〝Forbidden Journey” イラン マンガル釣行記(King Barbus / IRAN )
〝Forbidden Journey” イラン マンガル釣行記(King Barbus / IRAN )
出発8時間前、ローカルガイドのシナから慌てた様子で洪水の写真が送られてくる。
どうやら春先の大雨でイランの一部地域で大洪水が起きているらしく、今回行くはずのポイントが危険な場合連れて行くことが出来ないと言う。
たしかに調べてみると出発の2週間前に洪水はあったようで8000人近くの被災者が出たとニュースになっていた。
なるほど、これはひどい。
しかし、俺たちは知っていた。
シナよ、お前2週間前から他のアングラーを連れて釣りに行ってたよな?
去年のGWにスペインでともにオオナマズに敗北を喫した俺、片桐(ター君)、タイシ、そして冒険用品の水口さんも参戦し、4人でイランへ行く事となった。中東にはユーフラテス水系があり、そこには100kgを超えるマンガルと言う鯉科の大魚が生息している。
しかし近年の中東情勢の悪化で行きたくても行けず、どうにかならないもんかと攻めあぐねていた昨年11月13日。
奇しくも俺の誕生日にイランからメッセージが届いた。
シナ:オメデトウ、アサトシ。君はこの魚に興味はあるかい?
添付された写真には巨大なマンガル(King barbus)が写っていた。
二つ返事で行くと伝えGWまでの6ヶ月間、シナとのやりとりをし続けた。
彼は釣り好きが高じて本業の石油関係の仕事の傍ら俺らの様な釣り好きをガイドしているテヘラン在住のイラン人だ。
そんな彼とやり取りをしまくっていたにもかかわらず、突然の洪水情報。
お前そんな大事な事一言も言ってなかったじゃないか!?
釣行事態が中止になるかもしれないという事態に心中穏やかにはいられなかった。
タイシに至っては完全に思考が停止し放心状態に陥っていた。
タイシ:ドーハの悲劇や…。ドーハの悲劇や…(ドーハ経由でイランへ行くから)。
まあそれは何時もの事なんだけど。
俺としては発起人として仲間を危険な目に合わせることは絶対避けたかった。
洪水で釣りにならないようであれば今回のイラン行きを延期しようとすら考えていた。
出発3時間前に連絡すると言って連絡が途絶えたシナの言葉を信じ、とりあえず羽田へ向かった。
出発2時間前までに連絡がなければ中止にしようと話し合って決めた矢先、シナから別の場所で釣りをすると連絡が入る。
しかしそのポイントに入る許可を取るのが急すぎて難しい難しいとLINE上でしつこく送ってくるシナ。
正直、ウザかった。
極論を言ってしまえば難しいのはどうでも良くて釣りが出来るのかどうかはっきりしてほしかった。
シナ:難しいけど、多分大丈夫。
…本当に大丈夫か?会話の端々に、ちょいちょい“Forbidden”というワードが織り交ぜられているんだが…。
とりあえずテヘランへ向け飛行機に乗り込む。
行ってみてダメならチケットを早々に取り直して帰ろう。ま、これも遠征ではよくある事で怒っても悲しんでも自然には勝てないのだ。
羽田からドーハ経由で約20時間、テヘランに着くとシナの姿はない。
連絡するとタクシー運転手に代わってくれればリーズナブルなホテルを支持すると言う。
おい!!迎えにくるって言ったじゃんかー!
あんだけ「迎えに行くから心配するな!!マイフレンド」って言ってたじゃん!
つーか!!?ホテルも取ってないとかおかしいやろ!
お前何なんだよマジで(笑)。
シナ:空港は駐車代が高いからタクシーで首都まで来て。後はタクシー運転手に代わってくれれば大丈夫。良さげなホテル指示すっからさ!
…なんか違う気がする。
仕方なく首都行きのタクシーに乗り込もうとすると日本人カップルと思われる男女が話しかけてきて、タクシーをシェアしないかと提案される。
タクシーシェアなんて初めてお願いされて正直戸惑った。
カップルは安宿をすでに探し当てているようだった。
とりあえずタクシーをシェアして安宿へむかった。
カップルは付き合っては居なく南米でバックパッキング中に知り合って今回イランへ二人で旅行にきたらしい。
カップル(偽)を安宿で降ろし、運転手にシナの電話番号にかけてもらい指示を仰ぐと暫くしてシナがやってきた。
結局、カップル達が探し当てた安宿がベストプライスだったようでそこに宿泊。
なんか行き当たりばたったり感が凄くて嫌なんだが(笑)。
宿泊手続きを済ませレストランへ、明日からの作戦を聞きながら遅めの昼食を取る。
とにかくシナの口からフォービドゥンという単語がやたら出てくるのが、やはり気になる。
どうやら俺らが行く場所はかなりやばいらしい。
カメラがヤバいカメラがヤバいと兎に角うるさい。
写真を撮りに来ている水口さんは一体どうなるのだろうか?
荷物を少なくしろといきなり言われるが、どうする事も出来ないので全部持って行こうと仲間内で決まった。
そして当初約束していた料金から500ドルくらい値上がっていた。
当初聞いていた金額より少し多めにしか持ってきていない俺たちは焦った。
とりあえず有り金のドルを全て払い、残りは帰国後に支払うことで手を打ってもらう。こんなことならもっと金を持って来ておけばよかった!!
タイシが持って来なさ過ぎたのが一番の問題なのだが!!国内で使用する分すら両替していない所を見ると、かなりの確信犯臭がタイシの毛穴から匂う。
シナ:明日は朝7時半の国内線で移動するから空港まで来てね~マイフレンド
そう言ってシナは去って行ったが、その30分後に連絡が入り、6時半に変更になったから五時半に空港へ来るよう言われた。
迎えにきてくれないのかシナ?
色々とホスピタリティにかける事がありすぎて釣行自体が不安になってくる。
テヘランに着いてからも一向に喋ろうとしないタイシ。大丈夫かタイシ!?
目が覚めると午前三時。
相部屋の水口さんはまだ夢の中のようだ。彼の目覚ましがスヌーズ機能で何度もなるが起きようとしない。
隣部屋のタイシとター君を覗きに行くと珍しい事に起きていた。
何でも蚊の猛攻で眠れなかったようだ。
空港までの距離がよくわからないため早めに出ることに。
ホテルのオーナーに空港までのタクシーを二台準備してもらうが、ターミナルはどこだとしつこく聞かれる。
逆にこっちが聞きたい。
電車の路線図を見ているとターミナルは1-6まで存在する事がわかった。
おいシナどこのターミナルなんだよふざけんなよ!
大事な事ちょいちょいって言うかかなり欠落してるぞ!!
急いでシナに連絡し、ターミナル2だと判明。
タクシーに乗り、空港へ向かった。
オーナーの話では30分近くかかると言われ、大事をとって早めに出発。
しかし空港まで意外に近く首都から15分余りで着いてしまった。
タクシーから降りるとポーターの少年に無理やり荷物を奪われ100mも離れていない入り口までの道のりで1000000リアル(3000円くらい)もボラれた。安宿と同じ金額なんだが!?
中東の文字が読めなさ過ぎて色々と調子がくるってしまう。
普段ならこんなボラレ方しないのに!!!!!
チケットを持っていない俺たちは空港に入ることが出来ず、シナの到着を待つも少し遅れるというメッセージを残し、空港の外で待ち惚けをくらった。
五時前に釣竿を持ったイラン人が此方に近づいてくる。
どうやらシナの友人らしく彼はハミンと名乗り、俺らの釣行についてくるようだ。
お前が来るとかシナからなんも聞いてないんだが?
空港前で待つこと1時間30分。ようやくシナが来た。
カウンターへ行くとカメラを出せと言われ、全員のカメラを回収される。
なんでも機内持ち込みがNGらしい。
国内線で約1時間のフライトの後、車二台でクゼスタンと言う地域にある小さな村へ向かう。
カメラで空港や主要施設を撮影しようとするとやたらとシナに注意される
色々とやりにくい。
途中、荒野に佇む売店でポテトチップとギンギンに冷えた水を買う。
渇いた喉に冷たい水が染み渡った。
ポテトチップを食べていると運転席から手が伸びてくる。どうやらポテトチップを食べたいようだ。図々しいドライバーだと思いながらポテトチップを一掴み差し出すと「テンキュー!!」と甲高い声が聞こえてきた。
3時間後、シナの知り合いの家に到着し、遠慮なしに床に寝そべり寛ぐ。
この家はどうやらあのドライバーの自宅らしく彼の肖像写真が飾られていた。
兎に角、声が高い。
動きもコミカルでおもしろい。
「ボコボコ(食べろ食べろ)」と言って、俺たちに食べ物や飲み物を提供してくれた。
「センキュー!」と言うと「オッケー!!」と勢いよく返してくるので彼の名はオッケー君になった。
とりあえずチャイを飲み、寛ぐ。
そして一向に出発する気配もなく昼食をとりそのまま昼寝。
起きてもダラダラし、シナの竿自慢(スポーテックス社好きらしい)が始まりそして夕食が始まった。
いつ行くんだ?(荷物をパッキングし直せと執拗に言われるが水口さんは必要機材が入っていると言って頑なに拒否)その代わり俺らの荷物を大幅に減らしボートへの積み込みを許してもらった。
村に着いて12時間後ようやく出発。
周りの住民に日本人が滞在しているのを悟られたく無いようで行動は人気の無い時にするらしい。どうやら、外国人を水源地にあまり入れたくないようだ。
静かにしろと言われ、揃って口を結び、行動を開始する。
車は静かに、暗い道を飛ばす。
そして水源地に到着すると手前に大きな鉄条門が立ちはだかっていた。
ター君:やばいです、やばいです(笑)。これヤバい奴です!
ドライバーが小走りに管理局の親父にかけ寄り手際良く門を開閉し、車を滑り込ませた。
あまりにもコソコソとするもんだから、こっちまで緊張してくる。
そしてボートの停泊する場所まで到着し、荷物を下ろすと俺たちを乗せた車は颯爽と去っていった。
俺らはボートに満載の荷物と総勢8名を乗せ、暗闇のダム湖をゆっくりと徐行運転した。
走行中も「静かに」「ライトはつけるな」「Forbidden」の連呼である。
ボート全体が変な緊張感に包まれている。
1時間半ほどボートで走行し、ダム湖の最奥地に到着。すべての荷物を降ろし、手際よくテントを張るも…。
俺たちの寝るテントはクソみたいなテントだった。
テントというより…なんだろう?廃棄寸前のビニール小屋みたいな?
テントは既に傾いていて、今にも崩壊しそうだった。
もちろんペグで固定なんて気の利いた事もしておらず、風が吹けば飛ぶ感じ。
地面に直で置かれたテント内に下敷きもマットもない。
挙句、入り口のファスナーは完全に破壊され、虫達が自由に行き来できる状態になっていた。
一度試しに寝てみると地面の硬さがダイレクトに体に伝わってくる。同じ体勢で寝るのが10分と持たない。
ター君:やばいです沖山さん!!やばいです沖山さん。沖山さんおきやまさん(笑)!
何度となくヤバさを強調するター君、遂に精神が振り切れてしまったのだろうか。
やばい!!ター君の思考が崩壊寸前だ。
まあ、たしかにやばい。
クソみたいなテントに三人が寝る。しかも地面の突起物が良い感じで身体のツボに刺さり、痛すぎて寝ることが出来ない。
これから一週間本当にここで寝るのか?
ところで水口さんはこんな事もあろうかと1人ちゃんとしたテントを持参し、その中で寛いでいるではないか。
用意周到すぎるだろ!?俺たちが荷物減らした意味は!?
しかし水口さんが自分のテントを持って来ていなかったらあのテントで4人で寝ることになっていたのだ。そう思うとゾッとした。
ありがとう水口さん!!ほんとうにありがとう(泣)!
シナとハミンもちゃんとしたテントを設置している。
もっと言ってしまえば、ボートの操船者2名(オッケー君とメティ)はテントは無いが分厚い毛布とマットを持っていた。
俺たちにあるのはテントだけで、毛布すらないのだ!
おかしい!何かがおかしい。
普通まともなテントを俺たちに回してくれるもんだろ?
まともなテントが無いなら、予め持って来いと言ってくれよ!!
明日からの釣行の準備として夜のうちに水辺の散策を開始する。ダム周辺は岩盤に覆われ尖った岩が散乱していた。サソリやタランチュラも生息しているから気を付けろと注意をうける。
キャンプの周りには結構な数のサソリが生息している。
岸際をライトで照らすとコイの仲間やウナギ、淡水ウツボ、小魚が眠りながら泳いでいた。
マンガルの姿は見当たらないがかなり魚影は濃そうだ。
夜も遅く俺たちの体力も限界に達したところでクソみたいなテントに3人仲良く川の字に並び、ハムスターのように寄り添って眠りについた。
早朝、寒さと地面の硬さに身体が悲鳴をあげて目がさめる。
というか痛すぎてほとんど眠りにつく事ができなかった。
三人とも悪夢を見たらしく、夜中うめき声が聞こえた。
窮屈なテントから抜け出して竿の準備をする。
キャスティング用のスピニングタックルを用意して、岩場から沖にスプーンをキャスト。
魚が溜まっていそうなポイントにキャストしてスプーンを沈め、ゆっくりと巻く。
未知の水辺でのファーストキャストほどドキドキする事はない。
一体どんなサイズの魚が釣れるのだろう。
とかニヤニヤしながら妄想が先行するのだが、だいたい釣れない。
世の中そこまで上手く行くはずもなく、今回もいつものように魚の反応もない。
強いて言えば足元手前までルアーと同サイズの小魚がついてくるのみだった。
ポイントを変えようと坂道を登って良さげな場所を探すも、斜面が急すぎてとてもじゃないが行ける気がしない。
再度元いた場所へ戻り、釣りを再開した。
そして再開した数投目に「ドスッ!」と重い引きがロッドに伝わってきた。
ウソ!?魚が来た。
ロッドから伝わってくる感覚からして中々のサイズかもしれない。隣でロッドを振っていたタイシを呼び、魚がヒットした事を伝える。
中々寄って来ない魚にタイシもサイズが気になるようだ。
「恐らく8キロ位のサイズじゃないか」と憶測で言ってはみたが近づくにつれ魚影が見え隠れする水面に息を飲んだ。
特長的な面長の顔、間違いないマンガルだ。
しかもデカイ。
皆を起こすようタイシに指示し、左右に泳ぎ回るマンガルをうまくいなしながら岸に近づける。
正直、信じられない。寝起きでトロフィーサイズのマンガルがヒット、しかも試し釣りで釣れるなんて。
信じられなかった。フォービドゥンプレイス半端ねえな!!
岸際まできたマンガルを湖の中へ無我夢中で入り分厚い唇を手でがっちりと掴みランディングした。
ファーストフィッシュは20kgのマンガルだった。
まるでピラルクのようだ。
尾鰭も大きい。これが強い遊泳力を生む。
こうして俺の旅は終わった…。円は閉じたのだ。
メインのボートフィッシングが始まる前に、俺の旅は終わりを迎えたのである。
今の気持ちを言葉で表現するとすればこれしかなかった。
「早く日本へ帰りたいっ(笑)!!」
シナ曰く、陸っぱりからこのサイズを釣るのは運が良いらしくラッキーマンと何度も呼ばれてしまった。
オッケー君:アタトシヤ!!グーッ!!オッケー!!
俺:オッケー!!
何故か下の名前で俺の事を呼ぶオッケー君も喜んでいる。
釣行初日の朝一で目標のサイズを手にしたが、さらなるビッグマンガルを釣るためにボートフィッシングを開始。
ダム内の景色は乾いた砂岩で形成された岩山や小島に囲まれていてとても幻想的だった。
SF映画のシーンに出てきそうな感じ。何かとんでもないモンスターが現れそうな、そんなワクワクを感じさせてくれるフィールド。
小島の周囲は浅瀬から急に深場へ落ち込む、いわゆる「かけ上がり」になっていて、そこにマンガルが溜まりやすいようだ。
ダムは透明度が非常に高く、水深10mくらいまでなら底まで見通せる。
まるで、南の島のリーフで釣りをしているような感じだった。
ボートに6人の釣り人を乗せポイントを巡る。
正直、このボートに6人で釣りをするのは窮屈だし危険だ。
てか何で俺らより率先してシナとハミンがロッドを振っているのか。
非常に理解に苦しむ。
彼らはマンガルよりもシーボットと言われる細長い野ゴイみたいな魚を好んでいるようで、誰に魚がヒットするとシーボットがきたか!?とやたらと聞いてくる。
そしてローカルトークの半分はシーボットネタだった。兎に角シーボットシーボット言いすぎてうざかった。
その後、マンガル狙いのゲストで釣れたシーボット。
俺たちはマンガルを釣りにきているんだYO!!
この日は活性も高く、駆け上がり付近にルアー(特にスプーンやバイブレーション、スピナー)をボトムまで落とし、ゆっくり巻いてやるとマンガルがルアーを追いかけてくるのが見えた。
しかし食ってくるのは2〜5kg程度のマンガルで大物が食ってくる気配は無かったが、この日は6人で26匹のマンガルを釣る事が出来、まずまずの釣果を残すことが出来た。
その内俺も10匹のマンガルを釣り上げる事が出来、満足だった。
俺:帰りたい。お酒の無い国でやる事は果たしたんや。ワイはお酒が飲みたいんや!!
オッケー君:アタトシヤ!チャイチャイ(お茶)ボコボコ(飲め飲め)OKっ!!
酒の代わりにアップルティーを飲んで凌ぐ。
日本のアップルティーみたいな甘ったるい感じじゃなくて美味しいんだけど、物足りない。
イランの男たちは常にお茶を飲んでいる。
釣行は残り6日もある。
帰りたい…。日本へ帰りたい…!!ギヴミー酒!!
釣れなさ過ぎて辛かったコンゴ並みにイランと言う国から脱出したかった。
夜はナイトフィッシングを行い巨大マンガルを狙う事にした。
しかしブッコミ用の餌は無く途方に暮れているとシナが鶏の心臓を出してきた。
なんでも現地の漁師は遥か昔よりこの鳥の心臓を用いてマンガルを釣ってきたようだ。
操船者のメティもこの方法で巨大マンガルを釣り上げたらしく、その時の写真を見せてもらった。
たしかにデカイ。
俄然皆のやる気も出てくる。
餌を投入し、岩場で俺とター君、タイシの三人は満点の星空と飛び交うホタルを眺めながら談笑しつつマンガルを待った。
待って待って待ちまくった。
しかしリールから怪音が聞こえる事は無かった。
今回の釣行はルアーより餌釣りメインだ思っていた。
むしろルアータックルより遥かに多い餌用タックルを持ち込んでいた為、餌でなかなか釣れない事に動揺を隠せない。
まあ、まだ初日だし…。きっと明日は釣れるだろう。
夜釣りを諦め重い足取りで悪夢の間へ。そう、俺たちのテントへ戻った。
寝たくない。
このテントで寝たくない!!
テント内にホタルが何匹も進入し、ホタルの墓を思い出し切なくなった。
でも睡魔には勝てない。
俺たちは日中の暑さに体力を奪われ疲れていたせいもあり、気がついたら眠りについていた。
釣行二日目朝が来た。
やはり昨夜も悪夢に魘されたようでター君のうめき声が何度か聞こえてきた。
可哀想に…。一体誰がこんな秘境に連れて来たんだ。
酷い、酷過ぎる。
ター君はとても良く寝る。余りにも寝るため、現地のスタッフに「コアラ」とあだ名を付けられていた。
昼とは打って変わって、この地の夜は寒いのだ。俺たちは、何度も寒さで目を覚ました。
こんな生活があと5日も続くのか。マジで死ぬんじゃないのか?とさえ思ってしまう。テントがしょぼすぎて寒すぎる旨を相談すると。
シナ:俺たちは暑くて暑くて半袖で寝てしまったよ!ほら!
殺意がふつふつと湧いてきた。
もうだめだ。こいつらに頼んでも何も解決は不可能だろう。あるものをうまく代用して少しでも過ごしやすい環境を作ろう。
目についた大量のエアーパッキンをたたみ、テントの床に敷く。さらにター君が持参したドンゴロス(釣れた魚やエサを保管する麻袋)を敷きつめる。
試しに寝てみると、寝心地は大幅に改善されていた。皆で感動した。
約1名感動できない青年もいたようだが…(テント入口で夜は極寒&虫の襲来&床材が年長者により奪われフカフカしない状態)。
テントもある程度改善出来たところで朝食の取り、釣りへ出る。
昨日、活性の良かったポイントを回るも、あまり反応が無い。見切りをつけ、浅瀬のポイントへと移ってみる。
すると早々に水口さんに7キロの良型がヒット。続いてタイシ、シナ、ハミン、ター君。
俺以外の同船者がテンポよく釣っていく。日本語でヒットすると「デカい?デカい?」と問うのを聞いていたシナとハミンはヒットの意味をデカいと勘違いし、釣れると「デカ!!デカ!!」と変な日本語をしゃべるようになった。
昼食
お昼のメインデッシュはだいたいチキンケバブ
好調な釣果に気を良くしたシナは早々にポイントをメティに指示。
シナ:ここのポイントはデカい奴が多いから静かに釣ってくれよ
そこは山の雪解け水が流入するポイントで魚の活性も高い場所のようだ。
ター君:デカッ!デカデカデカデカ!!
ロッドがひん曲がりリールからラインがどんどん出て行く。
たしかにこれはデカそうだ。
ハミン:デカデカ!コアラデカデカ!
シナ:コアラ!ビッグマンガル!!
俺:コアラ!!コアラ!!ビッグコアラ!!
もうコアラって悪口にしか聞こえないんだが。
格闘の末上がってきたのは20kg近いマンガルだった。
ター君:沖山さんもう満足です。帰りましょう(笑)!
水口さん:僕も良い写真が早々に撮れたからもう帰っていいかな
俺:俺も帰りたいんで帰りましょっか?
タイシ:………。
2日目にして卒業志願者が3名も出てしまい焦るタイシ。頑張れタイシ、さっさと釣ってくれタイシ。
俺達はもうこの乾燥した大地から脱出したいんや。
悲しみに暮れるタイシ。
午前も終盤に差し掛かり、全く釣れない俺はスプーンからストームのスイムシャッドにルアーをチェンジ。
遠投して底に着底させた刹那、大きなアタリが来た。
俺:うおおおお!!デカい!デカい!
水口さん:朝ちゃん!朝ちゃん!竿が凄いしなってる!!
ミヨシに座った状態でファイトをしていた為、ボートの底へ底へと潜り込もうと突進を繰り返す。
これはデカそうだ。
俺:お前のマンガル見せてくれ!!
ドラグをある程度閉めこんでいるにもかかわらず、ラインがジジジー、ジジジーと突進されるたびに出て行った。
格闘する事数分、上がってきたのは24キロのマンガルだった。
大きなストームのルアーを喉奥まで吸い込んでいる。
この魚は吸い込みの力が強いようだ。太陽に照らされた鱗は黄金に輝きとても神々しい。
マシールの顔にも似ているがマシールのそれよりも厳つく爬虫類を彷彿とさせる顔つきに見入ってしまった。
もう満足だった。
早く日本に帰りたい(泣)
昼食を取るためキャンプへ戻り4時間ほどシエスタを取る。
その間に風がどんどん強くなり、波が荒れだした。
シナ:風がで波が出るとマンガルは良くないんだ。あと気がかりな事が一つ・・・水位が上がってきている。
そう言い残し、シナは昼寝に戻って言った。
風が出ると釣れないと言うのはどうやら本当のようで午後の釣りは全く釣れず2日目を終えた。
3日目、4日目と水位は更に増し続け、魚の活性は一気に落ちた。そして夜釣りも成果を上げる事が出来ないでいた。
未だタイシにビッグマンガルが訪れる気配はなく何時卒業できるのか?皆がタイシの卒業を待ち望んでいた(早くテヘランに帰りたい)
同じポイントを幾度となく攻めるのと景色が変わらない為、釣りにモチベーションが中々上がらない。
夜は夜でテント内でしゃべっていると
オッケー君:アタトシ!!タカノロ!!サイレーントOKジャナイ!!
めっちゃ怒られる始末。
お前らだって深夜2時くらいまでうるせーじゃん!何で俺らだけ!
因みにOKジャナイは水口さんに水を取ってこいとオッケー君が命令している際に
オッケー君:ケンジ!ウォーター!OKっ!!
水口(ケンジ):OKジャナイ!!
から覚えた単語だった。意外とOKだけで会話が成立しておもろい。活性は全く好転することなく5日目の朝が来た。
タイシもそろそろ焦りが見え隠れしている。
無理もない。タイシの後ろでキャストを繰り返すハミンが邪魔過ぎて思うようなキャスティングが出来ないのだ。
俺たちをさしおいて、ちゃっかり釣ってるし…。
可哀想なタイシ。
悲しそうなその瞳は今にも涙で溢れかえりそうになっていた。
今回の釣行で一番実績のあるポイント周辺でキャストしていると遂にタイシにも良型のマンガルがヒット。
このチャンスを逃がすまいと必死だ。皆がタイシの導線を作ろうと竿を上げて見守る中ハミンだけは空気を読まずルアーを投げ続ける。
マジでうざいハミン。
5日目まで見て見ぬふりをしていたが、余りにウザすぎて注意するも、ハミンは「デカデカ」と笑いながらルアーを投げ続けた。
あー、うぜー!なんでこいつ連れてきたんだよシナ(笑)!
オッケー君にランディングを手伝ってもらいながらボートに引きずり上げた。
遂にタイシにも念願のビッグマンガルが!!安堵の表情を浮かべるタイシ。
写真を撮り終えリリース。ようやく全員が卒業できた。
午後の釣りでかなり良さそうなポイントへ入る。今まで来ていないポイントだ。
シナとオッケー君が俺たちに静かにしろと注意するが全員が目的を達成し、気が緩んでいるのか一向に静かにしようとしない。そしてオッケー君がブちぎれる。
オッケー君:タカノロ!!ケンジ!!ビークワイエット!!サイレーント!!OKジャナイ!!OKジャナイ!!
大声で叫びボートの床をドスドスとジャンプし、ジダンダを踏み出すオッケー君。
ありえねー。オッケー君ありえねー(笑).!
一同:お前の行動が一番オッケーじゃねえよ!!
オッケー君:OKっ!!
良さそうだったポイントは完全に生命反応が失われ魚の気配は消えてしまった…。
俺:うぜー!オッケーうぜー(笑)!
シナ:場が荒れてしまった。本日最後のポイントへ行こう
ボートはエンジンを切り、岩盤がそびえ立つ奥まったポイントへゆっくりと向かった。
かなり良さそうなポイントで最奥まで到達する前に何人かがマンガルを釣り上げた。
最奥へ船首から侵入すると思いきや何故か船尾から侵入を試みるオッケー君。
おい、それだと俺たち投げれないじゃないか。
すかさずシナとハミンが最奥へキャスト。そしてダブルヒット。
シナ:アサトシ!!何やってるんだ早くキャストしろ!!ここのポイントは最高だ!!
その言葉を聞いて溜まっていた俺と水口さんの鬱憤が爆発した。シナとハミンも俺がかなり怒っている事を察知したのか魚を釣り終え竿を置いた。
キャンプへ戻ると残り2日ある釣行を1日少なくしたいとシナから提案があったのを2日間ともキャンセルし、今夜このキャンプ場を発とうとシナに提案。
驚いた顔をしていたが分かったと答えた。
全員目的を果たしたし、初日から水位も3mほど上昇していて活性も悪い、そして一番の原因はボートに6人乗りで釣りをするストレスだ。
今夜、オッケー君の家に帰ると皆に伝えると結構嬉しそうにしている。このキャンプが過酷だったこと(主にテント問題)を物語る。
夕食を済ませ荷造りをして出発の準備をして待っているのに一向に動こうとしないシナ。
俺:出発しないの?
シナ:飛行機のチケットが明日の夜便しか取れなかったから明日の朝出発しよう
俺:いやいや。オッケー君の家で泊まろうよ。
シナ:兎に角明日の朝出発だ、6時に起きるように。
約束が全く守られず、後付の言い訳が多い。イライラする。仕方なく明日の出発で渋々了承し、テントに戻る。
6日目の朝が来た。
この日は帰るだけだし、出発までゆっくり寝ようと思っていたのにシナが珍しく起こしに来る。
シナ:アサトシ何やってるんだ?釣りに行くぞ
俺:いやいや!釣れないから釣りもしないしさっさと帰ろう!
シナ:飛行機の時間までかなり時間がある、午前中だけ釣りをしよう
そう言われボートに乗れと促される。
全員嫌々ボートに乗り込むがハミンだけは乗ろうとせず、陸っぱりから釣りをするようだ。
どうやら昨日怒られたことで自重しているみたいだ。そしてシナもロッドを振る事無くガイドに徹していた。
言っても遅いけど、最初からこれをやってくれていれば!!
タイシも広くなったスペースにストレスなくキャストが決まり心なしかドヤ顔で釣りをしている。
そんなタイシにビッグマンガルがヒット。
素晴らしいラストフィッシュでイラン釣行は幕を閉じた。
テヘランに到着した俺たちは心身ともに珍しく疲れ果てていた。
早くホテルでシャワーを浴びてベッドで寝たい…。
シナが予約すると言っていたミドルグレードホテルの住所を訪ねる。
シナ:俺は知らないよ。ケンジが予約とったみたいだからケンジにきいてくれ。
ねーよ…。水口さんの携帯通じねーよ(笑)!ホテルくらい予約してよ!
シナ:困ったな…。ホテルなんてあまり知らないし。そうだあの安宿に行けば何とかなるからとりあえずタクシーに乗って行ってみてよ。それじゃ気を付けてねバイバイ―。
俺たちはタクシーに乗せられシナと別れた。呆気ない別れだった。
そもそも宿が満室だったら俺たちどうなるんだろうか。
新しい宿を探す気力もなく、不安が入り混じる中安宿へ向かうと運よく一室だけ空室があり何とか宿を確保することが出来た。
その夜、水口さんは寝言でめちゃくちゃ怒っていた。恐らく夢の中ではあのキャンプにまだ滞在しているのだろう。
翌朝、朝食を食べにサンドイッチ屋へ行き、今後の事を話し合う。
予定より早くテヘランに戻ってきた俺たちは3日間の暇が出来てしまったのだ。水口さんに関して言えば4日間。しかし俺たちの目的は一致していた。
「日本へ帰りたい!!」
迷うことなく今持っているチケットを捨て、新たな日本行のチケットを購入。
そして国際線に乗り込み日本へ向け出発した。
途中のドバイでは10時間の乗継時間を利用し、レストランで浴びるように酒を飲み二日酔いのまま日本へ帰国。
未だかつてこんなにも日本に帰って来れて嬉しいと思ったことは無かった。
しかし笑いも沢山あったし、皆目的を達成することが出来たのは良かった。
結果的に言えばかなり腹の立つ事柄が多かったが、不満の多い旅の方がかえって良い思い出になるというもんだ。
次回イランへ行く機会があれば…。いや、たぶん行くと思うけど、その時はちゃんとしたテントを持参して行きたい!!
Forbidden Journeyと言うよりはAnnoying Journeyだったな!