世界最大級淡水魚の一角 「ピラルク」という魚
世界最大級淡水魚の一角 「ピラルク」という魚
世界最大級の有鱗淡水魚
アマゾンの巨大魚「ピラルク(Arapaima gigas)」は長らく淡水魚ファンにとっての憧れ、ヒーロー的な存在であり続けてきた。
現在でこそヨーロッパオオナマズ(Silurus glanis)やプラークラベーン(Himantura chaophraya)、チョウザメ類など他の候補が知られるようになってきたが、ひとふた昔前までは「世界最大の淡水魚」というのはピラルクの代名詞であった。
東南アジアの河川に生息するエイ、プラークラベーン。淡水域(汽水域含む)に生息する最大級の軟骨魚類。
アリゲーターガー(Atractosteus spatula)も大型の個体は全長2mを大きく超えて成長するとされる。「世界最大淡水魚」の候補は意外なほど多く、かつそれを確定することが非常に難しい。
ピラルクの全長は3mにも達する。
それに迫る、あるいは凌ぐ淡水魚は確かに存在するが、条件を「魚らしい鱗を纏ったもの」に限ってしまえば本種の右に出るものは無い。
有鱗淡水魚最大の座を巡ってはナイルパーチ(Lates niloticus)が対抗馬として挙げられることも多い。だが、かの魚がピラルクの最大級個体を体長で上回るとは考えにくい。有鱗淡水魚としては最重量級のナイルパーチ
しかし、体重対決ならばドラム缶よりも太い胴回りを持つナイルパーチに軍配が上がることもあるかもしれない。
「世界一大きな淡水魚」論争はロマンにこそあふれているが、なかなかややこしい議題なのである。
巨大な「生きた化石」
ピラルクは単に巨大というだけでなく、太古の昔からその姿を変えていないいわゆる「生きた化石」としても知られている。
彼らが出現したのは白亜紀、恐竜たちが地上を支配していた時代であるとされる。実に一億年以上も前のことである。
これは同じアロワナ科に属すアジアアロワナ類とほぼ同時期である。
分布:アマゾン川流域
ピラルクは南米大陸北部に広がるアマゾン川流域に広く生息している。熱帯雨林の河川やその周辺の三日月湖(ラーゴ)をシーズンごとに回遊している。
なお、ピラルクの名は元はインディオらの呼び名(pira=魚 + uruku=赤い顔料を採る木の実。赤く染まる魚体後半部に由来)で、主にスペイン語およびポルトガル語圏で定着している。
一方、ガイアナ共和国など英語圏では属名のArapaima(アラパイマ)の名で呼ばれており、欧米諸国でもこの呼称が一般的となっている。
利用・・・肉は食用、鱗や舌も使える
ピラルクは可食部が多い上に、その肉はアマゾンの魚の中でも美味な部類である。そのことから食用として珍重されているが、食用目的の乱獲が個体数を激減させている。現在はワシントン条約によって国際取引が規制されている。
ただし、近年は養殖技術が確立されており、南米各地はおろか東南アジアでも盛んに養殖が行われている。養殖された種苗は鑑賞魚として輸出されることもあるようで、稚魚が安価で販売されているのもよく見かける。
また、その巨大さゆえに肉以外の部位も利用される。
乾燥させたピラルクの舌の骨。突起の並ぶ特殊な形状。
ラテン語の科名であるOsteogrossidaeは日本語に訳すと「骨の舌」なる意味である。その名の通り、舌には骨が通っているのだが、その表面には細かな突起が密に並んでおり、一部の原住民はこれはおろしがねとして利用すると言われている。
また、大きな鱗は硬い上に表面がザラザラしており、爪磨きやヤスリとして利用される。あるいは、工芸品に利用されることもある。
ファイトは短時間で。リリースは迅速に。
現地の漁師はピラルクが水面直下を漂い泳ぐ性質を利用し、川面や湖面へ突き出た樹の上からモリを撃つ伝統漁法で本種を捕獲しているという。
一方で個人が遊漁として捕獲しようとする場合、その方法は必然的に強靭な釣竿、糸、針を用いた釣りに限られる。
さほど泳ぎの得意な魚(いわゆる「引く魚」)ではないが、圧倒的な体格と筋力をうねらせるファイトは迫力満点。
魚の切り身などのエサでもルアーでも釣り上げることは可能で、欧米諸国の釣り人を中心にゲームフィッシングのターゲットとしても注目を集めている。
ただし、希少な魚であるがゆえ、各フィールドで厳しいレギュレーションが設けられていることが多い。
そして、強靭そうな外見に反して意外にもピラルクという魚は弱いのだ。
細い糸や針を使用した際などにファイトが長引いたり
写真撮影に時間をかけすぎてリリースが遅れたりすると、非常高い確率で絶命してしまう。現地の漁師やガイドの指示を仰ぎつつ、スムーズなキャッチアンドリリースを心がけたい。
写真撮影はスピーディーに!リリースは早いうちに、しかしじっくりと回復の間を与えてから行う。