キングサーモンのイクラ丼が食べたくて (カナダ・キャンベルリバー、バンクーバー島)
キングサーモンのイクラ丼が食べたくて (カナダ・キャンベルリバー、バンクーバー島)
つやつやとルビーのように輝く卵、プチッとはじける食感と口一杯に広がる濃厚なうまみ。
北の海と川がもたらす至宝の美味、イクラ。
日本で食べられるイクラはそのほとんどがシロザケや養殖ニジマスのモノだが、それでも十二分に美味しい。
では、もしそれが、サケの王様「キングサーモン」のイクラだったら…。
そんな究極のイクラ丼を求めて私は2015年9月末、カナダ•バンクーバーに降り立った。
スーツケースの中には、「さとうのごはん」をしのばせて。
説明しよう!
キングサーモンは、アラスカからカナダにかけての北太平洋を中心に生息するサケの一種。
ここカナダでは毎年9月初め頃からおよそ1ヶ月間、産卵のため川を遡上する。
この期間がキングサーモン釣りのベストシーズンとされるが、遡上の数は日によって大きく変わるのだ。
そんな状況でキングサーモンを手に出来るかどうかは
今回の旅の同行者のY君にかかっている。
リーマンフィッシャーY君にはキングサーモンをどうしても「フィッシングガイドをつけない自力開拓で」釣り上げたいという夢があり入念なリサーチをしていた。
さて、バンクーバーからレンタカーで移動する事2時間、日も傾きかけた頃、
目的のミッションという街に到着した。
「この角を曲がったところに釣具屋があるはず」
Y君は初めて訪れたこの街になぜかやたら詳しい。
というのも、半年前から、毎晩3キロずつ、川辺やその周辺を歩き回っていたらしい。
google のストリートビューを使って、バーチャル散歩。恐ろしいまでの執念…。
まずは、その釣具店で仕掛けについての情報収集をする。
熊みたいな店員さんが仕掛けの作り方を丁寧に教えてくれた。
しかけは、ショッキングピンクのふわふわがついた毛バリ
黄色とのミックスもいいらしい。きゃりーぱみゅぱみゅ的な色合わせでかわいい。
産卵のため川をのぼるキングサーモンは基本エサを食べない。
ところが、この派手なピンクの毛バリを卵だと思い
攻撃なのか、守るためなのか分らないが、反応するらしい。
そして、「キングを釣る上で最も大事なのは毛バリを川底ギリギリに流す事だ!」
と熱く力説された。
仕掛けが底ギリギリを流れる様にたえず浮きの位置を調整するのがポイントらしい。
「外道のピンクサーモンが釣れるなら底がとれていない証拠だ!」などなど情報取集を完了し、翌日の釣りに向け期待が高まる。
何としてもキングを!それも卵を持ったメスを手にしたい!!
そして、翌朝。快晴。
駐車場にはすでに釣り人のものらしき車でいっぱい。
森を抜け、川辺に出るとそこには驚愕の光景が…。
流木に繋がれた無数のキングサーモン‼︎!
こんなに簡単に実物に出会えるなんて…。
そして、キングの傍らにはきついパンチパーマをかけたアジア系のおばちゃんたちが数名、解体作業を行っていた。
エラを取り去り、血を抜き、腹を割いて、イクラはジップロックへ。次々とキングが解体されていく!!
そして、川の方に目をやるとさらに驚愕の光景が。
川の中にキングを狙う釣り人の長蛇の列があったのだ。
そのほとんどが現地在住の中国人。おそらくさっきのパンチおばちゃんの親族だ!!
しかも、なかなか頻繁にアタリがある様子。
「これは、すぐにキングが釣れてしまうのでは?」と思ったのも束の間。それはただの希望的観測でそう簡単ではない事に気づいた…。
実は頻繁にキングのアタリがあるのは行列の先頭から20メートルの間でのみ。
川幅が狭く深場になっているこの場所はキングの通り道になっているのだろう。
しかし、そのエリアには1m間隔で人が密集していて我らが入る余地は全く無い…。
このエリアでしかアタリは無い!
どうにかして上流に入れないかとしばらく観察していると…。
1人の釣り人にキングサーモンがヒット!!
すると、その勝者は「フィッシュオン」と声を張り上げながらキングを追って下流に移動しだした。
すると、空いたスペース分 下流側の行列が上流に動いた。
「これだ!!」
たとえ、行列の最後尾からスタートしても誰かが釣れる度にちょっとずつ上流に移動していく。
我慢強く待っていれば、いつかは激アツゾーンに辿り着くという作戦。
そして、15分に1回は聞こえてくる「フィッシュオン」の声。
目の前をキングの強烈な引きに耐えながら下流に下る釣り人達。
氷河から流れる冷た〜いカナダの川にパンいちで挑む強者も!
「きっと3時間も待てば激アツゾーン突入だぞ!!」と喜んでいたが…。
3時間後、進んだのは5mのみ
20人以上もの釣り人がキングと共に下流に下っていったのに…。
「これはおかしい…!」
ふと上流を見ると、ついさっきキングをかけて下流に下っていった中国人が何故か私の上流にいる。
なんと彼らはキングを取り込んだ後、当たり前の様に再び激アツゾーンに戻っていたのだ!
しかも、後から来たツレらしき人々が「おう!来たよ」みたいな感じで堂々と上流に割り込んでいく。
これではいつになっても、黄金のゲキアツ20メートルゾーンに近づけない。
カナダで雄大な釣りを想像していた私にとっては、カルチャーショックだ。
「セコい!セコすぎるぞ中国人!!」
結局この日、我々はキングサーモンを手にする事は出来なかった。
やたら釣れるピンクサーモン(カラフトマス)もイライラの原因になっていく。ファイトの度に真面目な日本人は行列の最後尾に戻るからだ。
そして、翌日。
朝5時にポイント入った。辺りはまだ暗い。
レギュレーションで暗い間は釣りは禁止なので、まだ誰も来ていないはず!!
しかし、すでに中国人グループが激アツゾーンを占領していた…。
しかも、昨日と全く同じ顔ぶれ。徹夜で釣ってたんじゃないかと思う程…。
この光景を見てY君がいきなり彼らに近づいていった。
そして…!
「グッドモーニング!」
満面の笑顔で列に割り込んでいくY君。
知り合いのふりをして激アツゾーンで釣りをする作戦だ!
「セコい!あまりにもセコい!!」
しかし、人類みな兄弟。意外にもすんなり激アツゾーンに入れてくれた。
Y君が正々堂々という言葉を忘れた瞬間。
そして、釣り始めて1時間。
ついにチャンス到来!
Y君の竿に待ちに待ったキングサーモンがヒット!
Y君は「フィッシュオン!」と自信のない英語で叫びながら、下流へ下り始めた。
引きはなかなかのもの。絶対に逃さないでほしい。イクラ丼がかかっているのだ。
私も、かなり迷ったが大事なゲキアツゾーンから離れ、
ギリギリと糸をだすYくんの竿を見守りながら下流へとともについていく。
キングは弱ったかなと思いきや何度も走りだし、また糸を出す。
浅瀬を必死に泳ぎ逃げようとする。20分ほど粘り、なんとかその体をつかんだ!
ジャーン!Y君の夢、ここに叶う。
1日、ひとり一本持って帰っていいというレギュレーションなのでもちろんキープ。
しかも念願のメスだ。私の夢も、間もなく叶う。
そして、それから2時間後、なぜだか私までキングを釣り上げてしまった。
勝因は、中国人に負けないように遠慮と恥を捨ててゲキアツゾーンに割り込んだこと。
隣の人との距離は50センチほど。緊張感のあるキャストを繰り返し、時には仕掛けを絡ませて謝りながらも、譲らない気持ちで粘った結果だ。
キングはとにかく引く。ジャンプもする。糸を緩ませないように気を付けながら、切られないように糸を出すというバランスが難しい。
時間をかけ、岸辺へと引き寄せ、なんとかキャッチできた。
大きさは、Y君のより一回り小さかった。
むしろ小さかったから、釣り上げられたんだと思う。
メスだと思ったけど、二匹もキープしても食べきれないので、こちらはリリース。
だが、この判断がのちに悲劇を招く…。
そして、キープしておいたY君のキングを川で下処理開始。
そこで衝撃が走った。
腹を裂くと、出てきたのは、スジコではなく白子…。
ウソだろ。オマエ、オスだったのか。
というより、なぜメスだと思い込んだんだろう。よくよく口をみると、ラーメン大好き小池さんのように少し波打っている。今となってはオスにしか見えない。
私がキャッチしたメス(たぶん)、リリースしてもうたやないか~!
でも殺してしまった以上、食べねばなるまい。
そのオスはホテルの巨大フリーザーを借りて一旦冷凍してもらった。
明日は、バンクーバー島へ移動して新たなポイントでキングを狙う。
まるまる冷凍されたキングと共に…。
翌日、フェリーでバンクーバー島へ。
これまたY君の入念な事前リサーチによる新たなキングポイントを探索。
今回のポイントは、想像通りの自然いっぱいで人気も少ないこれぞカナディアンリバー。
それもそのはず。ここは釣りキチ三平にも出てくる有名なエリアらしい。
釣り人のおじさんに話しかけてみると、数は少ないけどつれているようだ。
しかし、気になる情報も。
「昨日も夕方にここで釣っていると対岸に熊の親子がいたよ」「9匹見たよ」…。
おいおい、対岸ってこの川、橋もあるし、簡単にこっちに来れるんですけど?みなさん平然としてるのはナゼ?
その川でも二日ほど釣りをした。
川辺をハイキングしながら釣り糸を垂れたり、完全に森林浴トレッキングな感じで、とても癒やされた。
そして、恐れていた熊さんも出た。
彼らはサケに夢中なので、人間に見向きもしない。
お邪魔にならないよう、彼らの狩りと共存させてもらった。
しかし、この川でキングサーモンは釣れなかった。少し時期が遅かったようだ…。
バンクーバー島を去る最終日の夜
ここまで旅を共にした冷凍キングをいよいよクッキング!(釣りに夢中で料理するのが面倒くさかっただけなのですが…。)
お刺身はちょっとぶよっとしているけど、トロサーモの様に脂がのっていてうまい!
そぼろ状に細かく焼いて、缶のクリームソースとミルクで味付け。クリームシチューにも。
これは、間違いのない味。
今度はスモークサーモンとかにしてみたいな。
そんなこんなで、カナダの滞在は残すところあと二日。
バンクーバーに戻り、最初の川まで車を飛ばし、リベンジすることに決定!
この日は、週末で釣り人はさらに増えていた。
黄金激アツゾーンは相変わらず中国人のグループ占領している。
そして、下流側でも隣との距離30㎝、ギューギューだ。
糸も絡みまくり!でもあきらめきれない、「キングイクラ丼」。
しかし、釣れないまま日没を迎え、暗くなってきた。
残念ながらタイムアップ…。
規則で日が沈むと釣りは禁止。しかし!
驚くことに、中国グループたちはケミホタルを装着しだした。
夜釣りの準備までしてるのかよ~。どこまでも諦めない人たちでした。
そして、とうとうメスは釣れなかった。
重い足を引きずり、帰る準備をしていると、ドイツ人のオジサンが釣れたキングのメスの下処理をしていた。
もう、これしかない。
「おじさん、イクラちょーだい!」
すると、気のいいおじさんは、イクラを3分の1ほどをちぎって分けくれた。
ちなみに欧米人はイクラを食べる習慣は無いそうです。
いただいた、文字通りサーモンピンクのタマゴ。
筋をきれいにとって洗う。そして醤油につけこんで一晩ホテルの冷蔵庫に。
翌日、素敵なイクラ丼の完成。
一粒一粒が大きい。さて味は…。
イクラをかみしめるとプチッというすさまじい弾力。はじけ出るタマゴ汁。
きわめて濃厚、クリーミー、うまみが強く、とろみも絶妙。
人生で食べたいくらの中で一番美味しかった!
こうして何とか手にしたキングのいくら丼。
そんな、ドタバタ珍道中の旅を共にしたY君とこの春結婚した。
「新婚旅行どうする?」と相談した日から、彼はまた世界中を歩きだした。
もちろんグーグルアースを使って…。
今度はどこの川辺に連れて行かれるのだろう?