日本にもサソリがいる 〜マダラサソリに刺されてみたくて〜 (沖縄・八重山諸島)
日本にもサソリがいる 〜マダラサソリに刺されてみたくて〜 (沖縄・八重山諸島)
サソリといえば熱帯の毒虫というイメージを持っている人が多かろう。
ナミブの砂漠が、メキシコの荒野が、アマゾンのジャングルが似合うエキゾチックな生物である
だが、サソリはこの日本にだって生息している。
キョクトウサソリ科に属すマダラサソリ(Isometrus maculatus) と、コガネサソリ科に属すヤエヤマサソリ(Liocheles australasiae)の二種だ。
今回はこのうち、より大型になるマダラサソリについて、そして彼らの暮らしぶりについて記す。
※ヤエヤマサソリについてはこちらをどうぞ
いざ石垣島へ
マダラサソリは世界各地の熱帯、亜熱帯域に広く分布する、サソリ界きってのオリエンタル種である。
日本国内では沖縄県の八重山諸島に自然分布、小笠原諸島の一部島嶼に人為分布と思われる個体群が確認されている。
ジャパニーズスコーピオンハントの舞台は石垣島。
今回は石垣島でサソリ観察を行う。
石垣島での楽しみといえばマリンスポーツ、海水浴、石垣牛、そしてなんと言ってもサソリ探しである(※個人の感想です)。
刺されてみたい
これまでも石垣島を訪れるたびにマダラサソリを観察してきたが、今回は一つの目標を定めている。
刺されてみるつもりなのだ。
ヤエヤマサソリは人間に対しては無毒とされるほど毒性が弱い。そもそも人間の皮膚を貫けるかも怪しいほど貧弱な毒針しか持たない。
…まず断っておくが、僕はMではない。Mではない。
ではなぜこういう志向を抱いたか。それを説明するにはマダラサソリの存在を知った幼き日に遡らなければならない。
湿潤な森林地帯にはヤエヤマサソリが、乾燥した荒地や海岸沿いにはマダラサソリが各々暮らしている。両種が同一の場所で見つかることはほとんどない。
日本の昆虫を集めた図鑑を眺めていたときのこと。巻末の「昆虫でない虫」的なおまけページにこのマダラサソリが掲載されていたのだ。
解説には分布や大きさなどに加えて「毒は弱いが、刺されると痛い」と書かれていた。
日本にもサソリがいるの!という衝撃と同時に、この一文がなんだかすごくモヤモヤするものを胸に残した。
「刺されると痛い。で済んじゃうの!?」
「痛いってどんぐらい痛いの!?」
海岸に転がっているカラカラに乾いた枯れ木が狙い目。これをそっとひっくり返しては戻して探す
そもそも、サソリの毒の強さのアベレージがわからんのに「弱い」「痛い」って言われても。
「(サソリにしては)毒は弱いが、刺されると(三日三晩は脂汗が止まらないほど)痛い」ということかもしれないじゃないか。
痛みのタイプも見当がつかない。
ズキズキ系なのかヒリヒリ系なのかジンジン系なのか。…超気になる。だって僕そういうのすんごい知りたくなるタイプだから。でもMではない。
ある程度乾いた場所であれば積まれた瓦礫の中などからも見つかる。
で、当時の疑問を解くためにも、今回はマダラサソリを観察にとどまらず捕獲することにしたというわけだ。
さあ、海岸に転がるめぼしい枯れ木をひっくり返してみよう。
はい、いたー。コツを掴むとすぐに見つけられるようになるぞ。誰にも自慢できないスキルではあるが。
マダラサソリ探しにはいくつかコツがある。
まず、隠れ家となる木や石と、その下の土壌がほどよく乾いていることが条件。
あとは枯れ木であればある程度虫食いによる分解が進んでスカスカになっていること。
エサとなるシロアリが住んでいること。ここに気をつければ割と簡単に見つけることができる。
どう見ても立派にサソリ。これが日本で拝めるんだから楽しい。
くぼみに潜り込んでじっとしていることが多い。
サソリのいる木だと、同時にヤモリが休んでいることも多い。
サソリとヤモリが同じくぼみで身を寄せ合っていることも多い。お互い気にもとめていないのだろうが、仲は悪くないようだ。
こちらのマダラサソリはなんだかシルエットがおかしいぞ…?
なんと!背中に子供を背負っている。マダラサソリは胎生で、母親は仔サソリを生後しばらくこうして保育する。
刺された!けど…?
さあ、無事に見つかったマダラサソリだが、問題はこれから。
毒針で刺してもらわなきゃ。
マダラサソリは非常におとなしく…
軽くつまみ上げるくらいでは攻撃の意思すら見せない。お前そんなんでよく世界中で繁栄できてんなー。
だんだん可愛くなってくる。(※やりすぎ。危ないので真似しないように!)
なかなか刺そうとしてこない。軽くつついたりして怒らせてみると、ついに尻尾を振り上げて僕の指の腹に毒針を突き立てた!
刺さってないけど!?
…が、刺さらない!刺す力が弱すぎて、毒針が指の皮を貫通できないのだ。
もっと大型の個体なら、あるいは刺される側が皮膚の薄い女性や子供であればどうにかなったのかもしれないが…。
しかたがないのでより皮膚の薄い手の甲を刺してもらう。
ようやく刺されることができた。人差し指第二関節が患部なんだけど、写真じゃ全然わかんないね。たいして痛くないし、腫れ、赤みもすぐに引いた。…弱え〜。
チクッ!と鋭い痛みが走る。
しかしミツバチに刺された際よりもかなり弱い。
患部はほんのり赤くなった。
あー。こんなもんかー…。
さらに、赤みも痛みも1時間もすると消えてしまった。
もちろん体質によって症状は違うだろうが、少なくとも「激しい苦痛」を感じるようなことにはほとんどならなそうだ(※虫の刺毒にはアナフィラキシーショックなどで予期せぬ重篤な症状を引き起こす場合があります。決して真似しないようにしてください。)
でもなんだか、あの図鑑の筆者が「毒は弱いが、刺されると痛い」なんてそっけない書き方をした理由がわかった気がした。
なるほどなー。
そっくりさんに注意!!
ところで、東南アジアにはマダラサソリと同所的に姿形はそっくりだが、より気性が荒く毒性の強い別種のサソリが生息している。
マダラサソリそっくりだけど、騙されないように!
これは「ヒノモトサソリ(Lychas macronatus)」と呼ばれるサソリで、マダラサソリよりも尾が太く、体色パターンが若干異なることで見分けられる。
尾が太い、まだら模様が不明瞭、触肢の膝節に黒いグラデーション模様が入ることで見分ける。が、かくいう僕も専門家の方に同定してもらうまで識別方法がわからなかった。
ヒノモトサソリはまず動きからしてマダラサソリとは格が違う。
やたら足が速く、捕まえると凄まじい勢いで暴れ、ためらいなく毒針を突き立ててくる。
しかも、刺す力が強く、指の腹の皮も難なく貫く。
刺されてすぐの痛みの強さはスズメバチに近く、ジンジンと疼く痛みとビリビリと痺れる痛みが重なる。
人差し指の腹を刺してもらった。赤く腫れているのがわかる。患部は感覚が狂っていて、冷たいもの持つと熱く感じたりビリビリと痺れたりする。
患部はマダラサソリに比較してずっと強く赤く腫れ、神経に作用する毒なのか、冷たいものや熱いものが触れると電流が走ったようにビリビリと激しく痺れ、痛む。
この症状は二日もすればおよそおさまるが、なかなかに不快である。
東南アジアで「マダラサソリ」を見かけた際は、くれぐれもご注意を…。
もう一種のジャパニーズスコーピオン、ヤエヤマサソリについても近々紹介するよ!