コンゴ川の魚たち (コンゴ民主共和国)
コンゴ川の魚たち (コンゴ民主共和国)
数多の個性的な淡水魚を育む、中央アフリカを代表する大河、コンゴ川。その流域に国土を広げるのがコンゴ民主共和国である。
ザイールという旧国名の方が耳に馴染みがあるかもしれない。
首都キンシャサを少しばかり離れただけで、漁師町には電気もろくに通っていない。当然、灯りは火である。家は土造りで、上下水道は併せて母なるコンゴ川に任せきり。
2016年7月。未だ文明が届ききっていないこの秘境へ、私たちは未だ見ぬ魚たちを求めて飛んだ。
首都キンシャサ。通りは活気に満ちている。とにかく人が多い。
市場。建造物の色使いがなんとも熱帯的。
肺魚が食用として並ぶ。呼び名の通り肺を持ち空気呼吸を行うため、桶の中で生きたまま売られている。
プロトプテルス・ドロイ(Protopterus dolloi)
ヒョウ柄の肺魚。プロトプテルス・エチオピクス(Protopterus aethiopicus)だろう。
敷物に並べられた干物。ほとんどが淡水魚であるようだ。
珍しいカメや
ワニまで売られている。これも食用なのだろうか。
イモムシも大量に売られていた。一般的な食材らしい。魚というタンパク源が豊富にあるにも関わらず流通するということは、他に代えがたい食味の良さがあるということであろう。
キンシャサ近郊の保護施設ではボノボ(Pan paniscus)を観察することができる。
淡水魚の聖地にして最後の秘境、コンゴ川。
隣国との国境はコンゴ川の流心付近に走っており、水上を国境警備隊が往来する。
港は物流の要である。人が集まり、金とモノが行き交う。
ベースとして滞在する漁村へ。
コンゴ美女たち
カメラが珍しいようだ。レンズを向けると、子どもたちはこぞってポーズを取ってくれる。
iPadにも興味津々。
国外からの情報伝達がどこかで止まっているようだ。スパゲティも正しい茹で方が伝わっておらず、すべての麺が固まってお好み焼きのようになった状態で供される。
豚は高級食材。農地に放牧されており、買い手がつく度に犬を放って捕らえる。
漁師たちに今日の獲物を見せてもらう。
成果は上々なようだ。
漁師がワイルドで男らしいのは万国共通であるらしい。
未来の腕利き漁師
魚種は豊富。そのどれもが見慣れぬものばかり。
ナイルアロワナ(Heterotis niloticus)
アフリカンスネークヘッド(Parachanna obscura)。アフリカにも雷魚がいるのだ。この写真ではわかりにくいが、この種は鼻管がポリプテルスのように長く伸びる。
ポリプテルス・オルナティピンニス(Polypterus ornatipinnis)とフナのような体型のカラシンたち。
コブダイのように額が突き出たシクリッド。
シクリッドといえば、チダイにソックリな種も水揚げされていた。
Lates属の大型魚だが、よく知られるナイルパーチ(Lates niloticus)に比べて頭が大きく、寸詰まりな印象。
ぜひ、次は生きている姿を拝みたいものだ。
空気呼吸を行うウォーキングキャットフィッシュの仲間も、肺魚やスネークヘッドと同じく水を張った桶の中で生きたまま輸送・販売される。
全長1mを超える大型のものも見られた。
黄色い魚体に黒い斑点が非常に美しいナマズ
…だが、口元はかなりユニーク。
小型のシノドンティス類も多く獲られていた
オーネイトキャットフィッシュ(Auchenoglanis occidentalis)。長く伸びた口吻で水底を漁っていたのだろう。
腹の大きく膨れたナマズ。ハチェットフィッシュのような体型。
1m以上ある巨大なデンキナマズ(Malapterurus electricus)。観賞魚店ではまずお目にかかれないであろうサイズ。
ヒゲの先が枝分かれしている。円筒状のずんぐりした姿は、どこかジュゴンかマナティのようでもある。
モルミルス類も豊富。食用としてはもちろん、大型魚を釣る際の生き餌としても活躍する。
いわゆるエレファントノーズフィッシュ。
カラシン、ナマズ、シクリッドに負けず、彼らも多様性に富んでいる。平べったいのもいれば、
細長いのもいる。
そして、巨大なものも…。Mormylops anguilloidesだろう。
アフリカ大陸は南米と並ぶカラシン類の聖地。
ボトと呼ばれる大形のカラシン。
なぜか、やたら小顔なものが多い。
ボトは非常に美味で、コンゴ川で獲れる魚の中でも特に高値で取引される。
フナなどコイ科魚類に似たカラシンも多い。カラシン科とコイ科はかなり縁遠い分類群なのだが。これも収斂進化の一例か。
Labeo sp. か。こちらもコイによく似た顔をしているが…
尾筒が尋常でなく太い。
ピンクとグリーンに染まる鱗が美しい。
ショートノーズクラウンテトラ(Distikodus sexfasciatus)
そしてゴライアスタイガーフィッシュ(Hydrocynus goliath)。現地での呼び名は「ムベンガ」。今回の旅の最終目標はこの魚であった。
成魚の捕獲は難しいが、幼魚は比較的頻繁に網にかかる。小さくとも、鋭い牙は健在。
尾鰭下葉は鮮やかな朱色に染まる。獰猛そうな顔つきばかりがクローズアップされる魚だが、体型や体色も抜群に美しい。
コンゴ川は我々の想像を超える魚たちが泳ぐ秘境であった。自然だけでなく文化も人の気質も、何もかもが日本とはかけ離れている。しかし夕陽だけは、最果てにあってもなお等しく美しい。再びこの景色の中に身を置く日も、そう遠くはないだろう。