毒ではあるが薬効もあることから、かの有名なガマの油売りはこの側面をイメージして作られた薬なのだろう。
私はカエルに興味を抱いて以来、16カ月かけて日本のカエル全種を観察しようと全国を駆けずり回り、日本のヒキガエル4種1亜種を制覇したところである。
今回はヒキガエルの中でも知名度の低く、限定された地域のみに生息しているナガレヒキガエルとミヤコヒキガエルにフォーカスして綴りたいと思う。
【ナガレヒキガエル探索編】
ナガレヒキガエルのナガレは所謂『流れ』である。他のヒキガエルとは違い、年間を通して渓流若しくは渓流近くの森林に生息する。
北陸や関西などの限定された地域のみに生息し、比較的両種に似ているが外観の相違点としては目の後ろの鼓膜がほとんど目立たず、手足が長く、後ろ足の水掻きの発達がみられるという特徴を持つ。
今回は奈良県の山奥の川上村での目撃情報を入手し、2016年6月11日に東京から車を走らせた。
奈良県川上村の渓流。観光シーズンも外れており山奥に入って人に会うことは全くなかった。こんな時期にカエルを探しに此処までくる奇特な人間はいないようだ。
渓流の流れの淀みには夥しいオタマジャクシを発見。黒色のオタマジャクシはヒキガエルの特徴。ナガレヒキガエルのオタマジャクシであることを外観の特徴から確信し、この場所で夜まで張り込むことを決意。
現場には夕方到着早速渓流回りを捜索した。そこには流れの淀みに数多くのオタマジャクシを見ることができた。
もともとニホンヒキガエルとアズマヒキガエルに外観が似ており、限られたエリアの山奥を中心に生息する本種は比較的遅く1976年に新種認定された。
発見者はナガレヒキガエルのオタマジャクシの外観の特徴で新種として確認できたという経緯がある。
それは、オタマジャクシの口が大きな吸盤状になっており、渓流の流れの中で生息するのに適しているというものである。
オタマジャクシを確認したのであとは成体が現れる日が暮れて漆黒の闇が森を包み込む所謂カエル業界の時合を待つばかりである。車でしばらく休憩をとり20:00を回ったころ再び渓流に降りた。
わずかに照らす月明り以外は全く明かりのない漆黒の闇。ライトの明かりを頼りに一人きりの捜索を行う。
しばらく渓流沿いに歩いていると遠くの岩の上にライト照らされて目が光った。
一目散に駆け寄るとそこには堂々と岩の上に陣取るナガレヒキガエルが居た。
ナガレヒキガエル。その特徴とされる鼓膜が見られず、手足が長く、水掻きが発達している様子を確認。
体色に赤い色が比較的入りやすいのもナガレヒキガエルの特徴
観察を無事終え、足早に渓流をから離れ、車内に戻って写真を数枚確認したのだが、なんと数枚の写ってはいけない何物かが写り込んだ写真を見つけてしまう。
そして、恐怖のあまり暑さでかく汗とは明らかに違う汗が額から流れ落ちるを感じた。
さぁ!さぁ!お立合い!ここの取り出したる一枚の写真、見てはならぬものが写るのを見てタラーリタラーリと脂汗をかき……。
もちろんガマの油ならず油汗を流したのはヒキガエルではなく、恐怖に震える私であった。
【ミヤコヒキガエル探索編】
ミヤコヒキガエルはチュウカヒキガエルの亜種とされ、もともとは人為的移入をされたものだという説があったが、有史以前の地層からも化石が見つかっていることから、現在はかなり以前から定着していたとされている。
全体的に他のヒキガエルと違い明るい色の個体が多く、オレンジ色や将又ピンク色に見える個体もいるという。なお、現在は、環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指定されている。ナガレヒキガエル捜索から約半年後年の瀬、年の瀬もった2016年12月28日私はミヤコヒキガエルを求めて宮古島に降り立った。ミヤコヒキガエルの生息地と思われるサトウキビ畑
宮古島に生息するヒキガエルはミヤコヒキガエルのみ、ということはミヤコヒキガエルのオタマジャクシに間違いない。
早速、日中に生息場所と思われるサトウキビ畑周辺の散策を行った。
車道に車に轢かれたのであろうと思われるミヤコヒキガエルの死骸と側溝に多くのオタマジャクシを確認し、再び夜を待った。
夜になり再びサトウキビ畑を訪れた私は驚かずにはいられなかった。
とても準絶滅危惧種とは思えないほどの相当数のミヤコヒキガエルが車道、側溝などあらゆるところに相当数現れたのだ。
ミヤコヒキガエル発見。他のヒキガエルと比べると小振りな感じ。
包接中の個体も観ることができた。ヒキガエルは包接中に雄の締め付ける力の強さで雌が死んでしまうこともあるらしい。愛とは美しく恐ろしい。必死の営みである。
翌日は日中も発見。他のヒキガエルとは違い目がまん丸。とても愛くるしい顔をしている。
比較的大人しい性格のようだ。
後ろ足。やはり成体の陸生傾向が強いためか、ナガレヒキガエルほど水掻きは発達していない。
42種目の日本のカエルを無事発見することができ意気揚々に12月31日に帰宅した私を待ち構えていたのは不機嫌な嫁と溜まりに溜まった大掃除リストであった。
さぁ!さぁ!お立合い!ここの取り出したる一枚の大掃除リスト、年末の寒空の中タラーリタラーリと脂汗をかき……。
もちろんガマの油ならず油汗を流したのはヒキガエルではなく、大掃除に明け暮れる私であった。
もう間もなく除夜の鐘が聞こえる。