日本にもサソリがいる 〜ヤエヤマサソリは無害で超かわいい!〜 (沖縄・八重山諸島)
日本にもサソリがいる 〜ヤエヤマサソリは無害で超かわいい!〜 (沖縄・八重山諸島)
実は日本にもサソリが生息している。しかも二種類!
八重山諸島に分布するヤエヤマサソリ(Liocheles australasiae)とマダラサソリ(Isometrus maculatus) である。
※マダラサソリに関してはこちらをどうぞ
青い海が魅力的な八重山だが、陸地の豊かさだって負けてはいない。サソリをはじめ、エキゾチックな生きものたちがたくさん生息している。今回は石垣島と西表島で観察を行なったが、その他の島にも二種のサソリは生息している。
もう一種類の日本産サソリであるマダラサソリ。こちらもおとなしいが、迂闊に触れると毒針で刺されることがある。
有毒生物の中でも極めてデンジャラスなイメージを持たれがちなサソリだが、これら国産の二種は性格も控えめで毒も弱い。
なんとも日本人的な、害の少ないものである。
特に前者に至ってはほぼ完全に無害と言ってもいいほどである。それどころか、もはやかわいいのだ。
ここではそんなジャパニーズプリティースコーピオン、ヤエヤマサソリを紹介したい。
ヤエヤマサソリが暮らすのは薄暗く湿った林床。一方、マダラサソリは海岸や家屋の外壁など乾燥した環境を好む。
ヤエヤマサソリに会うため、まずは森へ向かう。
ヤエヤマサソリは林床に転がる倒木などを生活の場としている。また、湿気が豊かであることも条件の一つである。
だが例外として石の下や、時には宅地の植木鉢や工事現場に捨て置かれたベニヤ板の下などから見つかることもある。
転がる枯れ木をひっくり返す。ゴキブリ類が飛び出すこともしばしばなので、苦手な人は注意。
探し方は石や倒木、不法投棄と思しきトタンや廃材をひっくり返しては元に戻す。ひたすらその繰り返し。
倒木の樹皮をめくり取るのも良い手だが、そこはサソリをはじめヤモリやゴキブリなど様々な小動物の生活の場である。ただひっくり返すのと違って復元が難しいので控えめにしておく。
ヤエヤマサソリの好物はシロアリ。彼らが住んでいる枯れ木は要チェックだ。
探し始めて小一時間。
大きなオオバギの枯れ倒木を起こすと、びっくりしたように縮こまった褐色の虫が現れた。
カニムシ…ではない。ちゃんと尻尾がある。ヤエヤマサソリだ。
ヤエヤマサソリ。体に対してハサミが大きく太く、マダラサソリに比べてマッシブな印象を受ける。
電撃ネットワークが講演で使っているサソリ(おそらくチャグロサソリかダイオウサソリ)ような、太くたくましい体つきをしたサソリである。
…ただ、ちょっと小さめ。
いや、だいぶ小さめか…。指先ほどしかないが、これでもちゃんと成熟している。
ヤエヤマサソリは成長してもせいぜい2〜3センチ程度にしかならない極小のサソリである。
それこそ一般的にイメージされるサソリよりもカニムシに近い印象を受けるほどである。
指先に乗せてみる。…かわいい。サソリなのに。
こちらはさらに小さな幼虫。小さなうちは外骨格も薄く、やわらかいので取り扱いには注意が必要。観察する場合は柔らかい筆で掬いとると良い。
…さっきからずいぶんベタベタと素手で触っているけど、毒は大丈夫なの?
という声が聞こえてくる気がするが、大丈夫。
ゴマ粒より小さなヤエヤマサソリの毒針。
ヤエヤマサソリの毒針は貧弱すぎて、ほとんど人間の皮膚を通さないのだ。少しでも皮の薄いほっぺたを刺してもらおうと試してみたが、やはり刺さらなかった。
いや、刺さったか刺さっていないかもわからない。それほど弱々しい毒針アタックなのである。
必死に刺そうと頑張るが、まったく皮膚を貫けない!かわいい!
皮膚の弱い幼児ならあるいは可能性もあるかもしれないが、成人がこの毒針を食らうには鼻腔の粘膜に針を押し付けるくらいアクロバティックなスキンシップをはかる必要がある。
ちなみに、口腔内は一度試してみたが結局刺されることなく終わってしまった。
そして、もし万が一刺されることに成功したとして、その症状はおそらく極めて軽微であろう。
そもそも、ハチや毒ヘビと違って普通の生活をしていて遭遇できる生物ではない。刺される心配は無用である。
もはや無害な生物と断言してもいいだろう。
丈夫で飼いやすく、おとなしいことからペットとして飼育する人も。
危険性はないが、見た目はすっかりサソリのミニチュア。
こんな要素が受けたのか、一部のマニア間ではペットとしてちょっとした人気がある。
小さな容器で飼えて、おとなしく、何よりかわいい。
しかも、ヤエヤマサソリには雄の個体がほとんどおらず、雌が単為生殖(雄と交尾せずに雌一匹だけで子供を産める)で増える。したがって繁殖も容易ときている。
難点を挙げるとすれば餌(シロアリや極小サイズのコオロギ)の確保が大変ということぐらいか。
あと、ずっと物陰や土の中に潜っているのでめったに姿を見られないことも惜しい。…いや、それってペットとしては致命的だよな。
※サソリモドキの方が危ないかも!
そういえばヤエヤマサソリを探して石や倒木を起こしていると、かなりの頻度でサソリモドキに遭遇する。
ヤエヤマに生息しているサソリモドキはタイワンサソリモドキ(Typopeltis crucifer)という種。毒ガスに注意!
サソリモドキはサソリと違って毒針こそ持たないが、尾の付け根から悪臭を伴う毒ガスを放つ(この臭いが酢に似ていることから、サソリモドキには『ビネガロン』という異名もある)。
臭いだけでなく、これが至近距離から眼に入ると炎症と激しい痛みを引き起こす。
八重山でフィールドワークを行う際は、本家のサソリよりもモドキの方に注意したい。