黄金ナマズを追いかけて(鳥取県)
黄金ナマズを追いかけて(鳥取県)
僕は、黄金ナマズを釣った。
今日は、僕が黄金ナマズに出会ってから、捕獲するまでの記録を綴ろうと思う。
出会いの場は水辺ではなく、偶然立ち寄ったコンビニだった。
店内には大きな水槽が置かれていて、その中に一匹のナマズが泳いでいた。しかし、ただのナマズではない。
一般的なナマズの体は暗い灰色をしているが、そのナマズは、茶色と金色のまだら模様だった。
店員さんに尋ねてみると、「鳥取県内で捕獲されたもので、珍しいから展示している」との事。
そう、ここは鳥取なのだ。
アマゾンでもコロンビアでもない。僕の生まれ育った鳥取だ。
魚の中にも色素の薄い個体、例えばアルビノなどがいることは知っていた。このナマズもそうした色彩変異個体なんだろう。
でも、そういう細々したことはどうでもよかった。僕の地元に、こんなに不思議な魚が潜んでいる。ならばそれを釣ってみたい。
それも、どうせなら全身金一色の黄金ナマズを。後に体表の一部分が黄変しているナマズもキャッチした。これでも十分珍しいのだが、全身が金色の個体はさらにずっと遭遇の機会が少ない。
次の日の深夜から、僕は鳥取中の川をライト片手に走り回った。
誰も、黄金ナマズを探し求めて、夜な夜な走り回っている奴がいるとは思わないだろう。仲の良い友人ですらも鼻で笑うはずだ。当の僕だって、正直に言うと依然として半信半疑のままだ。
釣ると決めた魚が本当に存在しているかどうかも確信が持てていないのだ。田園地帯の細い川を照らして回る夜が続いた。
来る日も来る日も僕の河川探索は続いた。
しかし、なかなか黄金ナマズの存在を確認することはできない。
探索開始から二週間。いつものように水辺を徘徊し始めると、小雨が降り出した。
気にも留めず、歩く、ライトで水面を照らす、歩く、水面を照らす…。
いつの間にか、この終わりの見えないルーチンワークが身についていた。
だがこの日、ついにこの単調な作業が止まった。ライトの光が落ちた先に、一瞬白っぽい魚が見えた。
錦鯉か?いや、違う。あの鰭、あのヒゲ、あの動き。…間違いなくナマズだ。僕の頭の中にいた黄金ナマズだ。
……本当にいたんだ。
でも、その事実に驚いている暇はない。とりあえずフットワークを軽くしてその姿を探すことに専念していた僕は、このとき釣竿を持ってすらいなかった。
一目散に、釣り具を積んだ車へ戻る。大急ぎで釣りの支度をして黄金ナマズの元へ引き返す。
釣り具の詰まった愛車へ戻り、大急ぎで準備を整える。
が、そこにあの白い影はもう無かった。必死に探すが、見つからない。その晩、再び黄金ナマズが姿を現わすことはなかった。
だが、ターゲットが存在すると確信できただけでも大きな収穫だった。
翌日からはさらに熱が入り、黄金ナマズを探して探して探しまくった。少しでも空き時間ができたらあの川へ車を走らせる。もう半分取り憑かれていた。
それでも、再会できない。気がつけば、あの日から2ヶ月経っていた。
また小雨の晩だった。いつも通りライトを片手に川沿いを歩いていると、あの黄金ナマズが再び僕の前に現れた。
「チャンス!!」
あの晩以来、探索時は必ず釣り具を携行するようにしていた。今夜は準備万端だ。
ナマズの進行方向に向かってルアーを投げ、念を込めて操作する。だが、興味を示すだけで食いつかない。
ルアーの種類や動かしを変えてみたり、あの手この手を尽くしたが、ついに釣り上げることはできなかった。
普通のナマズは何匹も釣れるのだが…。
そしてそれ以来、またも奴は行方をくらました。
日が経つにつれて、諦めと飽きが襲ってきて、黄金ナマズは頭の片隅に追いやられはじめた。
川へ足を運ぶ機会も徐々に少なくなっていった。黄金ナマズとの接触から4ヶ月が経過していた頃だった。
そんなある日、僕は友人2人と地元から少し離れた店で外食を楽しんでいた。
腹が満ちると、地元まで一時間半ほどの道のりを運転しなければならない。車に揺られ、友人二名は夢の中へ。僕は淡々と車を走らせる。
その道中。ふと、何かに呼ばれた気がした。
二人を乗せたまま、体が勝手に、あの場所に向けてハンドルを切っていた。
そう、あの日黄金ナマズに接触した場所だ。勘が働いたのだ。到着すると夢の中の友人らを叩き起こして、動画を撮影してくれるよう頼む。
なぜかはわからないが、今日は釣れる気しかしない。
僕は、夢中で仕掛けを用意し、遭遇ポイントに向かう。この日も、小雨が降っていた。
ライトで川を照らす。恐る恐る覗き込む。息を飲む。そこに黄金ナマズが……いた!!息を潜め、黄金ナマズの進行方向にルアーを投げる。この日のために用意していたルアーを岸際の水面で、溺れる虫のように小さく動かす。
次の瞬間だった。
「よっしゃーーー!!」
気がつくと、僕はアドレナリン全開で黄金ナマズを釣り上げていた。カメラを回してくれていた友人たちも含め、深夜の川辺で興奮状態に陥る。
僕と黄金ナマズとのゲームが終わった。
長い長い延長戦の末に、僕が勝利をつかんだ。ちゃんと記念撮影をするため、黄金ナマズを生かしながら夜が明けるのを待った。
いや、これは黄金ナマズに試されていたのかもしれない。黄金ナマズの存在を信じ、見つけ出せるのか?諦めずに追い続けられるだけの根性があるのか?果たして夢を現実にする程の運と能力を、自分が持っているのか?
僕は見事黄金ナマズの試練をクリアできたのだ。
黄金ナマズ捕獲のニュースは、あっいう間に鳥取中に広まった。
その後、一時的に鳥取の水族館「かにっこ館」に展示された黄金ナマズはたくさんの人を呼び、僕にも多くの出会いをもたらしてくれた。
釣り上げた瞬間に一緒に喜んでくれる友人がいたこと。黄金ナマズを通して、たくさんの人と出会えたこと。
これが最高に最高なんだ。これだから魚釣りはいつになってもやめられないんだ。
僕のゲームは、まだまだ続く。