大阪・寝屋川 アリゲーターガー捕獲記
大阪・寝屋川 アリゲーターガー捕獲記
2015年の夏。
大阪の東部を流れる恩智川。通学のため、駅まで自転車で走っていると、いつもは鯉がたくさん泳いでる場所に大きな木のような物が浮いていた。
近づいてみると、魚!? しかも鯉より大きい!!そして、よく見ると口が細長くて尻尾のあたりに斑点が…。
「アリゲーターガーや!!」
日本各地でアリゲーターガーを発見、捕獲したニュースは見聞きしたことがあったけれど、まさか地元の川にも生息してるなんて思いもしなかった。
そしてその秋、間髪を入れずに二度目の遭遇。次に目撃したのは弟の隼人だった。鯉釣りに行った際に、鯉の群れと一緒に浅瀬でじっとしていたそうだ。
場所は大阪の東部を流れる寝屋川。恩智川と寝屋川は同水系で、大東市で分岐していている。
直線距離で約5キロ僕が見たアリゲーターガーと同じ個体だと思っていた。
その後、何度か父と弟が探しに行くも見つからず…。でも鯉釣りをされてる方に話を聞くと、2年くらい前から目撃されているという。
しかも80cmくらいの個体と1mくらいの個体が2匹で泳いでいることもあるとのことだった。
日本の川の環境に適応して、少なくとも数年は生き延びている。しかも二匹いるということは、それぞれが雌雄だとしたら繁殖している可能性だって捨てきれない。
こんな街中の川に…
ところで、間近で魚体を見てしまうと、どうしても釣ってみたくなるのが釣り人の性というものである。
しかし、そもそもアリゲーターガーって狙って釣れるんだろうか。狙うとしたらどんな仕掛けで釣るんだろう?エサで?あるいはルアーで?情報は少ない。そんな折、ネット上には日本国内でアリゲーターガーを釣った人のレポートも見つけた。
撮影時も共演した平坂寛さんが横浜で釣ったアリゲーターガー。発見から釣り上げるまでに1年もかかったそうだ。
しかし、記事を読む限り、狙って釣るのは簡単ではないようだ…。メーターオーバーの巨体をキャッチするための道具も手元には無い。
手を出しあぐねていた頃、読売テレビの情報番組「朝生ワイド す・またん!」制作スタッフの方から環境省が同年3月に特定外来種に指定する方針を発表したガー科魚類の目撃者としてインタビューをさせてほしいという話が舞い込んだ。2016年4月初旬のことだった。
長い時間をかけて関西圏におけるアリゲーターガーの生息情報を集めてきたというディレクターさんが言うには、大阪府内でも様々な場所での目撃例があるそうだ。
さらに話が進むうちに、なんと番組内で放送する捕獲作戦の撮影にも兄弟で参加・出演させてもらえることとなった。
ちなみに番組のディレクターさんはアリゲーターガーに執心するあまり、なんとアメリカはテキサスまでこの魚を釣りに行ったという筋金入りの人物だった。
そしてロケを3日後に控えたある日。寝屋川へナマズを釣りに行っていた弟がまたアリゲーターガーを目撃したという。しかも、同時に二匹!
食いつくことこそなかったようだが、回収中のルアーに向かって水中からガーが浮かび上がってきたそうだ。ルアーに食いつきこそしなかったが、そのまま泳いで行った対岸の浅瀬にはもう1匹のガーが漂っていたのだという。鯉釣り師方の目撃情報通り、複数の個体がいたのだ。
その場所は川幅が狭くなり、水深も一段深くなっている絶好のポイント。きっと彼らはこの周辺にまた現れるはずだ。
はからずして、撮影直前に生息エリアを絞ることができた。ロケ本番でもこの場所で勝負をかけることにしよう!
そして迎えたロケ初日。
現場に前もって到着していた共演者、生物ライターの平坂寛さんがアリゲーターガーを目撃、水面で呼吸する場面の映像を撮ることに成功したそうだ。やはり、ここで間違いない!
大阪の都市河川には似つかわしくない釣り具たち…
しかし、残念ながら撮影の1日目、2日目は学校帰りのわずかな時間しか参加できない。しかも、ポイントの水面は雨と風でザラザラと波立ち、偏光サングラス越しでも川の中はほとんど見えない。条件は良くない。
目撃したポイント付近に魚の切り身を投げ込み、同時に生き餌を流して広い範囲を探っていく。アカミミガメのアタリしか無いまま時間だけが過ぎ、あっという間にタイムアップ。
そしてロケ最終日の3日目は休日。朝からフルタイムで参加することに。
この日は大阪の怪魚ハンター五月女 学くんも合流して、平坂さん、学くん、僕ら兄弟の4人でチームを結成、総力戦でガーに挑むこととなった。
アリゲーターガー捕獲チーム結成!
待ちに徹しても勝機は少ない。そう考え、4人で手分けしてターゲットの姿を探すことにした。
地形や水深を考えたら、目撃地点から上流1キロまでが範囲内だろう。丸々と太った鯉は数十匹単位であちこちにいる。わずかながら、ナマズや雷魚の姿も…。このエリアは魚にとって過ごしやすい環境にあるのかな?
立派なナマズの姿もチラホラ。寝屋川は意外と豊かな河川なのかも。
しかし、昼を過ぎてもアリゲーターガーの姿は発見出来ず。夕暮れまであと2時間あまり。
途中、暇つぶしにナマズでも探そうとウ川辺をウロウロしていた時のことだった。
「い、い、いた…!」
雨の影響で薄く濁った水の中、下流に降りていく姿が確かに見えた!!
すぐさま下流へ走って、みんなと合流。橋の上のスタッフさんがガーの姿を確認!学くんが生き餌の仕掛けを進行方向にキャストすると一瞬反応して餌のほうに浮いてきた!
ついに食うのか!?
…が、あと少しというところで方向転換し、深場へ沈んで行ってしまった。
この後は姿を見せることないまま、無情にも3日目の撮影も終了を迎えた。
本当はこのままで撮影の全日程が終了となるはずだった。しかし、ディレクターさんの熱い想いでもう1日ロケを延長することになった。
明日こそ、獲る。
――3日間の状況から、アリゲータガーが餌を食う確立はかなり低いと考えられた。
見つけたとしてもすぐに下流の深場に下っていけば足場が途切れて手が出せなくなる。
捕獲のチャンスは一瞬しかない。
ならばいっそ、引っ掛け釣りで狙ってみないか?と提案された。
しかし引っ掛け釣りといえど、アリゲーターガーはその魚体を「ガノイン鱗」という特殊な硬い鱗で覆われているため、胴体にはめったに針掛かりしないのだとか。となると、狙うのは口周りの比較的柔らかい部位のみ。決して簡単なことではないはずだが…。
アリゲーターガーの体表は包丁も通らない石畳のようなガノイン鱗に覆われている。強引に引っ掛けるのだって容易ではない。
4日目は快晴無風。
昨日までの川の濁りも無くなって、偏光サングラス越しに川の中の様子が手に取るように分かった。
平坂さんは残念ながら別の仕事で参加出来ず、学くんと弟3人で両岸にわかれて上流に向かって歩きながら、あの姿を探していく。
すると、いた!
支流からの流れ込みになっている浅瀬で上流を向いてじっとしている。チャンスだ!
学くんがそっと近づき、距離を縮めて…フッキング!!
しかし!硬い鱗に弾かれたのか?上流に向かって悠々と泳ぎだすアリゲーターガー。
50mほど上流へ走って先回りし、待ち伏せる。僕の視界にアリゲータガーの姿が入ってきた。
魚との距離、ラインの角度…。このタイミングだ!
渾身のフッキング!!
狙い通り口周りに掛かった!駆けつけてくれた学くんがタモを持って川に飛び込んだ!
…ランディング成功!!
100センチのアリゲーターガー。こんなサイズの魚が大阪の川に生息してるなんて…!
捕獲出来た時は信じられないぐらい嬉しかった!
目撃情報では大小2匹の個体がいるということだったから、「これは『大』の方だな!」と誰もが思っていた。
しかし、祝杯ムードの中ディレクターさんが発した「もう1匹いてるならもう少しやってみる?」という何気ない一言のおかげで、さらなるドラマが生まれることになった。
学くんと弟は竿を持って捜索を再開した。しばらくすると休憩していた僕達の元へディレクターさんから電話が入った。
「もう1匹いた!しかもデカイ!」
あわてて現場に駆けつけると、なんと1匹目よりさらに大きな、全長121cmのアリゲーターガーが!
下流の深場に下っていく姿を見つけ足場ギリギリの所でヒット&ランディングしたらしい。まさか、大阪の川で1日に2匹も捕獲出来るなんて!その場にいた全員が、ただただ驚くばかりだった。
その後、番組の放送日から時間が経ち、FacebookやTwitterなどのSNS上でも僕と弟が捕った魚のニュースをよく目にするようになった。
捕獲したアリゲーターガーたちはその後、それぞれ大学の研究室と水族館へ引き取られていった。
捕獲の方法(引っ掛け釣り)に関しては賛否両論の意見があると思う。
正直なところ、僕自身もまだアリゲーターガーを「釣った」とは思っていない。確かに記憶に残る一匹にはなったが、それはあくまで「捕獲した」というかたちでのこと。
…捕獲する前から悩んでいた。自分はこの魚を釣りたいのか?それとも捕獲したいのか?
アリゲーターガーという魚の存在を知ったのは、怪魚ハンターとして有名な小塚拓矢さんが東京の呑川で捕獲したという記事を見た時のことだった。
それに憧れ、自分もいつかは日本で!と、思い続けてついにこの度、皆さんの力で2匹のアリゲーターガーを兄弟そろって捕獲することが出来た。
今思えば、夢の様な話だ。
近い将来、僕はアメリカへ行きたいと思う。
そう、アリゲーターガーの本場、彼らの原産国へ。
そこで自分で考えて用意した釣り具と、自分なりの釣り方で、この魚と真正面から戦いたい。そうして初めて、僕は「アリゲーターガーという魚を釣り上げた」と言えるのだと思っている。
どんな形であれ、この魚と出会えたことが自分にとってのターニングポイントになるはずだ。
まだまだ、これからも自分のスタイルを貫いて、「釣り」を軸に頑張っていきたいと思う。