アフリカマイマイの調理法と注意点
アフリカマイマイの調理法と注意点
雨上がりの沖縄本島を散策していると驚くほど大きなカタツムリにしばしば遭遇する。そのボリュームは見慣れたカタツムリの数倍。鶏卵サイズは当たり前で大きなものはアボカドほどもある。
彼らの名前は“アフリカマイマイ”。その名の通りアフリカからやってきた外来種だ。
彼らが沖縄へ持ち込まれた理由はなんと…食用!!
導入の経緯を振り返りつつ、今回はこの巨大カタツムリの簡単な調理法を紹介する。
アフリカマイマイって?
那覇市の路上を徘徊するアフリカマイマイ。沖縄ではいろんな意味で嫌われている存在。でも食えるよ。
アフリカマイマイはそのボリュームと飼育・繁殖の容易さを見込まれて沖縄へ昭和初期に持ち込まれたという。
沖縄は温暖な気候ゆえ熱帯原産の本種の養殖自体は順調に進んだことだろう。加工品の製造など利用方法もいろいろと模索されたようである。
しかしやはりというべきか、食材としては定着せず戦後の食糧難を乗り越えて以来は見向きもされなくなった。
そしてアフリカマイマイたちは遺棄され、あるいは脱走し、沖縄本島を中心とした南西諸島各地で野生化してしまったのだ。よくある人間のエゴに巻き込まれた、“食べ残し型”の外来生物である(沖縄県のみならず小笠原諸島にも定着している)。
同様の事態は世界各地の熱帯・亜熱帯地方で起きており、南米や東南アジアの森林地帯ですら彼らの尖った貝殻を頻繁に目にする。
捕まえ方と気をつけるべき点
そんなわけで食用目的で導入されたとはいえ、現在の沖縄でアフリカマイマイを好んで食べている人はほぼ皆無である。
でも食える、食えるのだ。理論上は。だからちょっと味見してみましょうよ。せっかく採り放題なんだし。
世界最大級のカタツムリとしても有名。大きな個体はアボカド並みの貝殻を持つ。(※手を直に触れないように!扱った後はよく手と器具を洗おう)
食べるためにはとにもかくにも捕獲しなければならない。と言ってもアフリカマイマイ採りはとてつもなく簡単だ。
まず他のカタツムリ同様に動きがのろいため、見つければこちらの勝ちである。
見つけるコツは雨上がりに公園や農道、植え込み周りなど緑と土のある場所を見回るだけ。路上をネロネロと這い回っている姿が見られるはずだ。特に彼らはデカい上に貝殻の形状も独特なため、非常に目立つ。
キモい!と思いつつも観察をつづけていると、だんだん仕草が可愛らしく見えてくる。…まあ食うけどね。
ただ一つ注意したい点は「素手で触らないこと」である。アフリカマイマイは広東住血線虫というネズミにつく寄生虫の中間宿主として知られている。
これが口や皮膚を通じて人体に入り込むと髄膜脳炎などの重篤な健康被害を引き起こすことがある。アフリカマイマイを採集する場合は、ゴム手袋やトングなどを用いて直接触れないよう注意しよう。
※広東住血線虫はアフリカマイマイ以外の一部のカタツムリやナメクジ、あるいはスクミリンゴガイやカエル類なども中間宿主として利用します。これらの生物を扱う際も十分に注意しましょう。
また、アフリカマイマイは植物防疫法によって生きたまま生息地から持ち出すことが禁じられている。たとえば沖縄で捕まえた個体を生かして飛行機で東京へ持ち帰る、ということはできないのだ。ならば生息地で食べてしまうか、しっかりと絶命・下処理を終えてから安全な形で輸送することになる。
下茹でと酒での洗浄は必須
可能であれば空っぽの容器で数日間飼ってフンを排出させると茹で汁のにおいが薄くなる気がする。乾燥すると休眠状態に入ってしまい排泄も滞るので霧吹きなどで絶えず湿り気は与えておく。脱出防止のために蓋も必須。
捕まえたらまずは下ごしらえ。野生のアフリカマイマイを食べる上で最大のネックとなるのが、独特の生臭さと何とも言えぬ不快な食感をもたらす粘液の存在である。
とにもかくにもまずは下茹で。沸かした湯に放り込む。
これを取り去るには下茹でして中身を取り出して洗浄するしかないのだが、ただ流水やタワシで洗うだけではキリが無い。そこで白ワインや日本酒で揉むように洗うと、みるみるうちに粘液が固まって剥がれるように落ちるのだ。
この時、内臓も除去しておくといい。アフリカマイマイの肝は立派だが、サザエのそれのように美味いものではない。養殖ものならいざ知らず、野外で採集してきた個体の場合は食わぬが吉だ。ここまでくると貝殻の大きさからは想像できないほど可食部が縮んでしまうが…。
粘液由来のアクが大量に出るので湯ごと捨てる。これはアフリカマイマイに限らずエスカルゴやナメクジなどすべての陸貝を調理する上で共通する特徴だ。必要以上に気味悪がることはない。
竹串などで貝殻から中身を引きずり出す。サザエやバイ貝と同じく、身に串を刺したら貝殻を渦に沿ってひねってやると上手く引き抜ける。
アフリカマイマイ調理に欠かせないのが白ワイン!(日本酒や調理酒でも可。もちろん安いものでよし)
摘出した中身。
わかりづらいが、画像上部の黄色い部分と茶色い部分が内臓で下部の黒い部位が足(いわゆる身、可食部)。野外で採ってきた場合、基本的に内臓は捨ててしまった方がいい。臭いしマズい。それに野生のアフリカマイマイは何を食っているかわからないし…。
足だけを切り取って白ワインでもみ洗う。粘液が白い澱のように凝固して剥がれ落ちる。流水やタワシではこうはいかない。
ヌルヌルとした感触が消え、ギュッギュッとグリップ感のある手触りになったらようやく下ごしらえは終わりだ。あとは普通の巻き貝のむき身として煮付けにするなり炒めるなり自由に調理すればいい。それなりに、というか拍子抜けするほど抵抗なく食べられる味になるはずだ。
まだちょっと抵抗が…。という方はガーリックバターでエスカルゴ風に焼いてやるといい。ニンニクとバターの香りでアフリカマイマイそのものの風味はかき消されてしまうが、そのぶん食べやすくはなる。アフリカマイマイの定番かつ入門メニューである。
それもそのはずというか、アフリカマイマイは海外だと缶詰などに加工されており、その多くはエスカルゴの代用品としての利用されているという。噂では日本の飲食店での使用もあるとかないとか…。
一番無難な調理法はやはり殻へガーリックバターとともに詰め直して焼くエスカルゴ風。アルミホイルで台座を組み、網で焼くのが手っ取り早い。
完成!「アフリカマイマイのエスカルゴ風」。殻の口にパセリを散らすと一気にそれっぽくなるぞ。アフリカマイマイを知らない人に対してのみ有効な小細工だ。
うん、歯ごたえがあってなかなか悪くない!…ガーリックバターの味が強すぎて素材そのものの味は楽しみにくくなるが。
エスカルゴ(写真はヒメリンゴマイマイ)の代用にもなるというくらいだし、同じように調理すれば美味しくなるのは当たり前かな。
そもそも食用として入ってきたものであるから不思議でもなんでもなく当然のことであるが、アフリカマイマイは食べられる。しかも先入観さえ捨ててちゃんと下ごしらえをすればなかなか悪くない。
無理にとは言わないが、興味の湧いた方はチャレンジしてみてはいかがだろうか。
その際にはどうか上記の注意点をしっかりと胸に刻んで実行されたし。