落ち葉にそっくり! 不思議でおいしい漂流魚「マツダイ」
落ち葉にそっくり! 不思議でおいしい漂流魚「マツダイ」
夏から秋にかけて、漁港のゴミ溜まりをよく見ると奇妙な物体に遭遇することがある。
大きさは3cm程度のものから30cmを超えるものまで様々。一見すると水面を漂う落ち葉なのだが、絶妙に挙動が不自然…。
近くを小魚やエビなどが泳いでいると、ゆるゆると流され(るフリをし)てそちらへ近づいていく。
ゴミに紛れて水面に浮かぶ黄色い物体…。
あるいは人間が覗き込むと、これまたふわ〜っと潮に押されるようにさりげなくゴミ溜まりの下へと姿を消す。わかりにくいが、間違いなく意思を持った生物の動きである。よく見ると…魚だ。
この生物の正体はマツダイ(Lobotes surinamensis)という魚の稚魚あるいは幼魚である。
マツダイとは
マツダイはスズキ目マツダイ科に属し、世界の温暖な海域に広く分布している魚である。
マツダイ。背鰭と臀鰭が後方へ突き出ていることから英名を「トリプルテール」という。
研究者によってはマツダイ科にマツダイ属のほかに淡水産の観賞魚として人気の高いダトニオイデス属を含むこともある。〔アジアアロワナの生息地はどんなところ?より(写真提供:Yamane Hiroyuki / Yamane Masayuki)〕
本種は横に扁平な身体の色を黄褐色〜暗褐色に変化させ、海面を漂う落ち葉に化ける習性を持っている。
しかも、先述のとおり外見だけでなく、魚体を横たえて漂う姿勢や揺らめき方まで落ち葉に似せてくる演技派である。
マツダイは流れ藻などの漂流物にくっつき、海流に乗って移動する生活を送る。
そうした漂流物に、自身も落ち葉として紛れこむことで捕食者から身を隠すことが、あるいは餌としている小魚やエビにも気づかれずに近づくことができるのだ。台風の後などはこうした漂流物が港に流れ着きやすく、マツダイ観察の絶好の機会となる。
どこにいる?
一つのポイントで見られるマツダイたちは大きさがある程度揃っていることが多い。
指先ほどのサイズばかりがうじゃうじゃしている港もあれば、船溜りに30cm近い個体が何匹も浮かんでいることもある。
おそらく、同時期に同じ海域で産まれた個体群が固まって流されるのだろう。
汽水域まで侵入することもある。河川の汽水域、しかもコイが生息するほど上流で捕獲された個体。全長約25cm。
成魚は同じく漂流物を好むが、あまり沿岸へ流れ着くことはない。
沖合の潮目に溜まったゴミや流れ藻に多く居つくようで、同じような条件を好むシイラ(Coryphaenahippurus)を狙う漁師や釣り人が偶発的に混獲することがままある。沖合でのシイラ釣りの最中に釣り上げられたマツダイ。(写真提供:大塚涼奨)
最大で1mを超えると言われ、幼魚時代はオヤニラミ(Coreoperca kawamebari)に近い印象だが、
味も良し!
また、稀なことだが、食味が良いため市場へ流通することもある。近海で漁獲されるマイナー魚類の中では比較的高値がつくようである。
肉は筋肉質で歯ごたえも良く、上品な甘さがあって美味い。マツダイのムニエル。クセの無いスタンダードな白身魚の美味さ。あらゆる料理にマッチする魚だ。
透けるような白身と鮮やかな血合いの赤のコントラストが美しく、お造りにしても高級感が出る。値段に見合う良食材と言えるだろう。
市場で見かけたら試してみることをおすすめする。なんとブラジルはサンパウロの市場にもマツダイが!あちらでもそうそう出回る魚ではなく知名度は低いが、値段はそこそこ高い。
捕まえ方
シーズンは夏から初秋。
稚魚は流れ藻をタモ網でごっそりと掬い、網の中で藻をより分けて獲る。アクリルやプラスチック製の観察ケースを持っていけば、可愛らしい姿を堪能できるだろう。漁港内の流れ藻や浮きゴミが溜まっている場所が狙い目。港の角や船溜まりは必ずチェック。
手のひらサイズ以上の幼魚は浮かんでいる個体を見つけ、<鼻先へ小さなルアーやゴカイ、小イカなどのエサを顔の前へ通して釣り上げる。エサが視界に入ると横向きに浮いたまま滑るように接近して食いつく。ただし、非常に眼が良く、<ルアーを用いるとすんでのところで見破られてしまうこともある。警戒心が薄れる夜間の方が釣りやすい。ある程度の大きさになると網で掬うよりも釣りで捕獲する方が確実。
大型個体は沖合の潮目に溜まる漂流物周りにルアーを投げ込んでいると釣れることがある。ただし、個体数は多くないのであくまでシイラ釣りのオマケ、釣れれば超ラッキーくらいに思っておいた方がよさそうだ。意外と顎の力が強く、細かいが鋭い歯も生えている。針を外す際などはうかつに手を挿し入れないよう気をつけよう。また、背鰭のトゲが指などに刺さると激しく痛む。刺毒の類を持っているのかもしれない。