太古の形質を今に残すカエル 「チョウセンスズカエル」を探して(韓国北漢江)
太古の形質を今に残すカエル 「チョウセンスズカエル」を探して(韓国北漢江)
生きた化石チョウセンスズガエル
チョウセンスズガエルとは朝鮮半島および中国の一部のみに生息しているスズガエル科の美しいカエルである。
スズガエル科が含まれるムカシガエル亜目はカエル類の中でも比較的原始的なグループに位置づけられている。
スズガエル類の化石は遥か古代の鮮新世と更新世の地層からも産出されている。当時から現在に至るまでさほど姿を変えず生き残ったいわば『生きた化石』と言えるだろう。
また、容姿だけでなくその名前の由来となった鈴の音に似た産卵期に雄が発する鳴き声がも美しいことから、日本でもペットとして流通することがある。
私は、この古代の香りが漂う姿を観察するために韓国を訪れたのである。
いざ北漢江へ
今回は空港から車で1時間半ほどの北朝鮮との国境近辺である北漢江を中心に隈なく捜索した。
朝鮮戦争の名残か?至る所にトーチカを見ることができる。
韓国と北朝鮮との国境付近ということでいたるところに緊張状態を感じながらも、草むらや側溝で二ホンアマガエルとトノサマガエルそして、ツチガエル近似種を確認することができた。
日本のツチガエルの近縁種と思われるカエル。
腹の色が黄色く、この点は日本のサドガエルに似る。彼らは日本が大陸から離れた際に分岐したのだろうか。三種のカエルの関係性にも興味が湧く。
しかし、肝心のチョウセンスズガエルは中々見つからず夕方を迎えた。
捕獲開始
若干の焦りを感じ始めた時、藪に囲まれた小さな池を見つけ、草を分け入り池に向かった。
そして、水際までたどり着くとそこに一匹の見慣れないカエルが水面に浮いていた。日本に生息するカエルとは、明らかに異なる。チョウセンスズガエルである。
チョウセンスズガエル遂に現る。まだこちらには気付いていない様で逃げる様子はない。
辺りを見回すと、その池にはかなりの個体が水に浮いていた。どうやら、チョウセンスズガエルの国との国境を越えたようだ。
まずは実際に手に取って観察しようと持ち合わせた網で次々と捕獲していった。ついにこちらに気付き非常事態宣言発令。自ら水から上がり方々に逃げ惑う。
チョウセンスズガエル背中の突起が全て毒腺であるという。この毒腺から比較的強い毒を出す。また、水棲の傾向が強いせいか、水掻きの発達が著しい。
その毒は自身よりはるかに大きな捕食者を死に至らしめる事もあるほどだという。
腹面には捕食者などに毒をもっていることをアピールするための鮮やかな警戒色を持つ。
暗くなってくると、包接を行うペアを見かけるようになる。この池はスズガエルたちにとって絶好の産卵場所だったようだ。
背面に褐色が乗る個体
あまりの興奮の中、気が付けば捕獲と観察は夜まで続いた。暗闇が訪れるとともに蛙達の夜の営みはますます盛んに行われ、雄たちも鈴の音色を奏でた。
毒の効果
蛙の中には体表に毒をもっている種が殆どである。微弱な毒をもつ大半の蛙の種は、鱗などを持たず皮膚が薄い粘膜で包まれている為に傷つきやすい。微弱な毒は傷ついた皮膚が細菌などに感染することを防止するため毒が機能しているという。
しかし、今回紹介したチョウセンスズガエルやヒキガエルのように捕食者から身を守る毒を有するもの。はたまた、その毒があまりに強烈で人間の殺傷能力数千人の毒を体内に蓄積するヤドクガエル等も存在する。
チョウセンスズガエルが太古の昔から大きく姿を変えずに生き残れたのも、ひょっとするとこの毒のおかげによる部分が大きいのかもしれない。