ナイルパーチ釣行記:砂漠の果てに古代魚の王を求めて (スーダン共和国)~後編~
ナイルパーチ釣行記:砂漠の果てに古代魚の王を求めて (スーダン共和国)~後編~
前回の記事で、主目的であったレイクヌビアにおける釣りは終わりました。
しかし、まだ諦めた訳ではありません。
実は首都カルトゥームの魚市場で、レイクヌビア以外のナイルパーチポイントを聞いていたのです。
次はそこに向かうため首都近くまで戻ります。
来た道をまた約1000km戻るというわけです。
ナイルパーチに会えず、精神的に落ち込んでいる中での1000kmはなかなか骨が折れますが、幸運なことにスーダンは恒常的に北風が吹いているので南下する時は基本的に追い風なのです。
湖までの道のりではずっと向かい風でしたので大変苦しめられましたが、帰りはこの風を上手く利用できるというわけです。
しかし、その恩恵に預かるためには少なくとも自転車で走れるコンデションでないといけません。
僕が南下を始めた日から砂漠は牙をむきました。
数日前に砂嵐があったようなのです。
その名残で空中に細かい砂が常に浮遊していますし、小さい竜巻みたいなものも頻繁に起こっていました。
自転車に乗ると目を開けていられないほどの埃っぽさに苦しめられますが、実はこの状況も想定内。サングラスを取って代わりに付けたのは「水中メガネ」です。
泳ぐときにも使えますし、砂嵐対策としてもバッチリ。どこに行くときも2つはカバンに忍ばせておくものです。
また、普通にしていると呼吸が苦しいですが、その対策は現地の方々の知恵を借り、アフガンストールで対応します。これを顔に巻けば大抵の砂には対応できます。
上手く風に乗れば、漕がずとも時速は40km/hを超えます。こうして追い風に助けられながら着実に距離を伸ばし、約1週間かけて首都そばまで戻ってきました。
途中経過。青看板に首都の名前が出てくると安心します。
この頃には砂埃も晴れていい天気でした。ラクダも走り回り始めます。
こうして本当は行く予定では無かったもう一つのポイントに着きました。
ここでも巨大なナイルパーチが取れているらしいのです!
しかし、漁師さんから餌を買うと渡されたのはミミズ・・・
どうやらここは小物釣りのポイントだったらしい。
これも海外あるあるなのですが、彼らはそこまで正確に魚の産地を区別していないことが多く、間違えた情報を渡される事が多々あります。
もちろんそれは想定される事なので、注意深く情報の真偽を確かめるのですが、それでもハズレを引くことはあります。
そこで重要になるのが、その時その場所で釣れる魚を愛する心です。
何度か経験を重ねるごとに学んだのですが、目的とする魚以外の魚にも注意を向けねばなりません。
注意深く観察すれば、案外足元に綺麗でカッコいい魚は泳いでいるものです。
なので小物釣りを想定したタックルは用意しておくことをお勧めします。
僕は手持ちのベイトリール用パックロッドにスピニングリールを付けたタックルで小物釣りをすることが多いです。
一般的なテラピア。東南アジアで既に見飽きているが、原産国で釣るテラピアには大きな価値がある。
Brycinus属と思われる魚。カラシンの仲間で、現地では「カッワーラ」と呼ばれていた。
鰓蓋よりやや尾側に並ぶ3つの黄色と青の斑点がとても良いアクセントになっている。こんな素敵な配色の魚がアフリカにいるとは知らなかった。
こんな釣りを楽しみつつ、結局このポイントは次の日に後にすることを決めます。
ここにはナイルパーチの気配は感じません。
去り際、記念に撮ってもらったお気に入りの1枚。「ギャラビーヤ」と呼ばれる民族衣装を着ています。
砂の王国で暮らすことに特化しており、非常に理にかなった服装であるだけでなく、現地の人々との距離を縮める事にも一役買ってくれる。
こうして、目ぼしいポイントの開拓は終了。
数日かけて出発の際に泊まっていた空港そばのホテルに帰りました。
残念ながら今回ナイルパーチに会う事は出来ず・・・
旅は終了したも同然です。
この時、確か帰国の前々日。
しかしそんな状況でも竿を握り続けてしまうのは釣り人の悲しき性でしょうか。
ホテルそばのポイントでデカいタイガーフィッシュが釣れることは確認済みなので、そこで一発大物狙いをしてみようと考え、1日中餌釣りを試してみることに。
たまにタイガーらしい魚がちょっかいを出してきますが、結局フッキングせず。
帰国前日は一日かけて自転車をばらしてパッキングをしなくてはいけないので、釣り出来るのはこの日が最後。段々日が傾いて、いよいよ釣り出来る時間も限界がきて、アフリカで竿を振れる時間がどんどん短くなってきて・・・
この「釣り最終日の夕方」というプライムタイムは、釣り人にとって凄く大事で、丁寧に慎重に組み立てなくてはいけない時間。
そう思うのは僕だけではないはずです。
ならば、今この瞬間はどうしてもルアーを投げなくてはいけないような気がした。
僕はルアー釣りをしている時間が一番好きだから。
もはや何も釣れなくても構わない。とさえ思っていました。
しかし、こういう時こそドラマは起こるものなのでしょうか。
無心で打ち続けていたルアーをピックアップする寸前。
足元のブレイク際を通過した瞬間、体高のある白銀の魚体が翻ります!
と、同時に手元にガツン!!!と伝わる硬質な感覚!!!
ナイルパーチだ!!!
それは一瞬の出来事でしたが確信がありました。何度も写真で見ていた魚です。見間違うはずがありません。
それを裏付けるように明らかにタイガーとは異なるファイトを見せます。
とにかく下に下に潜る!ブレイクに糸がこすられながら何とかその突進を止め、慎重に慎重に時間をかけてランディングポイントまで誘導します。
浮いてきた魚はやはりナイルパーチ!!!!
「頼む頼む頼む!バレないでくれバレないでくれ!!!」と一人でつぶやく声は震えていたと思います。
そうしてその下顎にガッチリと手をかけた瞬間、絶叫。
いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!
Lates niloticus まぎれもなくナイルパーチ。
「王」と呼ぶにはいささか小さい気もしますが、ナイルに住む古代魚の王です!
2000km以上走り回って、結局釣れたのが出発地点のすぐそば。と言うのは何とも皮肉なものですが、この際そんなことは関係ありません。
震える手で簡単に撮影を済ませました。
死ぬまで忘れられないであろう魚。こういう魚とは何か不思議な絆みたいなものがある気がします。
この子が未だにナイル川を元気に泳ぎ回っていることを願ってやみません。
ちなみに、目が赤く輝くことで有名な魚「アカメ」と属レベルでの近縁関係にありますが、ナイルパーチの目の色はオレンジ色。
それは奇しくも僕が散々苦しんだ砂漠の砂の色と同じ。なんだか象徴的でとてもドラマティックだった。
ナイル川に帰るナイルパーチ。
こうしてふわふわした夢心地のままに帰国。
旅は無事に帰ってくることが究極の目標です。
「五体満足でキチンと家に帰る」という目標の前にして、魚を釣るだとか目的地まで辿り着くだとかいう目標は極めてどうでも良い事です。
さて、これにて僕の砂漠の旅は完全に幕を閉じました。
今のうちに砂漠を走れて本当に良かった。カタールの空港で降りてきた天啓に従って本当に良かった。
僕は色んな人に助けられながらも、究極の暑さと乾燥を乗り越えたのです!!!
あまつさえあんなにも美しい魚との出会いもあった!!!
しかし、こんなに満足している僕に対し別れ際にホテルマンが放った言葉が忘れられません。
「ユージローはラッキーだよ。今の時期は気温もそんなに上がらず、涼しいからね!これが夏だったら死んでるよ!」
そう。僕が経験した気温40℃を超える灼熱や、目も開けられないほどの渇きは、究極でもなんでもなく、現地の人に言わせれば「涼しい」日常だったのです!
なーんだ。と思いながらも、僕は凄く嬉しくなりました。
完結してしまったと思っていたこの旅には、まだまだ続きがあることを知ったからです。
何年後になるか分かりませんが、きっとまたアフリカには来ます。
この遊びの続きが楽しみでなりません。
さて、せっかくこのような記事を書く機会を与えて頂いたので、自転車旅のススメを少し書いておきたいと思います。
自転車で外国を走る。と言うと何だか凄く敷居が高く聞こえてしまうらしいですが、実際はそんなに難しくありません。普段から自転車に乗っていれば、あなたは潜在的に自転車旅人です。
そこにほんの少しの自転車の知識と、旅の経験を足して下さい。あなたは自由に世界を走る手段を手にしたことになります。
いつも走っている道が少しラフに、周囲の環境がちょっとタフになって、日本語が通じなくなるだけです。
今皆さんが走っている道の延長に海外自転車旅はあります。
この素晴らしいフィールドを一緒に遊び尽くしましょう!!!
最後に
この旅を応援して下さった方々、特に事前にロードコンデションや湖の状況、危険生物などについて詳しく教えて下さった方々には感謝が絶えません。おかげさまで怪我無く帰って来られました。
また、このようなスタイルの釣りには欠かせないパックロッドを貸して下さったTRANSCENDENCE様にも大変感謝しています。
ありがとうございました!
ナイルパーチ釣行記:前編
http://www.monstersproshop.com/republic_of_the_sudan-nileperch/
ナイルパーチ釣行記:中編
http://www.monstersproshop.com/republic_of_the_sudan-nileperch_2nd/