オオサンショウウオから山椒の匂いがした
オオサンショウウオから山椒の匂いがした
ほんの少しだけ不思議な話をします。
「子供時代、前世の記憶が残ってる子が稀にいる」なんてよく言いますが、私自身そのうちの1人なんじゃないかな…と、思いながらこの歳まで育ちました。28歳にもなって何を言ってるんだと言う話ですがーーー。
今やその記憶は微かなものになりましたが、”水の中、岩を避けながら四つ足で這いまわってる記憶と、水面に揺れる月がボンヤリと見える記憶”が確かにありました。
「水の中は息ができなくて死んじゃうのに、なんで水中を歩き回っているのだろう。」子供ながらにそんな疑問が芽生え、不思議な記憶を思い出すたび、両親に「なんで?どうして?」と答えを探していた時期が続いたのです。
そしてオオサンショウウオ(Andrias japonicus)という生き物を初めて知った時、これだ!という確信と衝撃を感じました。
26歳の夏、お盆休み前日。この日は琵琶湖でカヤックに乗り遊んでいました。
オオサンショウウオを見たという友人からの誘い
まもなく夕暮れ。「さて、これから何処へ行こう」そう思っていると関西に住む友人から、「オオサンショウウオを見つけたから、今夜見に行かない?」というメッセージが入りました。もちろん自然相手なので、”必ず見れる保証はない”という現実的な条件とともに。
指定された場所は琵琶湖からかなりの距離。それでもこんなチャンスは滅多にあるものではなく、行かない理由なんてありませんでした。
数日前にオオサンショウウオを見たという友人と合流し、ほとんど通る人も居ないような林道を走り、山を越え目的地へ。
真っ暗闇の沢に到着しました。ライト片手に川底を照らしながら進みます。
水深は浅いのですが、大きな岩がゴロゴロしていて歩きづらい。まるであの記憶の景色の中にいるような感覚になりました。
山の中にある沢は言わずと知れた毒ヘビ マムシの巣窟。オオサンショウウオを探しつつ、足もとの草むらにも細心の注意を払いながら進みます。
しかし、そう簡単には見つからず時は過ぎていきます。
相手は野生。いつでも良い結果を残せるわけではないのです。「今日のところは諦めて帰ろうか」という選択肢が、一歩歩くごとに大きくなっていきました。
オオサンショウウオと対面する時が来た
歩きやすい道も途切れ、もうこれ以上進むのは危険と判断したその時!!こんなドラマあるかと思うほどラストギリギリのタイミングで、ライトの先に生物らしき違和感を感じたのです。
…見つけた!!
頭が大きく寸胴で、妖怪のような雰囲気を放っている。間違いなくオオサンショウウオだ。
気付いた時には靴のまま川に飛び込み写真を撮っていました。
大きさは60〜65センチほどでしょうか。初めてオオサンショウウオという生き物を知った、あの時の衝撃が蘇ってきました。
相手は触れることすら法に触れる可能性もある特別天然記念物。呼吸に上がるタイミングをジッと待つと…。
「プハァ。」
ついに人生で一番会いたかった生き物、オオサンショウウオと対面することが出来ました!
ライトやフラッシュの光で驚かせてしまったのか、あろう事か岸辺に向かって這いすすんでいきます。
オオサンショウウオの匂いに驚く
完全に岸に上がった所で、周辺の空気が一変しました。
「ん?なんだか嗅いだことのある匂いがするぞ…?
ツンとくる感じ…あれだ!うな重の必需品 山椒だ!」
なんと、水から身体を出したオオサンショウウオから、山椒の匂いが広がり始めました。
もともとこのような匂いなのか、警戒臭を出したのか定かではありませんが、この匂いを野生動物が嫌がるということなのか。オオサンショウウオは漢字で書くと大”山椒”魚。名前の由来が分かったような気がします。
辺り一面に山椒の香りを漂わせ、満足したかのように水に滑り込む大”山椒”魚。
ここからは、沢のせせらぎが邪魔して水中の観察は難しいので、防水コンデジを沈めて撮影続行を試みました。※噛まれると大怪我をする恐れがあります
顔は大きいのに目は小さく、瞼(まぶた)は無し。口は大きく裂けていて、確認できなかったのですが、ビッシリと歯が生え揃っているようです。
皮膚はシワシワ。どんな感触なのか触ってみたい気もしますが、相手は特別天然記念物。我慢します。
前足後ろ足とも指は4本づつありました。ムチムチしているので、人間の赤ちゃんの指のようにも見えました。
尻尾は太く長い。身体の⅓は占めてるように見えます。そして貫禄のあるべっ甲模様が、日本オオサンショウウオの証。
最後に鼻ちょうちんを作るようにポフッと呼吸をし、川の深みに消えていきました。
また会える日を楽しみに。
水中撮影をしていた何枚かに、アカハライモリが写り込んでました。相当数が生息しているようです。オオサンショウウオのエサになってしまうのでしょうか。
オオサンショウウオと出会った翌朝
ふと気付くと、何年も肌身離さず身につけていたオオサンショウウオのアクセサリーが無くなっていました。
オオサンショウウオを思い続けて26年。一番大事にしていたオオサンショウウオグッズが、このタイミングで無くなるのは、何か意味がありそうな気がしてならなかったです。
自分とオオサンショウウオのストーリーは、これで一旦円環が閉じたんだ。そんな気がしました。なんでオオサンショウウオ目線の記憶があるのかは、未だに謎ですが。。
※特別天然記念物は触れるだけでも法に触れる可能性があります
第196条
史跡名勝天然記念物の現状を変更し、又はその保有に影響を及ぼす行為をして、
これを滅失し、き損し、又は衰亡するに至らしめた者は、
5年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金に処する。
第125条
史跡名勝天然記念物に関しその現状を変更し、
又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、
文化庁長官の許可を受けなければならない。
ただし、現状変更については維持の措置又は非常災害のために
必要な応急措置を執る場合、
保存に影響を及ぼす行為については影響の軽微である場合は、この限りでない。