アジアアロワナってどんな魚? 〜その分類と各タイプの特徴〜
アジアアロワナってどんな魚? 〜その分類と各タイプの特徴〜
みなさんは「アジアアロワナ」という魚の名前を聞いて、どんな魚を想像するでしょうか。
この名前を聞いてすぐに、中国マフィアが座っている椅子の後ろで優雅に泳いでいる赤い魚をイメージした方はカンフー映画好きかもしれませんね。
それ以外の方ですとアクアリストでもない限り、ピンと来ない方がほとんどだと思います。逆にアクアリストの方には、熱帯魚の王様としてなじみ深い存在でしょう。今回は連載の第一回目ということで、この魚をよく知っている人にはおさらいの意味を込めて。反対に「名前を聞いたのもはじめて!」という人には「アジアアロワナってこんな魚なんだ!」と興味を持っていただけるように解説していきたいと思います。
色とりどりのアジアアロワナ!
赤、金、緑、青……。実にバリエーションに富む体色を持つのがアジアアロワナという魚です。ですが学術的には2種類のアジアアロワナしか存在しません。
しかもそのうちの1種は2012年に新種として登録されたばかりのアジアアロワナです。
古くから「アジアアロワナ」として飼育されてきた魚は、いずれも共通の学名(Scleropages formosus)をあてられた同種と見なされています。
熱帯魚屋さんに行くと、真っ赤なアジアアロワナも居れば金色の魚もアジアアロワナもいます。けれど、種としては同じ魚なのです。こんなに体色の違う魚が同じ種として扱われているのはとても不思議なことですね。
種としては同じでも、この魚は体色によって商業的な価値が大きく変わってきます。一般的なアジアアロワナ(S. formosus)を色別に大別すると5タイプが見られ、それに新種のアジアアロワナ(S. inscriptus)を加えると、計6タイプのアジアアロワナが存在していることになります。
以下に詳しく紹介していきます。
1.グリーンアジアアロワナ(青龍)
最もポピュラーなタイプのアジアアロワナです。
タイランド、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、シンガポールなど東南アジアの多くの地域に生息しています。
環境破壊や過度な漁獲により生息数が減少していますが、他のタイプのアジアアロワナと比較すると危機的な状況には陥っていないと言えます。
「グリーン」という名の通り、背に深緑色が入ります。しかし、体の側面や腹面は銀色や白色なのでパッと見た印象では「緑じゃないじゃん!」と思われるかもしれません。「ブラックバスって体は別に黒くないよねー」という感覚と同じですね。
アジアアロワナのなかでは最も「普通に魚らしい」色をしており、なおかつ希少性も高くないので、観賞魚店では比較的安価に取引されています。
2.マレーシアゴールデンアジアアロワナ(過背金龍)
(写真提供/協力:ユニバーサルアクアリウム)
マレーシア西部のごく限られた水域のみ生息するアジアアロワナです。
背から尾まで隙間無く金色に染まる美しさは神々しいほど。商品としての価値はアジアアロワナの中でも最上級。激しい乱獲の憂き目に遭っており、本タイプの自然個体群は危機的状況にあると推測されます。
鱗の一部が青くなる藍底過背金龍(ワイルドブルー)と呼ばれるタイプのアロワナもこのマレーシアゴールデンにカテゴライズされます。
3.バンジャールアジアアロワナ(黄龍)
ボルネオ島南部に生息する、体色が黄色に染まるタイプのアジアアロワナです。
発色前の稚魚は後から紹介するレッドアロワナと区別することが難しいため、かつては業者がレッドアロワナと偽って販売していたこともありました。バンジャールアジアアロワナそのものも魅力を持つ魚なので、偽物として売られるのはバンジャールアロワナ自身としても心外だったことでしょう。
現在ではレッドタイプとこのバンジャールタイプを交配させたアロワナが1.5紅龍として出回っています。この1.5紅龍のおかげでレッドアロワナに手が出ない方も赤いアジアアロワナを楽しむことができるようになりました。
ちなみにバンジャールというのは生息地の地名です。
4.スマトラゴールデンアジアアロワナ(紅尾金龍)
(写真提供/協力:ユニバーサルアクアリウム)
インドネシアのスマトラ島に生息しているアジアアロワナです。
筆者がはじめて生息地へ探しに行ったアジアアロワナで、個人的に思い入れのあるタイプでもあります。
体色は金色で背には黒色が入るのが特徴です。上記のマレーシアに生息するタイプのゴールデンアロワナとはここで見分けることができます。個体によって差はありますがマレーシアのゴールデンアロワナは背中まで金色が巻きます。
鰭の先端が赤黒く染まるのもスマトラゴールデンアジアアロワナの特徴です。紅尾という名前はここからきています。
後からご紹介するレッドタイプに比べると美しく育てるのに養殖、飼育が比較的容易で(その理由はいずれこの連載で触れたいと思います)日本のショップでも見かける機会の多いタイプです。
ただし自然個体群は、マレーシアゴールデンアジアロワナほど深刻ではないものの、やはり絶滅の危機にあると言えます。
2013年にスマトラ島のプカンバルを訪れた際にインドネシア政府の役人とこのアロワナについて話を聞く機会がありました。彼によると、スマトラ島では絶滅を防ぐため、2011年以降は一切の捕獲を禁じているとのことでした。
5.レッドアジアアロワナ(紅龍)
(写真提供/協力:ユニバーサルアクアリウム)
アクアリストの方々がアジアアロワナと聞いて、真っ先に思い浮かべるのがこのレッドタイプの紅龍ではないでしょうか。アジアアロワナの中のアジアアロワナです。
最も希少かつ、高値で取引されています。今は比較安い個体も出回っていますが(それでも数十万円はします)、極上の個体は車が1台買えてしまう程のお値段です。
自然下での生息地はごく限られていて、インドネシアの西カリマンタン州を流れるカプアス川水系にのみ生息しています。その限られた水系の中でも、棲んでいる場所によって体色や体形が異なってくるので、本タイプはさらに細かく分類していくことができます。
こちらの細かい分類についてはまたこちらの連載のどこかで触れたいと思っています。
6.チタニウムゴールデン(ミャンマーアロワナ)
(写真提供/協力:ユニバーサルアクアリウム)
アジアアロワナの中で唯一別種として認定されているのが、ミャンマー南部のごく一部に生息するチタニウムゴールデンです。
2012年に新種として記載されたばかり。当時、アロワナファンに大きな衝撃を与えた魚でもあります。
ビルマタイガーやナミグリーンアロワナなど多くの呼び名がありますが、いずれも同じ魚(Scleropages inscriptus)を指します。
側面に特徴的な模様が入り、通常のアジアアロワナとは大きく異なった印象を受けます。別種として認定されるのも納得です。
…以上が大きく分けた6タイプのアジアアロワナです。
この6タイプの中でも細かい特徴によって細分化されていくのですが、すべて解説していくと非常に長い話になってしまいます。初回のうちは、基本的な解説にとどめておきます。
・釣り人の視点から見るアジアアロワナ
筆者は決してアジアアロワナの飼育者ではありません。飼っている魚はスネークヘッドです(笑)。
実は、筆者は釣り人としてアジアアロワナを追っているのです。
飼育者とは違う目線でアジアアロワナと接しているからこそ、アロワナを飼育されているアクアリストの方々にも、アジアアロワナのことを全く知らなかった釣り人の方々にとっても面白いお話が出来ると思っております。
この連載では筆者がアジアアロワナを追いかける中で知り得た知見ーー。生態や直面している問題、原産地の現状、この魚を取り囲む法律に至るまで、ディープなアロワナの世界を皆さまにお届けしたいと考えています。
今回はさしずめ「アジアアロワナ概論」とでもいうところです。次回はアジアアロワナの生活について深く足を踏み入れていきましょう。