知られざる外来種アフリカツメガエル (和歌山県・田辺市)
知られざる外来種アフリカツメガエル (和歌山県・田辺市)
カエルの外来種といえば、ウシガエルを筆頭にオオヒキガエル、シロアゴガエルなどが有名な話。
だが、皆さんはアフリカツメガエルという蛙が日本に定着しつつあることをご存知でだろうか?
確かに生体を確認できるのは、非常に限られたエリアであることも事実である。私とアフリカツメガエルを結びつけたのは、何気なく『日本のカエル図鑑』を眺めていた時であった。
私はその時、日本での生息を知った。
その図鑑は日本のカエル46種を紹介した図鑑であったが、その一部に世界のカエルを紹介しているページがある。そのページにアフリカツメガエルが紹介されていたのだ。
そこには『静岡・和歌山に生息』と書かれていたのである。今にも車に飛び乗ろうという気持ちを抑え、ネットで検索してみる事にした。
・静岡は既に絶滅している可能性があるという事
・和歌山県田辺市に粗定着していること
この2つの有力な情報を得ることができたのだ。
私は居ても立っても居られなくなり、颯爽と車に乗り込み、和歌山県田辺市まで620㎞を走らせた。
アフリカツメガエルとは?
ピパ科クセノプス属のカエルの一種で本来アフリカ中部から南部に生息する。一生の殆どを水中で生活する為、水掻きが発達し後ろ足の指に爪が生えている、これが名前『ツメガエル』の由来になっている。
日本に生息する他の蛙ではナミエガエル以外は水中捕食を行わないのだが、アフリカツメガエルの捕食も水中で行う。
又、環境適応能力の面で非常に優れており、本種はアフリカ原産ながら耐寒性を持ち、水が凍りさえしなければ無加温越冬が可能である。オタマジャクシ(幼生)時期は形状が非常に鯰の形状に似ており遊泳能力に富む。
現在は、外来生物法により要注意外来生物に指定されている。
今回観察した場所にて、時期を変えて撮影したアフリカツメガエルのオタマジャクシ。
外観からはナマズの幼魚と見間違えそうになる。
繁殖の実態と生息地
東京を出発して8時間後、事前にお電話で御約束していた田辺市自然環境研究会の玉井済夫会長にお会いして、現状と駆除の経過などについて詳しくお聞きした。
玉井会長が仰るには、2007年に白浜町の写真家、内山りゅう氏が2つの新庄町の鳥の巣地区のため池で発見し、玉井会長らの調査で地区内の7つのため池で繁殖していることが分かった。
その後、何度か池の所有者の許可をとり、水を抜いて駆除を行ったが、泥の奧に逃げ込んでしまい。水を入れた後に泥から出てきて、再び生息数を増やしていく。
現状では駆除の大き成果は見られていない。等々、非常に興味深い話を1時間程お聞きした後、玉井会長と共に和歌山県田辺市新庄町の鳥の巣地区へ到着した。
そこは小さな海に突き出したとても小さな半島であったが、半島内に沼池、田畑や小さな森が存在し、いかにも日本の自然を濃縮したような様であった。
日本の自然を濃縮したような風光明美な自然を残した様子。
棲息地とされる沼
その沼の一つに入り、早速釣りの用意に取り掛かった。上記したように水中での捕食を行うので今回は釣りにて捕獲する段取りだ。
エサは事前に調べていた彼らの好物「鶏レバー」。仕掛けはハゼ釣り用。
そして釣り竿は私と共に数々の修羅場をくぐり抜けてきた名刀『かんたん川池SP 210』!…つまり普通の延べ竿である。
早速、仕掛けを沼に投げ込んだが中々動きはなく時間だけがゆっくりと過ぎていった。暫く放置しておくことにして、周辺のカエルの生息状況を調べてみることに。
というのも、アフリカツメガエルは他の国のカエルを死滅させる恐ろしい菌の保菌者となりえることを知っていたからだ。
ツボカビ菌である。
ツボカビ菌は、両生類の体表に寄生し、その個体が皮膚呼吸を困難とし死滅する病気である。過去にオーストラリア、北米、南米の一部で蔓延し、世界的な両生類の生息数と、世界の両生類の種の30%もの種数の減少に関連しているともいわれている。
一方、アフリカツメガエルやウシガエルは、この菌に感染しても発症しないとされ、日本国内でも、かなりの確率で両種の個体からツボカビ菌が検出されている。
この様な状況の中、国内種においても僅かではあるがツボカビ菌が検出されたにも関わらず大きな被害が及んでいない。
というのは、ツボカビ菌の発見から研究が進むにつれ分かってきたことだが、日本のカエルは本来この菌を保有し、しかもこの菌には多数のタイプがあることが分かり、あるいはこの菌の起源が日本に有るかもしれないと推測されるようになったのである。実に興味深い話である。
国内種の生息状況
上記のツボカビ菌の状況も踏まえ、ひょっとしたら、近隣に国内種カエルの死骸がないか等、他のカエルの生息状況を自分の目で確認することにした。
暫く、網を片手に周囲の田んぼや側溝を探ったところ、トノサマガエル、ヌマガエル、二ホンアマガエルの元気な姿を拝むことができ、また、目立った蛙の死骸を確認することはなかった。
トノサマガエル Pelophylax nigromaculatus
環境省により、レッドリストの準絶滅危惧(NT)に指定されている。日本を代表するカエルであるが、実は朝鮮半島、中国、ロシアなどにも生息している。
ヌマガエル Fejervarya kawamurai
西日本を中心に多く生息する比較的容易く観察できる種
二ホンアマガエル Hyla japonica
言わずと知れたアマガエル。
いつのまにか釣れてた。
30分ほど散策を行ったであろうか、置き竿をしているところに戻ってみると竿先は沼の中に浸かっており、更に竿が沼に向かってどんどん引き込まれている状態であった。危うく名刀『かんたん川池SP 210』を失う事態である。
慌てて、竿を拾い上げ引っ張ると手元に小気味よく生命の反応が伝わる。引き上げてみるとそこには一匹の黒いカエルがぶら下がっていた。
『あっ!釣れてる』
見事、釣りあげる事に成功していたのである。いつのまにか。艶やかな黒い肌。日本のカエルでは存在しないピパ科の特異なフォルム
水生というだけあって発達した水掻きと、名前の由来となった爪が目立つ。
その後、数匹のアフリカツメガエルを釣りあげその場を立ち去った。
今後のツメガエルの繁殖と生態系への影響に関しては勿論注意していかなくてはいけないのではあるが、同時に着用した長靴と網に関しては、帰宅後、しっかり塩素系の食器洗剤を薄めたものに浸けて消毒を行った。
というのは、ツボカビ菌の他国での蔓延に関して大きく影響するのは我々人間のフィールドワークが大きく影響しているとも言われているからである。
皆様も海外遠征などに出掛ける際は、使用した道具への泥及び菌の付着などには十分気をつけて頂きたい。蛙と自然を愛する私からのお願いである。