ルースターフィッシュ、ジャッククレバル、クベラスナッパー… 南米コロンビアのオフショアフィッシング
ルースターフィッシュ、ジャッククレバル、クベラスナッパー… 南米コロンビアのオフショアフィッシング
2016年の3月、僕はピーコックバスを釣りに南米コロンビア共和国を訪問していた。
多くの課題を残しつつオリノコ水系での釣りを終え、もう1つの目的を果たすため、太平洋を目指して国内を大きく移動しはじめた。
次なるターゲットはフエダイ科の大型種、クベラスナッパー(Lutjanus novemfasciatus)。
大きく伸びた背鰭が特徴的なルースターフィッシュ(Nematistius pectoralis)、そして長い胸ビレを持つ、同サイズのロウニンアジ、すなわちGTよりも強く引くと言われる、ジャッククレバル(Caranx caninus)の3種。ピーコックバスをも大きく凌ぐ海の怪力たちだ。
まず奥地から首都ボゴタへ戻り、第2の首都メデジンへ向かう。
さらにローカル空港から小型セスナでアンデス山脈を一気に飛び越え、太平洋に面したアグアテ村を拠点にボートでパナマ共和国の国境付近までを探索しつつ魚を追っていく計画である。
コロンビア共和国第2の首都メデジンにあるホセ・マリア・コバルト空港に到着したのは深夜。
今回お世話になるコロンビア人のアルベルト。ニックネームはベト(左から2番目)。彼の自宅に宿泊させて貰うことに。それにしても、まぁー立派な豪邸ですこと。
「好きに使ってくれよ」と言われたレゲエの神ボブ・マーリーと偉大なシンガージョン・レノンが見守るゲストルームにはシャワーもトイレも完備されネット環境も完璧。
翌朝、メデジンのはずれにあるローカル空港へ。
目的地の太平洋に面した漁村までは陸路でも行けるらしいのだが、一気にアンデス山脈を飛び越えてしまった方がずっと早いし楽だとか。アドバイスにしたがって、最速の移動手段を選択した。
搭乗時間際になり、激しく降り出した雨により大幅に時間を遅らせて飛び立つことに。
一気に高度を上げ、
アンデス山脈と雲の間を飛んでいく。
2時間30分程の飛行時間を経て、今回の拠点となるアグアカテ村の上空に差し掛かった。
拠点とするアグアカテ村は太平洋に面したアンデスの麓に広がる集落。人口はさほど多くなさそうだ。
村のはずれにある荒地のような滑走路へ、やや強引に着陸しする。
空から見るかぎり、目立ったものは無さそうだったが、とりあえず村を車で徘徊してみることにした。
通りを塞ぐ牛、牛、牛、牛。
南米といえば底抜けに陽気なイメージだったが、村の雰囲気は意外と閑静。
村で唯一の桟橋から今回の舞台となる太平洋を眺めてみたり。
コロンビア軍払い下げの舟で弾丸を跳ね返す分厚い鉄を使用して作られた、村一番の貨物船。
この村は数年前までは、アンデスの山奥で作られたコカインを他国へ運ぶ中継地点として、何かと衝突が絶えなかったそうだ。
しかし、現在はそうした問題も解消されて、すっかり静かな村になったのだという。
この日から宿泊先は村で唯一の場違いなほど奇麗なプール付きのホテル。もちろん、エアコン、シャワーも完備されている。その上コーヒーは飲み放題。ただ、良くあることだがネット環境は不調で一切使えず。
ホテルの壁に無数に張り付いてる小さなヤモリ。動きが遅いから簡単に捕まえられる。
灯りに集まる昆虫の中には、異彩を放つオオアゴヘビトンボの姿も。
翌朝からいよいよ出航。もっとボロいボートだろうと思っていたが、意外にも船外機×2、GPS、そして魚探まで搭載したハイスペック仕様だった。
こちらのコロンビア人グールプにちゃっかり紛れ込んで出航。彼らも快く歓迎してくれて、アウェー感は全く無い。
ザトウクジラが尾を水面に叩きつけるシーンに遭遇する。もっと近くで見たいと要求したところ、あの行動は威嚇行動だから危険だと教えられた。
「おい!エイスケ!先頭はオマエにくれてやる!岩場に向かって投げ続けろ!」
遠方からのゲストであるからだろうか。一番釣りやすいポジションであるボートの舳先を譲ってもらった。以後、ありがたくこの特等席でルアーを投げさせてもらうことになるのだが、のちに暗黙のルールが存在していることを知る。
先頭に立つ者は休憩を取ることが許されないのだ。疲れる。程なくして、赤い塊が急浮上してきてルアーへ激しく襲い掛かった。
最初に登場したのは、中南米の海域に広く生息するクベラスナッパー。ここは太平洋側なので、厳密にはパシフィッククベラスナッパー/Pacific cubera snapperという種らしい。
鋭い牙を備えた厳つい顔つき。顎の力も相当強そうだ。大きさは、まだまだ子供。50キロ程度まで成長するらしい。
日本でも目にするゴマフエダイにそっくりだが、別の種類のようで「yellow pargo」と呼ばれていた。このサイズでも大型ルアーに飛び出してくる。
こっちのフエダイは「red pargo」と呼ばれてた。
海面に異変を感じて目をやると、小魚の群れに無数の鳥が突っ込んでいくのが見えた。
きっと、海中には小魚を捕食する大型のフィッシュイーターが居るはずだ。
大物を求めて全員が必死にルアーを投げ込む中、今晩のオカズ確保に燃える者が現れた。
この勇姿。彼の熱意に押されるように、ボートは小魚の群れめがけて進み始めた。
迷うことなく、小魚の群れのど真ん中へ投網を放つ。
案の定、持ち上がらない程のアジが網いっぱいに入った。船上がアジで埋め尽くされていく。
コブダイの若魚によく似た魚もアジ混じって1匹だけ獲れた。鮮やかだ。
アジ祭りのどさくさに紛れて、ササッと釣って見せたベト。立派なジャッククレバルだ。
僕もビッグサイズのジャッククレバルに強烈な引きを味わわせもらった。大きく伸びた胸ビレがなんとも印象的な魚だ。
顔だけ見たら同じギンガメアジ属のロウニンアジにそっくり。そして、この魚は大小関わらずよく釣れるし、よく引く。
そして、新たな好敵手との出会いは突然やってきた。
「オイ!ベト!あれはなんだ?」
不思議な光景に思わず声を出してしまった。視線の先にあったのは、海面から無数に突き出た動く“枝“状の何か。
「あれは、ルースターフィッシュの背ビレ群れだ!」
「なかなかの大群だぞ!静かにボートを近づける、今のうちにルアーを換えろ!」
群れのド真ん中に放り込る距離まで間合いを詰めた所で、渾身の力でルアーを送り込んだ。
どうやらチャンスは1回しかない雰囲気だ。
「絶対、止めるな!絶対止めるなよ!わかったな!」
海面か大きな背ビレを出した状態でじゃれつくように集まりだすルースターフィッシュ。
喰いつきそうで、喰いつかない攻防戦が30メートル程続いたとき、ひときわ大きな背ビレを出して追いかけてくるルースターフィッシュにビックリて、あれほど言われたのについついルアーの操作を一瞬、止めてしまった。
「こんなチャンスはなかなかない」
「エイスケ!オマエはおしまいだ」
一方、ベトは。デキる男は違うな。
見事なボディライン、長く伸びた背ビレ。ヒット後は激しいジャンプを何度も立て続けに見せてくれる。生息域は主に中米の海域。
桟橋へ帰ってきた。これでアグアテ村を拠点とした釣行もおしまいだ。
メデジンの街まで戻ってくると、みんながパーティーを開いてくれた。誰もがとにかく前向きで明るい。
標高が高いからなのか?メデジンの夜は冷え込む。
ベトたちが問いかける。
「エイスケ!これからどうすんだ?」
僕は答える。
「一旦、日本帰って来年また出直して来るよ。」
こうして、沢山の課題と約束を残して、僕のコロンビア共和国での釣行は終わった。