国立公園指定へ! 「やんばる」の生き物たち(沖縄県・本島北部)
国立公園指定へ! 「やんばる」の生き物たち(沖縄県・本島北部)
沖縄本島北部に広がる鬱蒼とした山林地帯。通称“やんばる”。
ヤンバルクイナをはじめとする固有種を含む個性的な生物を多数育むことで知られる原生林である。
2016年に「やんばる国立公園」の名で国内33か所目の国立公園として指定される方針が明らかになったことも記憶に新しい。
しかし、ヤンバルクイナやテナガコガネ以外には具体的にどのような生物が分布しているか、一般にはあまり知られていないのも事実。
本記事では林道沿いで見られる小動物を中心に、やんばるで遭遇できる生き物たちを写真で紹介していきたい。
スダジイやヒカゲヘゴなど亜熱帯ならではの木々が生い茂るやんばるの森。細く短い河川が無数に走っており、爬虫・両生類の宝庫となっている。
天然記念物となっている地上性のヤモリの一種。クロイワトカゲモドキ(Goniurosaurus kuroiwae)。
体や尾の模様は成長の程度によって変わってくる。個体差も大きい。
やんばるでもっとも凛々しい顔立ちをした生物かもしれない。
赤ん坊の小指ほどしかない幼体もよく林道の路上に出ている。
ミナミヤモリ(Gekko hokouensis)やホオグロヤモリ(Hemidactylus frenatus)など、ヤモリも複数の種が生息している。
沖縄と言えば、ハブ(Protobothrops flavoviridis)。近年はずいぶんと数が減っているようだ。ホンハブとも。
より小型(ハブに比べて太短い)のヒメハブ()。こちらは個体数も多く、頻繁に出会う。ハブはネズミなどの哺乳類を主食とするのに対し、本種はカエル類をより好むとも言われる。そのためか、水辺で遭遇することが多い。
ヒメハブの牙
無毒なヘビも多い。鮮やかな緑色が美しいリュウキュウアオヘビ(Cycophiops semicarinatus)。
体色は派手だが無毒なアカマタ(Dinodon semicarinatum)。ただし、捕まえると悪臭を放つ。
無毒とはいえ、咬まれるとそこそこ痛いので注意。
国の天然記念物であるリュウキュウヤマガメも頻繁に開けた場所へ現れる。だが残念なことに路上で車に轢かれる悲しい事故も多発している。
イボイモリ。原始的な形質を残していることから「生きた化石」とも呼ばれる。県の天然記念物。
こちらはシリケンイモリ(Cynops ensicauda))。一見するとアカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)によく似ているが、体色は地域や個体によって非常に変異が大きい。
道路の上で眠そうにしているオキナワアオガエル(Rhacophorus viridis)。車に轢かれそうだったので、撮影後に森の中へ返した。
やんばる固有のカエルであるハナサキガエル(Odorrana narina)。環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。
リュウキュウカジカガエル(Buergeria japonica)は沖縄本島でもっとも普通に見られるカエル。幼生に耐塩性があるのか、海岸近くにまで出現する。
地表を飛び跳ねる姿がかわいらしいヒメアマガエル(Microhyla okinavensis)。アマガエルと名はついているが、アマガエル科ではなくヒメアマガエル科に属す種(以前はジムグリガエル科に分類されていた)。
そして、「日本一美しいカエル」とも形容されるイシカワガエル(Rana ishikawae)。
環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されている沖縄県指定の天然記念物。捕獲などはご法度。
緑が基調の体色は苔むした岩の上では保護色として機能する。
緑地にくすんだ金色が散る背面。日本一美しいと言われるのにも頷ける。
標高の低いエリアではヤシガニ(Birgus latro)や
オカヤドカリ類も出没する。
サワガニを巨大化させたようなオカガニ類も姿を見せる。
虫だって数えきれないくらいの種が生息している。こちらは花形のオキナワノコギリクワガタ(Prosopocoilus dissimilis okinawanus)。
オキナワヒラタクワガタ(Dorcus titanus okinawanus)。雌や小型の雄は集落の街灯や自販機に飛来することも多い。
ナナホシキンカメムシ(Calliphara exellens)。タマムシのように美しいが、やっぱり臭い。
やんばる固有の大型キリギリス、ヤンバルクロギリス(Paterdecolyus yanbarensis)。成虫になっても翅は生えない。成虫の出現期は秋で。
林道沿いの藪に多いタイワンウマオイ(Hexacentrus unicolor)。肉食性が強いようで、コオロギやガを捕食している場面によく遭遇する。
神秘的な美しさを感じるセミの羽化。10月に遭遇したので、秋に活発になるオオシマゼミ(Meimuna opalifera)だろうか。
美しいリュウキュウハグロトンボ(Matrona basilaris japonica)
毒々しい見た目だが無害なシンジュサン(Samia cynthia)の幼虫。
シンジュサンの成虫(※写真は長崎県対馬産の個体)
ミドリグンバイウンカ(Kallitaxilla sinica)
日本最大の徘徊性クモであるオオハシリグモ(Dolomedes orion)。
一方、こちらは日本最大の造網性クモ、オオジョロウグモ(Nephila pilipes)。やんばる、クモ嫌いにはちょっと辛い空間かもしれない。
ヒラコウラベッコウガイ(Parmarion martensi)。一見、ただのナメクジだが…。
平甲羅鼈甲貝の名の通り、小さいながらもべっこうのような貝殻を背中に持っている。おそらく身を守る役割はほとんど果たしていないだろう。東南アジアから持ち込まれた外来種。
ナメクジといえばヤンバルヤマナメクジ(Meghimatium sp.)や
外来種であるアシヒダナメクジ(Laevicaulis alte)も沖縄ならではの変わり種ナメクジ。
水の中も見逃せない
川の中にはヨシノボリ類やボウズハゼ類をはじめ、ハゼの仲間が豊富。
オオウナギ(Anguilla marmorata)もかなり上流まで生息している。
沖縄の淡水域では最も大きくなる肉食魚だ。
現地で「ミキュー」と呼ばれているオオクチユゴイ(Kuhlia rupestris)。上流域で水面に落ちる昆虫を狙っている。
日本最大のハゼとして知られるホシマダラハゼ(Ophiocara porocephala)。全長50cmを超えるとも言われる。
水中にも外来生物は多い。これは観賞魚として持ち込まれ、一部の河川で繁殖してしまっているパールダニオ(Danio albolineatus)という東南アジア原産の魚。
モクズガニ(Eriocheir japonicus)も本州や九州ではなかなかお目に掛かれないような特大個体が見つかる。…本当に同種なのだろうか?
そして、川沿いの洞に隠れているヤンバルクイナ(Gallirallus okinawae)を見つけた。これだけ美しく大きな鳥が1981年まで記載されていなかったという事実は、やんばるの懐深さを何よりも如実に表しているのかもしれない。
ヤンバルクイナをあしらった動物注意の標識。国立公園化の後も、いつまでも人間とやんばるの自然が共存していけるよう願いたい。