アジアアロワナの生息地はどんなところ?
アジアアロワナの生息地はどんなところ?
アジアアロワナについて、釣り人ならではの視点で解説する当コラム。
今回はアジアアロワナたちがどんな環境で暮らしているかを紹介していきます。
旅する古代魚アジアアロワナ
アジアアロワナは観賞魚の王様である!ということには前回少し触れましたが、この魚は現在も姿を変えていない「古代魚」としてもよく知られています。
ノーザンマラムンディ(サラトガ)との共通祖先から現在のアジアアロワナに分化したのが1億4000万年前、白亜紀の前期だと言われています。簡単に言えば恐竜が生きていた時代です。
昨年大ヒットした映画「ジュラシックワールド」は恐竜たちを現代に復活させてパークを作ったというストーリーでしたが、映画中に出てくるティラノサウルスやヴェロキラプトルはアジアアロワナと同じ白亜紀に生きていた恐竜でした。そんな生き物たちと時代を共にした魚が今、私たちと同じ時代を生きていると考えるとロマンをお感じませんか?
また、このように太古から生き延びてきた生物であることから、大陸移動説の生物地理学的根拠としてもアジアアロワナは度々用いられます。
大陸移動説というのはその名の通り、大陸は地球の表面を移動していて、その位置や形状が変動していくという説です(現在ではプレート理論の帰着説として一般的です)。その説の証明に用いられる生物地理学的根拠が、海を渡れない生物たちが別の大陸に隔離分布しているという事実です。
アロワナの仲間は多くの大陸に生息しています。南米大陸にはシルバーアロワナやブラックアロワナが生息していますし、オーストラリア大陸にはノーザンマラムンディ、そして当コラムの主人公であるアジアアロワナはユーラシア大陸の東、スマトラ島、ボルネオ島などアジアの広範囲に生息しています。
いずれのアロワナも海水どころか汽水にも一切順応できない魚です。そんな彼らが大陸を跨いでそれぞれ独自の進化をしていることから、大陸移動説の生き証人と呼ばれるわけですね。
長い時間と距離を旅しながらそれぞれの旅先で独自の進化を遂げたアロワナたち。
なんとカッコイイ魚なのでしょうか。
実際どこにいるの?
では、今この時代を生きるアジアアロワナたちは、一体どういった環境に棲んでいるのでしょうか。
生息地の第一条件に挙げられるのがまず、海水の一切混じらない水域であることです。つまり、必然的に川の上流部になります。
ただ私が実際に生息地を訪問した経験から言うと、流れの強い場所にはほとんど生息していないようです。基本的には大きな川の支流で、水の流れが極端に緩むエリアやラグーンに多く生息しています。また水そのものが清浄であることも非常に重要です。
一部例外も存在しますが多くのアロワナはそういった場所を好みます。水の流れが極端に緩む水質のよい場所…と考えていきますと、川全体を見渡しても条件に合致するエリアは非常に限られてきます。
写真は紅龍が潜む湖への入り口。川に注ぎこむブラックウォーターを遡上します。この魚を釣るためにはこのような場所に辿り着くことが第一歩ですね!
レストランにも小学校にも、シェルターにもなる水辺の植物
アロワナが棲んでいる水域には必ず、たくさんの植物が繁茂しています。アロワナにとって水辺の植生は非常に重要なもので、数多くの役割を果たしています。
まずは食事場としての役割です。これは想像に容易いと思いますが、アジアアロワナは海のブリやマグロなどの回遊魚のように泳ぎ回って魚を追い回すような餌の獲り方はしていません。植物の陰に隠れて、目の前に通った餌を捕食しています。
ある湖の漁師が語るところによると、かつてはバッタを餌にして簡単に釣ることができていたそうです。長い延べ竿をこしらえ、丸太のカヌーでポイントへ近づき、ちょうちんのようにバッタを垂らすと、水面を割ってアロワナが飛び出してきたと言います。
水に落ちた虫はアロワナにとって簡単に捕食できるごちそうですから、その虫たちが集まる水辺の植物群はアロワナたちにとっては最高のレストランと言えるでしょう。
先ほどの写真の水路を進んだ先にある湖です。ボートマンを撮っているわけではないのに、振り返ってドヤ顔をキメてきます。なんとも言えない気持ちになる写真ですが、植物の量が豊富であることは理解いただけるでしょう。
また、アロワナは子どもを口の中で育てる習性でも有名です。雨季になると親のアロワナたちは大事に育てた子どもたちを口から吐き出し、親離れをさせます。その時期が雨季であることの意味は植物にあります。
アジアアロワナが生息している東南アジアは日本と違い、明確な乾季と雨季があります。乾季と雨季で水位が10m以上変わってくる水域も存在します。
上の写真は乾季に撮影したものですから、雨季には背景の植物たちはおろか、周囲のジャングルまでもが全て水没してしまうわけです。
生まれたばかりの稚魚にとって、植物は外敵から身を守るシェルターになります。アロワナの稚魚たちが集まってすくすく育つ小学校としての役割も水辺の植物は担っています。
大きくなるとあんなに勇ましいアジアアロワナも、赤ちゃんの頃はこんなにかわいいのです。この子たちを守るのもまた植物の役目なのですね。
当然、鳥やワニなどの眼を避けるために成魚も茂みに隠れます。水辺の植物がなければアジアアロワナの生活は成り立たないのです。
アジアアロワナの隣人たち
ここまで、アジアアロワナの生息環境について紹介してきましたが、ここでは同じ水系に暮らす「お隣さん」たちにもスポットを当ててみます。
今回は圧倒的にその数が多い、カプアス川水系の魚たちを紹介します。
ジャイアントスネークヘッド
最近では釣り人たちにもお馴染のこのお魚。アジアのルアーフィッシング界のスーパースター、現地名”トーマン”です。
タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールなど広い範囲に分布するこの魚ですが、生息する場所により模様や体色が大きく違う魚でもあります。写真はアジアアロワナの棲むカプアス川水系の個体ですが、例えばタイで釣りあげられた個体と比べてみると、かなり印象が異なります。
ちなみに水中の生態系では、かなりの上位に君臨する魚です。獰猛かつ狡猾なハンターで、他の生き物はこの魚に怯えて生きています。
オセレイトスネークヘッド
フラワートーマンとして熱帯魚店でもお馴染のスネークヘッドです。体側に咲く赤い花柄模様がかわいらしいですね。
この魚の中には、体が美しいブルーに染まる個体も存在します。その色は何にも例え難い美しさで、その写真はまたこの連載でも登場するかと思います(というか、実は僕のプロフィール画像に写っている魚がまさにそれなんですが)。
そうして魚を美しく染め上げる奇跡の水が、アジアアロワナの赤い輝きの秘密そのものなのでしょう。
ダトニオプラスワン(ボルネオ・タイガー Datonioides microlepis)
(写真提供:Yamane Masayuki / Yamane Hiroyuki)
熱帯魚界の大スター、ダトニオイデスもお隣さんなのです。なんと贅沢な水域なのでしょう。
現地ではイカンリンガウ(イカンは魚の意)と呼ばれています。一般的にシャムタイガーより小さいと言われていますが、現地ではそうでもないようですよ…。これは次回訪れた際に改めて検証しようと思っています。
グラスキャットフィッシュの仲間
(写真提供:Yamane Masayuki / Yamane Hiroyuki)
(写真提供:Yamane Masayuki / Yamane Hiroyuki)
(写真提供:Yamane Masayuki / Yamane Hiroyuki)
魚体が透き通った小さなナマズ、いわゆるグラスキャットの仲間は夜釣りでたくさん釣れます。網でもたくさんとれます。唐揚げにすると美味しいん魚です。この仲間はとにかく種類が多いです。種の同定は観賞魚フリークであっても困難を極めるでしょう。それぞれよく似ていますが、よく見ると細部の特徴が違っているのです。
アポロシャーク
水上家屋の下でとにかくよく釣れる魚です。個人的アポロシャーク系のLuciosoma trinemaだと思いますが・・・いかがでしょう。
ナマズ・フナ類
ナマズの種類がとにかく豊富なのもカプアス水系の特徴です。右上にはまたもやグラスキャットが…。フナっぽい魚はProbarbusの一種だと思います。
パンガシウス
パンガシウス系の稚魚はとにかく沢山採れていました。こちらも唐揚げにされます。
ラスボラの仲間
恐らくRasbora sp.だと思います。自分より大きなワームを追いかけて、とりあえず後ろにくっついている小さな針を食ってしまうバカな子です。
ワラゴレイリー
現地でデジカメ画像をディスプレイ越しに撮影した粗い画像ですが、とにかくインパクトが強かったので紹介します。ワラゴレイリー(Wallago leerii)という東南アジア最大級の大ナマズ。…サイズが規格外です。これは僕が現地を訪れる2週間前に捕獲されたもの。この巨大サイズは本流で獲れるそうですよ。
…なんだか熱帯魚小図鑑のようなコーナーになってしまいましたね。
いかがでしたでしょうか。アジアアロワナの棲む環境について少しはおわかりいただけたかと思います。次回はアジアアロワナを考える上で絶対に無視することの出来ないワシントン条約について詳しく解説していきます。
「条約」と聞くと堅いお話をイメージされるかもしれませんが、そんなことはありません。構えず読んでいただければ、きっとワシントン条約を身近なものとして考えていただけるのではないかと思います。ではまた次回、お会いしましょう。