名古屋城のお堀へアリゲーターガーを探しに行ってみた
名古屋城のお堀へアリゲーターガーを探しに行ってみた
名古屋城のお堀にアリゲーターガーがいる、というニュースが数年前からたびたび聞かれるようになった。原産地であるアメリカで捕獲されたアリゲーターガー。大型個体は全長2メートルを超える。世界最大の淡水魚のひとつ。
2016年6月、今回は地元の方がたまたま撮影に成功したのが報道の火付け役になったようだ。
なんでも全長1メーター以上の大型個体がおそらく二匹も生息しており、何度も捕獲に挑んでいるものの未だ成果が上がっていないらしい。
…日本のお城のお堀にアリゲーターガー。そんな異様な光景が本当に展開されているのか。
そして、そんな巨大魚が悠々と生きていけるお堀とはどういう環境なのだろうか。
実際に出向いて確かめてみよう。
名古屋城本丸
現在、名古城のお堀は外堀の北側半分にのみ水が張られている状態。おっ、それならかなり捜索範囲が限られるな。
お堀の様子。広大で、濁っていて、しかも植生が繁茂しているエリアまである。あまり魚を見つけやすい条件ではない。
まず、地元の方々に聞き込みをしてみる。
「あのー、アリゲーターガーってご存知ですか」と声をかけると、ほぼ100%の確率で「YES」の回答が得られた。
盛んに報道されているため、地元での知名度は非常に高いようだ。
実際、耳を澄ますとあちこちから「アリゲーターなんとか…」「ニュースでやってた大きい魚が…」「ワニみたいな顔の…」とアリゲーターガーについてであろう会話のかけらが耳に入ってくる。
今、名城公園はアイツの話題で持ちきりなのだ。まあ、たしかにそれだけのインパクトはある魚だろう。
お堀の周りはゲートボールや散歩、バードウォッチングを楽しむ人たちで賑わう。みんなアリゲーターガー騒動を知っているし、興味津々な様子。
そして、目撃したことのある人も少なからずいるようで、特に外堀北側の角に頻繁に出没するらしい。
ドバトとカラス、スズメばかりが目につく。名古屋市街地という立地上、こうしたシティー派な鳥たちばかりなのだろうと予想はしていた。…が。
噂のホットスポットへ向けて歩いていると、たくさんの鳥たちに遭遇する。
ハトやカラス、ムクドリなどといった街鳥以外にも、ハクチョウやカワセミ、マガモなども目につく。バードウォッチャーが多いのも納得だ。
掲示板を見る限り、かなり多様な野鳥が暮らしているらしい。
はキジバト
水面にはハクチョウやカワウなどの水鳥たち
地元の方の話によるとカモがアリゲーターガーに狙われることもあるらしいが、本当だろうか。
では、肝心の水中はどうか。
水面を見渡すと、何か大きな魚が引き波を立てて泳いでいる。
ガーか?と一瞬身構えたが、それにしてはずいぶん太短い。
ああ、コイだ。
ものすごい数のコイが生息している。
コイの次に多かったのはオオクチバスだった。いわゆるブラックバスのことだが、これもアリゲーターガーと同様に北米から持ち込まれた外来魚である。
ブラックバス(オオクチバス)の姿もちらほら。幼魚も多数見られた。
おそらく、ガーたちの食糧にもなっているのだろう。
日本で、しかもお城のお堀でアメリカの魚たちが弱肉強食の戦いを繰り広げているとはなんとも不思議な話である。
「絶対アリゲーターガーだ!」と思って追いかけた巨大魚の正体はソウギョだった。これもお堀の定番魚。
また、葦の茂ったエリアで全長1メートルを超える大型魚の影を見つけた。
アリゲーターガーに違いないと追いかけるも、その正体は中国原産のコイ科魚類、ソウギョであった。
…コイを除くと、日本在来の魚はナマズしか見ることができなかった。まあ、お堀は人工的な水域なので仕方がない部分もあるのだが。
ミシシッピアカミミガメの姿も。オオクチバスやアリゲーターガーと同じ北米原産の動物。そういえば同郷のウシガエルも鳴いていた。
岸際に奇妙な物体が浮かんでいる。これはオオマリコケムシという生物で、やはりアメリカ原産。…名古屋城外堀には日本産生物よりUSA出身者の方が多いのでは。
水辺で目についた純国産種はナマズと、あとはこのスッポンくらいだろうか。
ついに遭遇…!?
ここで、アリゲーターガーを撮影しに来た地元のテレビ局の方々に出会い、いろいろとお話をうかがうことができた。彼らも朝一番からずっと張り込んでいるが、いまだに成果が出ないのだとか。
そして、彼らが言うには、現在アリゲーターガー捕獲用の罠が外堀に仕掛けられており、近日中に引き上げられるのだとか。
「すごく目立つから、一目見ればわかりますよ」とのことだったので、さっそくその罠を見に行ってみることに。
これが対アリゲーターガー用の罠らしい。
あー、なるほど。構造はよくわからないが、いかにも「罠です!」と自己主張している装置が水面に浮いている。
昨年はこれで捕獲の一歩手前まで行ったらしいが、すんでのところで逃げられてしまったそうだ。今年こそリベンジなるだろうか。
と、この罠を撮影してTVクルーたちのいた場所へ引き返すと、なにやら盛り上がっている。
そして驚きの一言。
「アリゲーターガー、出ました!まだ近くをうろうろしているはずだから、見張っていれば見られるかもしれませんよ。」
えっ!それはすごい。
その言葉を信じて張り込んでみるが、1時間経っても2時間経ってもガーが姿を現す気配は無い。
面会に来てくれるのはひたすらコイばかりである。いや、地元のおじさんたちも話し相手になってくれた。
諦めかけた、というか、もう完全に諦めて惰性だけで水面を眺めていたその時、一人のおじさんが「お、あれアリゲーターや!」と声を上げた。
指さす方を見ると、確かに1メートルはありそうな大きな魚体が水面に浮いている!
ついに姿を現したアリゲーターガー!!…なのか?コレ。
「おー、あれあれ。アリゲーター。兄ちゃん見れてよかったな。」
「ガー」が抜けてもっとやばい生物になっているが、それどころではない。夢中で遠く遠くの被写体に向けてシャッターを切る。
しかし、疑念が拭えない。
「あれ、本当にアリゲーターガーなんですかね…?」
なんか細長い大型魚、というところまではわかるのだが、距離が遠すぎて細部が確認できない。たしかに大きいが、120センチもあるだろうか…?胴が細いから小さく見えるだけか?
もしかしたらまたソウギョかもしれない。あるいは、老成した痩せぎすのコイかもしれない。
うーん…。微妙すぎる!
特徴的な頭部さえ見られれば確信できるのだ。
一度でいい。空気を吸いに頭を水面へもたげてくれ…!
…しかし思いは通じず、アリゲーターガー(仮)はそのままゆっくりと深みへ沈んでいった。
…なんとも不完全燃焼な体たらくではある。
しかし今回の視察で、たしかにこのお堀にアリゲーターガーが生息していること、彼らを養うのに十分なほかの魚もいること、そして、もはやマスコットキャラクターばりに地元民にその存在が認知されていることがわかった。
捕獲が成功し、名古屋市民が陸上で彼らと対面するのはいつの日になるのだろうか。
ちなみに、お堀での釣りは禁止されているので注意しましょう。