古都の主ビワコオオナマズ 初めての一匹までの道のり(京都)
古都の主ビワコオオナマズ 初めての一匹までの道のり(京都)
ビワコオオナマズ(Silurus biwaensis)
ご存知の方も多いだろうが、ビワコオオナマズは世界でも琵琶湖水系のみに生息する日本最大のナマズであり、日本最大の純淡水魚である(アオウオなどの外来魚は除く)。ちなみに純淡水魚というのはその個体の一生が淡水域で完結するものを指すため、アカメやイトウなど海に降りる魚は純淡水魚から外れる。
この記事はタイトルにあるように、僕が自身初のビワコオオナマズを釣るまでの記録である。
僕が初めてビワコオオナマズを釣ることに興味をもったのは、高校生の春休みに学校の旅行で宇治川を訪れた時だった。
その時は釣り竿も持ってきてはおらず、気になっていた女子もその旅行に参加していたのであまりオタクな行動をする勇気はなかった・・・(懐かしいなぁ)。
実際に宇治川を見てみても「こんな流れのはやい場所にはビワコオオナマズはいないかな」と勝手に決めつけていた。
観光地として名高い宇治、ここに日本最大の純淡水魚が潜む
1度目の挑戦:京都旅行から1年以上の時がたち、関西の大学に進学し奈良県に移り住むことになった僕は、引っ越しと同時にビワコオオナマズを本気で狙ってみようと思うようになった。
初めての釣行はゴールデンウィークの終わりも見えてきた5月初旬、この時は地元から奈良に戻るときに一緒に来た北海道に住む高校時代の友人と二人で釣りをした。ポイントは流れが複雑そうな淀川と木津川の合流点あたりを選んだ。
丁度よい流れ込みがあったので友人と決め、一晩粘ってみる。
ちなみに仕掛けは単純なぶっこみ仕掛けである。エサはアユのぶつ切りを使った。(僕の一日の食費より高い…)
友人と二人、河原で高校時代の話をしたり、歌を歌ったりしながら次の日の朝6時まで待ったがその夜はボウズだった・・・。
5月とはいえ、深夜から朝にかけては気温が低下し、眠れないほど寒く今までにないほど夜明けが待ち遠しかった、これから野営はせず終電に間に合うように帰る作戦にすることを固く決心する。
惨敗だった初回だが、この夜ビワコオオナマズを釣ったことがある釣り人に話を聞くことができた。彼らによるとビワコオオナマズは淀川水系の上流部、宇治川に沢山生息しているといわれた。
Google マップで彼らが教えてくれたポイントは、まさに学校の旅行で訪れた場所のすぐそばだった。
2度目:1度目の挑戦の次の週末、久しぶりに宇治の土地を一人で踏んだ。相変わらず町並みはきれいで、ここにビワコオオナマズが生息しているとは思えない・・・と思ったが、流れを意識して歩いてみると意外に流れが複雑で良さそうな場所が豊富にある。
宇治に着いた時にはまだ明るかったので教えられたポイントではなく、自分で別なポイントを探そうと宇治川の上流部まで進んでみることにした。(自分なりに足掻いてみたかったのだ)しばらく歩くと良さそうな流れがあった、よしここにしよう。
明るいうちは綺麗な自然に目を休ませていたが日が落ちると真っ暗な中完全に一人になり、あまり心霊系が得意でない僕なビビリ倒してしまった(我ながら情けない)。
肝心の釣りは流れが速く、根掛かりが多発してしまい道具の消耗が激しく辛い状況でアタリひとつない。
しかしこの釣り場は生き物が多く、夜になると岩場にテナガエビが手掴み出来てしまう程集まってくる。その日も竿が曲がることはなかった。
ふとエサのアジ(アユが売ってなかった)にライトを向けると15cm程のムカデが、ちょっと嬉しい出会いだった。
街灯が全くと言っていいほどないので、真っ暗でひたすら怖かった。
3度目もこの場所で夜10時ぐらいまで粘ったがアタリらしいアタリは無かった・・・
4度目:3度目までの失敗を活かし、今回からは根掛かりの原因となる流木や大きな岩が少ない人に整備された宇治の街のすぐ近くで釣りをすることにした。町の近くだと通い易く、明かりもあるので幾分恐怖が軽減されるのも大きな利点だ(かなり重要)。
河原を歩いているとガッツリ刺青が入った表情がやけに厳しい男性が釣りをしていたのでフラフラしながら話しかけてみた。(この時微熱があり判断力が欠けていた。え?熱があるなら家で休めって?)
話しかけてみると見た目から想像できないほど(失礼)紳士で、彼の横で釣りをすることを快く許してくれた。
話を聞くとその紳士も70cm程のビワコオオナマズを釣り上げたことがあるらしい。ちなみにこのとき僕は釣り竿を持ってきているものの、うっかりリールを自室に忘れるという釣り人としてあってはならないミスをしてしまい手釣り以外の選択肢がなかった(ホントに体調が悪かった)。
釣りを始めて30分ほど経つと釣り糸が引き込まれたので、少し送り込んでから引っ張ると50㎝を超えるオオクチバスが付いていた。
バサーに怒られそうだが、エサ(アユ)で釣ってしまった。この後大学の友人と食べたが臭みが全くなく、弾力があり美味しかった。(紳士撮影)
釣り人というのは不思議なもので、釣れる前までは苦しかったのに一度釣れてしまうと元気になってしまう現金な生き物だ。その日はこれ以上釣れず4度目もビワコオオナマズの姿を見ることはできなかった。
5度目:結論から言うとこの日は完全にボウズだった。しかし、同じくビワコオオナマズを狙っている釣り人がいたので話してみると、その人は去年の夏から宇治川に通っているが残念ながら一匹も釣り上げることはできていないようだ。・・・やはり最初の一匹までが長そうだ。
自分の釣り方はこれで正しいのか、そもそもポイントが合っていないのではないか、などと考えることもあったが、ビワコオオナマズを追っている間その不安自体を釣りの醍醐味として楽しんでいる僕がいることに気付いた。
何度も何度も失敗して得られる初めての一匹は、きっと今までの経験をすべて肯定してくれるだろうと確信していた。この時僕はモチベーションを上げるために河原で Back number の 「僕は君の事が好きだけど君は僕を別に好きじゃないみたい」を口ずさんでいた。(冷静に考えなくてもかなりヤバい奴だが、普段はまともな大学生です)
6度目:4、5度目に行った場所に行ってみると、かなり増水していたのでもっと釣りやすそうな場所を探すことにした。
探すといっても宇治の街中なのでそんなに時間はかからないのだが・・・
歩き始めて5分ぐらいすると明確に流れと淀みが分かれているポイントがあり、ふと川をのぞき込むと、・・・いた。
人生初めて見る野生のビワコオオナマズがそこにいた。
80cmぐらいはあるだろうか、形態は普通のナマズに似ているが明らかに大きさが違った。しばらく釣りの準備をすることも忘れて観察していると彼女は深みへと消えていった(ビワコオオナマズはメスがオスよりも大型化するので、その時見た個体はメスではないかと考えられる・・・変態なわけじゃないよ!!)。
興奮を抑えながら釣りの準備をしていたが、その間にも水面が騒がしい。
仕掛けを投げてから一時間ほど待つとアタリがあった、少し待ってからアワせるがノラない・・・。
同じポイントにもう一度投げるとすぐにアタリがあった。今度は重みがある、ビワコオオナマズか!
しかし巻いてみるとなんだか軽くどこか懐かしい引きである・・・。
結局水面を割ったのはチャネルキャットフィッシュだった。
久しぶりの再会だった、高校一年の頃この魚を釣りたくて家から霞ケ浦まで往復4時間以上かけて釣りに行っていた。(実は家から近い江戸川にも生息していることを知るのはずっと後のことだ)
再会は嬉しかったが、今ではない感が半端ない。
その日は9時まで釣りを続けるがビワコオオナマズの捕食音らしい音が聞こえただけで終わってしまった、しかしその姿を見られただけで気分は明るかった。(チャネルキャットフィッシュは美味しくいただきました)
7度目:今までは毎週末に宇治に通っていたが、大学の講義の都合で木曜日が休日になったので宇治に行くことにした(決してサボりなどでは断じてない)。この日は近所のスーパーにエサとして身持ちの良いアユやイカが売っていなかったのでイワシをエサとして購入した。(後々後悔することになる)
釣り場は当然、前回ビワコオオナマズを目視した場所だ。いそいそと仕掛けを準備してイワシを釣り針に刺し川に投げ込・・・めない。イワシの身が柔らかすぎて投げ込もうとすると外れてしまう。仕方なく固い頭部を選んで投げ込んでみる。
するとすかさずアタリがあった。明らかにこの前のチャネルキャットフィッシュより大きい。リールから糸を出し深く食い込ませようとするがエサに違和感を覚えたのか、なかなか仕掛けを持って行かない。
その後も何度かアタリがあったので、アワセのタイミングを変えたりするなど試行錯誤をするが、一度もハリ掛かりせずにエサを使い果たして終了してしまった。
8度目:前回は多くのアタリがあった。しかし釣り場全体で反応があるのではなく、釣り場のある限られた場所でのみ多発していることが分かった。
今回はその限られたスペースを重点的に攻め、アタリのあとのアワセも行きの電車の中でイメージトレーニングを重ねて準備は完全だった(エサは当然身持ちの良いアユである)。
今日は釣れる。
そう確信していたのでいつもより心拍数が高かった。
釣りを始めると早速アタリがあった、時間を置きアワせると、重い。と思った瞬間軽くなった。
おそらく咥えこんだだけで、ハリに掛からなかったのだろう。
一呼吸置き落ち着いてからまたエサを投入すると10分程してからアタリがあった。
竿が大きく曲がった瞬間、脇に力を込めてのけぞるようにアワせる、遂にノった。
次の瞬間、水面に大きな水しぶきが上がった。ビワコオオナマズだ!!
僕は確信した。ファイト時の記憶は興奮しすぎていて曖昧だが僕はビワコオオナマズをランディングするために川に飛び込み、胸から下をビショビショに濡らしながらフィッシュグリップを相手の口に突っ込みハリを外した。
八度目の正直。遂に釣った、いや、釣らせてもらった一匹だ。
測ってみると全長83cm、ビワコオオナマズの中では決して大きくないが、それでも僕にとって最高の一匹だ。
セルフタイマーで撮ったためあまり写真の構図や質は良くないが、そんな小さなことはどうでも良かった。(顔が崩壊していると次の日写真を見せた友人に言われた)
写真撮影が終わった後、また僕は川に入りビワコオオナマズをリリースした。
深みに消えていく姿を見ながら、釣れてくれたことへの感謝と静かな生活を邪魔してしまったことへの謝罪の気持ちが生まれた。
おそらくしなくてもいい遠回りをしたんだろう、でもこれでよかった。心の底から今までのすべてが正解だったと思えた瞬間だ。おそらくこれ以上の感動はビワコオオナマズを釣ることでは得られないだろう、だからこそこの一匹は価値がある。
川から上がると風が吹いていて寒かったが、とても心地よく、宇治の町は美しかった。