アイルランド釣り旅紀行 ~古城をバックにパイク釣り~
アイルランド釣り旅紀行 ~古城をバックにパイク釣り~
Youtubeで見つけた釣り場に行きたい!
「うわぁ、ここ行ってみたいな!」
ある日youtubeの動画を見ていて、なんとも引き込まれる映像に出くわした。国によって、釣り場で感じる「色」が違う。それを強く感じた今回の旅。
21インチの液晶画面に映し出されていたのは、どこまでも広がる空の下、のどかな牧草地や雰囲気ある石造りの古城をバックにフロートチューブ(釣り用の浮き輪)やちょっとクラシカルな渋い塗装を施した小型ボートに乗って釣りを楽しむ人たち。100年以上の歴史を持つパブ。バックにはパイクの剥製が飾られていた。欧州では、昔から身近な魚なのだ。動画で見たのと同じ空間で、僕はギネスと演奏を楽しんだ。
合間に挿入されていたのは、釣りを終えた彼らがアイリッシュミュージックの生演奏を聴きながらギネスで乾杯をする姿だった。
「素敵だな。実に味のある釣り旅ではないか」
左下の緑のクローバーは、アイルランド政府観光庁認可の印。質が高いとされる宿泊施設に与えられる。
エンドロールのクレジットを元に調べてみると場所はアイルランドのキラシャンドラ。撮影協力をしていたのは、古城を改装したコテージ「キャッスル・ハミルトン」であることがわかった。キャッスル・ハミルトンは17世紀はじめに建てられたという城跡を宿に改装。僕はイラストレーターなので、絵心をくすぐられちゃいます。
キラシャンドラ…。旅のガイドブックには載っていないような田舎町だ。
だが、釣りにはとても良い場所らしい。
とくに、僕が大好きな「パイク」という魚の。
日本にはいない魚なので知らない人も多いと思うが、生息圏では多くの釣りメーカーのカタログや雑誌の表紙を飾ってきた歴史も文化もある釣魚だ。フィンランドのライフスタイルブランド・マリメッコのキッチン雑貨にもデザインモチーフとして採用されている。アヒルのような愛嬌ある顔が特徴。
パイク釣りというと、これまで北米や北欧などでの経験はあるのだが、この動画からアイルランドでのそれに興味を持った僕は、調べたデータをメールに添付し、海外フィッシングの専門旅行会社 トラウト&キングに相談をしてみた。
まず細かな希望を伝え、プランをまとめてもらった。
沖縄在住ということでフライトがちょっと面倒になるのだが、8日間という限られた日程の中、しっかりと5日間の釣り時間がとれ、かつ無理のないスムーズな乗り継ぎの往復便を用意していただいた。予算内のフライト料金でマイルが貯められるところがもしあればとの言葉も添えておくと、50%のポイントが貯まるという航空会社も見つけてくれた。おお、さすがプロフェッショナル♬どこかロシアの上あたりだったかなぁ。トイレに行く時がちょっと面倒くさいけれど、海外渡航時の窓際ってやっぱり楽しい。
2016年9月26日(月)朝。那覇空港を飛び立った僕は、フランクフルト経由でアイルランドの表玄関ダブリン空港へ。
現地時間で23時ちょい前に着くと、そこには静かに微笑むハンチング帽の老紳士が車で迎えに来てくれていた。フィッシングガイドのポールであった。
「はじめまして。僕は真一。シンと呼んで下さいね」
「ポールです。空港から宿までは1時間40分くらい。遠くからようこそ」ガイドのポール。地元の老舗釣り雑誌「サーモン&トラウト」に40年以上寄稿するフィッシングライターでもある。「シン、この周囲には大小350以上もの湖があるんだ。すごいだろ?」
いきなりトラブル発生!出船不能!?
明けて9月27日(火)。釣りの初日。
時差ぼけなのか、3時間くらいしか眠れずに朝を迎えた僕であったが、きっとこれはフィッシングハイだ。いよいよアイリッシュパイクに会えるぞというワクワク感に神経が高ぶっていたのだろう。
ポールとともに朝食を済ませ、午前9時30分に出発。
宿からは車で30分ほどのガラダイス湖にボートを下ろしたら、さぁ、出撃だ!………と書きたいところだが、
あれ、あれあれあれ、なんですか。この情けない音~~~!!
ポールのニッサンで湖に到着。スロープからボートを下ろしてさぁ、行くぞ!と思ったら…。
プスプスン! プスプスススン!!!
「オー、アイムソーリー。ボートのエンジンが故障です…でも大丈夫。サブの電動モーターがあります。規模の小さな湖だからこれでOK」
いきなりトラブルか~~~~い!!!
6秒間ほど目が点となり体が固まった…といってもどうにもならないのでポールの言葉を受け入れ「お、お、OK!」と僕は返した。
トゥロロロロ~~~、たぷたぷたぷたぷ。
空が広くて気持ちいい! 景色は最高なのだけど、ありゃありゃ、この風ではボートがなかなか進みませんよ。
電動モーターでのスローな推進を、波立つ湖面が受けてこんな音が立つ。
そうなのだ、風が強かった。
この一帯は平坦な土地で周囲に高い山などないせいか、むき出し状態の湖の釣りは影響をもろに受けるようだ。
うー、ノロい。この先ホントに大丈夫なのかな(・・;)。
…大丈夫ではありませんでした!
今回の旅で使ったルアー&フライフィッシングの竿とリール。手前のフライロッドはちょっと長め。ボートの先から出っ張っていたところを悪夢が襲った…。
昼すぎ。
モーターのバッテリー消耗を抑えるため(もともとメイン動力でないため1日フルに使えない)、ポールが手漕ぎで移動をしていた時のこと。
公園のローボート同様に後ろを向きオールを漕ぐ体勢となっていたが、前方不注意で水面に突き出ていた水深を示す指示柱に僕の竿の1本をひっかけてしまったのだ。
ミシミシ、ボキッ。
「オー マイ ガー…、オオォ、アイム ソー ソーリー、シン!」
な、なんか初日からスゴい展開になってるんですけど~。
今回の旅のために新調して来たフライロッドであったが、ひと振りもせずに折れてしまった。僕の心も折れる。
だが、数年前からの沖縄暮らしで「なんくるないさ~」(沖縄方言で「何とかなるさ」の意)精神がインストールされ、心がたくましくなっていた僕である。
今度はため息をつきながら14秒ほど固まったが、どうにか言葉を返すことができた。
「OK、OK! 大丈夫だよポール。レッツゴー、フィッシングさ~!」
そうなんだよ、釣りを続けねば魚の顔は見れない。特別な旅だ。落ち込んでいたら時間の無駄だ。
半日やっていて、まだ1匹も釣れていないし…。
「シン、今年は寒くなるのが早い。水温が急に下がった。その変化に魚が慣れるまで食いはシブいと思う」
ポールの解説では今回の日程はどうも良くない状況にぶつかってしまったようである。僕の到着前に降った大雨が、かなり悪い影響を与えていたようだった。
だが、これが釣り。
気まぐれな自然相手の遊びなので仕方がない。
風を避けるため水路に入った。ほかの釣りボートも同じ考えらしい。
天気予報では、釣りの3日目となる29日に向け風は次第に強さを増していくと報じていたが、実際にボートも流され気味になってきていたので、僕らは湖と湖をつなぐ水路へと逃げた。両岸に広がる樹木が防風林となってくれるのだ。
僕のアイルランド初パイク!大きさに関係なくうれしい1匹だ。ポールお勧めのルアーでキャッチ。
2匹目。何十年も前からある北欧ブランドの定番ルアーで。
ポールお勧めのルアーたち。左手の下のもので1匹目を釣った。このバケツは収納にとてもいいんだとポール。でも、けとばしちゃっては何度もひっくり返していたよ。
ここからようやく魚の反応が出始めた。6回のヒットがあり、半分バラしてしまったが3匹のパイクを釣ることができた。
サイズは全て小型であったが、心の中で叫んだよ。
「ハロー、アイリッシュパイク!!」
「今日はいろいろすまなかった」と釣りのあとでポールがパブに誘ってくれた。これはグリルド・ラム。グレービーソースをかけていただくのだけど、ビールとの相性は最高♬
愉快な!?名ガイド ポール
さてさてさて!!
初日からとんでもない展開となったが、ポールが巻き起こす目が点状態になるような出来事はこのあとも続いた。しかも毎日だ~~~っ。
2日目:コードがちぎれてしまい電動モーターが動かせない。
3日目:ランチを宿に置き忘れる(幸いにも? ボート釣りでない日だったので、途中でマクドナルドに立ち寄った)。
4日目:車でボートを牽引中、道路の段差で船外機のスクリューをぶつけて破損。この日も電動モーターしか使えず。
5日目:防寒着とウェーダー(胴まである長靴)を忘れたことを湖到着後に気づき、引き返す。
わっはっは。
パーフェクトでしょ!!ポールとの朝食風景。後ろはオーナー・アランの奥さんのオードリー。宿のアイリッシュブレックファストはとくに手前のソーセージが美味しかった。
ああ、伝説のコントバラエティ「ドリフの大爆笑」での、いかりや長介の名ゼリフが頭の中をグルグルとかけ巡る。
“もしもこんな釣りガイドがいたら…。”
「だめだこりゃ」
でもねぇ、不思議なんである。
こんなにもヤレヤレな目に合ったにもかかわらず、
帰国して振り返ってみると、ああ、楽しかったなぁ、また訪れたいなぁ…、
んでもって、ポールにもまた会いたいなぁという思いがジワジワとこみ上げてくるのだ。
ここまで読んで下さった皆さんの中には、
「なんで~~、もう、こりごりでしょ?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれないけれど。3日目の晩、毎週木曜日はアイリッシュミュージックの演奏があるんだと、宿のオーナー・アラン(左)とポールに連れられ地元のパブで乾杯。
これは人によるだろう。
僕の場合は、田舎ののんびりした空気感に性格がマッチしていて、
ポールのことも困った人だというよりは、「愉快な人だなぁ」ととらえられ、
連日のミスも笑い話として吹き飛ばすことができたからなのだと思う。
なんだかねぇ。
失敗ばかりしていたけれど、親切であったかい人だったんだよ。
宿にはフランスやドイツからのゲストもパイク釣りに訪れていた。言葉が通じなくても釣り好き、パイク好きというだけで、仲良くなれる。
ポールだけじゃない。宿のオーナー・アラン、奥さんのオードリーやキッチンスタッフ、釣りのあとで寄ったパブのスタッフや地元のお客さんたちの顔を改めて思い浮かべると、みんないい人ばかりで、居心地の良さを強く感じるキャッスル・ハミルトンステイだったんだ。
国際交流用に僕はパイクステッカーを作り、宿や出会った釣り人にプレゼントした。でも今回の旅は「パイク大作戦」というよりは「さ」抜けの「パイク大苦戦」だったな~。
もともとパイクの記録級を狙って!といったようなガッチリ型釣り目標を掲げてではなく(それだったらアラスカとか行きますもん)、Youtubeで見つけた光景に実際に自分が飛び込み、そこでパイクを釣りたいというのが大きなテーマだったので、その夢はきっちりと達成できたし、
また、数やサイズで考えれば貧果ではあったが、苦戦した中にもドラマチックな魚との対面があちこちにちりばめられ、結果はオーライな旅となっていた。
それでは、残り4日間の釣りも思い出してみよう。
憧れの体験もクリア。グランドスラムも達成だ!
釣り2日目。9月28日(水)
ポールが連れて行ってくれたのは、ラトゥータという美しい響きの名を持った湖。
ここで僕は、動画上でもっとも憧れた「古城をバックとした釣り」を体験させてもらった。
フェイスブックで画像を出すと「ドラゴンクエストの世界ですね!」なんてコメントが届いたが、うん、まさにそんな感じ♬城は湖に浮かぶ小島に建てられていた。岸際の浅場に狙いをつけ、ルアーをキャストすると…
「ここで釣ったら、素晴らしく絵になるぞ」
ドキドキしながら僕はルアーのキャストを繰り返した。
初日のヒットもそうだったが、速い動きに反応がないのでスプーンという金属片タイプのルアーをスローにヨタヨタ泳がせてはフワリとよろけさせたりして誘いをかけていった。
するとこの湖のほかのポイントではまったく反応がなかったのに、城の真正面でパイクがヒットした。
「きたよポール! パイク、パイク~っ!!」と叫んだ途端にバラしてしまったけれど。
とんでもなく、悔しかったなぁ。
何度も何度もスローモーションで思い出してしまうのは、ハリが外れたときに水面下で踊ったパイクの姿。
ああ、忘れられない!
パイクをバラしてしまったあと、島に上陸してコーヒーブレイク。古城を見学した。
裏に回るとこんな感じです。ポールにお願いして記念撮影。
釣り3日目。9月29日(木)。
初日から吹いていた風はさらに強まった。湖でのボートは危険で無理だとのことで、予定にはなかったが川でブラウントラウトを狙った釣りをすることに。
アナリー川という、水草が踊る緩やかな流れに入った。
この国では、パイク釣りには不要だがブラウントラウトを釣るには入漁券がいるので注意。釣期は3月から9月いっぱいということで、運良くギリギリのところで楽しむことができた。
ここで僕は、ブラウントラウトだけでなく、パーチという魚も釣ることができた。
ブラウントラウト。日本にも外来種として生息しているが、こちらは生粋のネイティブ、原種。スペシャルな魚との出会いに思わず笑みがこぼれた。
パーチ。パイク同様ヨーロッパ圏ではポピュラーな釣魚。ブラウントラウトとともに、愛用している60年代製のクラシックなリールを使い釣れたことがうれしかった。
午後からは風も弱まり牛ものんびりと昼寝をしていた。まるで写真集や絵本にでも出てきそうな美しい風景の中、僕は釣りを楽しんだ。
そのことは非常に大きな喜び、幸運を感じさせてくれた。
なぜなら、この2種とパイクをあわせた3種のキャッチは、僕の中での勝手な『アイリッシュ釣魚グランドスラム』達成であったのだ。
初めての土地で欲張り過ぎはよくない、今回はパイクに集中だ! とその目標は立てていなかったのだが、なんともうれしい展開となった!
釣りのあと、僕らはパブに寄り、乾杯した。
釣り4日目。9月30日(金)。
ポールが、仲の良い釣具屋店主からいい情報を得たよと、ブンネラキィ湖へ。
釣り場へ向かう途中でのスナップ。街並をながめるのも楽しい。
看板も素敵だ。おみやげに持って帰りたいくらい(笑)。
やっと風が止みおだやかな日を迎えたので、ルアーフィッシングと同じくらい大好きなフライフィッシングを試みた。
ただ、天気が良すぎた。「晴れて、しかも今日みたいに湖面が静かすぎる日は、光を嫌うパイクはナーバスになってしまうんだ」とポール。
岸際の浅場でフライにパイクがヒット!ジャンプもして大暴れ。
うれし~~っ! フライの竿は初日に折れちゃったので、ポールに借りたもの。「買ったばかりでそのパイクが初フィッシュさ。シンに釣ってもらえてうれしい」とポール。
そんなハードな状況下であったが、僕は3回のヒットを得ることができた!
1匹目はバラしてしまったが、そのあとの2匹は釣り上げることができた。
最終日まで風が強かったらフライはできないかもと気にかかっていたが、やれてよかった。
フライでのアイリッシュパイク初キャッチ記念日に。
2匹目は64cmだった。大きさを測る専用のスケールはあとでポールがプレゼントしてくれた。Thanks!
コーヒーの横の2つは自分で巻いて来たもので、この日のヒットフライ。パイクががっぷりくわえたのでぐちゃぐちゃに。上の2つはポール作のフライ。
釣り5日目、最終日。10月1日(土)。
キラシャンドラから少し南に下ったところに位置する小規模な広さのガワナ湖で、フライフィッシングをもって締めることにした。
午前9時半に湖に到着。
「おお、シメの最終日。今日はたっぷりと釣りができるぞ~~~」
ところが、宿を出る際に「今日は冷え込むから防寒をしっかりな!」と言っていたポール自らがまさかの上着ほかの忘れで引き返し、1時間の実釣タイムロス…。ほんとうにポールのキャラは最高だ。前の晩に「明日はラストデイだから、もうノーミスで頼むよ」とあれほど言っておいたのに~~~。
釣りには良くないが写真撮影には最高な一日となった。放牧されている牛たちを眺めながら気持ちよくキャスティング。
白鳥たちが休んでいた。平和だねぇ。
前日同様に晴れてタフな日となったが、
運良く昼くらいに1匹を釣ることができた。
同じ湖に出ていたフランスからのゲストもルアーとフライで1日やって、3人で4匹だったそうな。
価値ある1匹だった。この1匹が出た、出なかったでは、旅の思い出も相当違ったものになったことだろう。
今回の旅のラストフィッシュとなったパイク。湖に流れ込む水路で釣った。
そして…。
10月2日(日)。
ポールにダブリン空港まで送ってもらい、僕は帰国の途に着いた。
それまでの流れから、途中でパンクなどして飛行機に乗り遅れるのではとヒヤヒヤしていたのだが、そんなこともなく到着。
「キープ イン タッチ!」とハグをして別れた。
最後の最後で羽田空港から沖縄への便が台風で欠航となったが、帰りが延びたことで都内に住む体調を崩していた父の見舞いに行けたので、運がよかったと受け止めよう。
こうして僕のアイルランド・パイク釣り旅は、幕を閉じた。
書き出して、思い出して、あらためて笑ってしまった。
本当に“ものすごいドタバタ旅”だったんだなぁ!!と。
ところで、ポールもアランも、僕にまたキラシャンドラに遊びに来てほしい、と言っていた。
パイク釣りに興味のある日本人がいればグループでおいで。大歓迎するよ!とも。
ギネスは日本でも飲んだことがあるが、今回地元で飲んだものは「別物?」と感じられるほどの美味しさ、飲みやすさだった。気候の違いなどが関係しているのかなぁ。
いかがですか、どなたか?
今回の僕のレポートを読んだらおじけづいてしまうかもしれないが、旅ではハプニングもいっしょに楽しんじゃうよという気の合う方がいらっしゃいましたら、是非ご一緒しましょう。
もしあまりパイクが釣れなくても、たまらなく美味しい本場のギネスをしっかり味わえることは、保証しますので!