日本最大の干潟に巨大ハゼクチを追う(佐賀県・有明海)
日本最大の干潟に巨大ハゼクチを追う(佐賀県・有明海)
日本には493種のハゼの仲間が生息しており、魚類の中で最も多くの種で構成されているグループである。
「ハゼ」の語源は、その姿形が玉茎(はせ)、男茎(おはせ) つまり、男性器に似ていることに由来するという説まであり、男女に関わらず日本人に愛され続けてきた魚であることが判明した?そんなハゼに敬意を表し、以下、ハゼクチを一部『おはせ』とお呼びしたい。決して下ネタではないことをご理解頂きたい。
因みに国内の大型なハゼは、沖縄諸島に生息するホシマダラハゼやタメトモハゼなども有名。
ホシマダラハゼ(Ophiocara porocephala)
アマゾンの古代魚タライロンに似ており、琉球タライロンの異名を持つ。非常に獰猛で昆虫系のルアーなどに水面を割って激しく襲いかかる。最大で35cm程になるゲームフィッシングの人気ターゲット。
タメトモハゼ(Ophieleotris sp.A)
非常に色鮮やかで30cm以上になる大型種。ホシマダラハゼ同様ルアーに果敢にアタックしてくる。
ハゼクチ(Acanthogobius hasta)
一方、強烈な個性を持ちアグレッシブな南国のハゼ達に負けず劣らずの大型ハゼが、九州の有明海にいる。大型というよりその容姿は非常に長いとか…..
そう!ハゼクチは、日本最大の大きさ(長さ)を誇る巨大なハゼであり、有明海や八代海のみに生息する固有種。その大きさはなんと!最大で60cmを越えてくる一年魚である。
2019年1月。産卵期を迎え益々大型化するハゼクチを狙うため、有明海の堤防を訪れた。反応のない竿の前で彼是3時間程座り込んでいただろうか。
潮が引き広大な干潟が現れたかと思うと、夕暮れと共に潮が満ちはじめ、あっという間に干潟特有の濁った海水が堤防の足元まで押し寄せた。
有明海は日本最大の干潟が横たわる豊かな海。アリアケスズキ以外にも多くの固有種とハゼが生息している。
ワラスボ(Odontamblyopus lacepedii)
このワラスボもハゼの仲間。その容姿はハゼ界ナンバーワンのインパクトを持つ。
ムツゴロウ(Boleophthalmus pectinirostris)
暖かい時期に干潟にあらわれるムツゴロウ達。其のかわいらしい仕草は干潟のアイドルと言ってよいほど。
もちろんムツゴロウもハゼの仲間。
日が完全に落ちると気温は一層下がり、更に風が吹き出した。体温を急激に奪われながら、ただひたすら耐え、ハゼクチからのコンタクトで鈴が鳴るのを待ち続けた。もうこの状態になると、風で僅かになった鈴の音、スマホの着信音、波の音すべてが鈴の音に聞こえだす。
20時を過ぎた頃だろうか。満潮に近づき、確かに幻聴でない鈴の音と共に竿先が揺れた。あがって来たのは、20cm程のハゼクチ。そこから最初の一匹に喜ぶまもなく、堤防に鈴の音が鳴り響き、途切れることがなかった。完全に時合到来で、餌を変えて投げ込めば、直ぐに竿先が曲がる状態が続く。
そんな中、ひときわ竿先が曲がった。あわてて煽った竿に飛び切りの重みを感じ、そして、水面で暴れる魚を思いっきりぬきあげる。上がってきたその大きな魚は、紛れもなく巨大なハゼクチである。
なんと!43cmの『おはせ』のおでましだ!
その後も潮止まりまでの約1時間半程で、30匹程の怒涛の巨大『おはせ』達が押し寄せた。
充分な釣果に満足すると冷え切った身体と空腹に気付いた。事前に用意しておいた、鍋の準備に取り掛かる。九州と言う事で『もつ鍋風』にアレンジしてみた。ふわふわの身にしっかり脂がのっており、キャベツの甘みと共に絡みつくもつ鍋スープが良く合う。冷えた身体に染みわたる絶品の鍋となった。
その後、持ち合わせた調理器具の兼ね合いで、残ったハゼクチは行きつけの居酒屋に持ち込み美味しく頂いた。
先ずは刺身。淡白でありながら甘味がありとても弾力がある。滅多に食すことのないハゼの刺身に感動していたのは束の間、お店のメニューから注文したカンパチの刺身に玉砕される形となった。
続いて天婦羅。もう文句一つございません。刺身とは変わって、ホクホクで身に蓄えた脂は甘味に変わる。流石のハゼ料理の鉄板。
双方調理法によってそれぞれ個性が出た料理。素晴らしい出来栄えと味にお酒がすすむ。ちょっぴり酔ってしまったようだ。
『もう…『おはせ』しか愛せない…』恥じらいながら呟いてしまったような気がする。