青空とブラックウォーター。インドネシア・カリマンタン島で、極上のフラワートーマンを探す。(後編)
青空とブラックウォーター。インドネシア・カリマンタン島で、極上のフラワートーマンを探す。(後編)
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翌朝。温く湿った空気が辺りに充満している。肌にまとわりつくような、この南国特有の空気が大好きだ。さて、カリマンタン奥地で迎えた釣行3日目。この日の午前中は、違う魚を狙ってみる事になった。
狙う魚はワラゴレイリーだ。フィールドは家の前を流れる川。その川の上流で、トローリングやキャスティングをしながらレイリーを狙っていく。
確率はそう高くないかもしれないが、ここまで来たのなら狙ってみない手もない。今朝も、いつも通りに準備が出来た我々。二手に分かれて船に乗り込み、川の上流を目指す。
僕の船にはガイドマン、もう一方にはビックリマン高田とUさんが乗船する。30分ほど上流へ向けて走り、川幅もやや狭くなったエリアで船は停止した。
そのエリアを上限とし、キャスティングをしながら船を流していく。
大きく移動する際には、エンジンを使ったトロ―リングを行う作戦だ。少し下っては船を止め、キャスティングをひたすら繰り返す。しかし、色んなサイズやレンジのルアーを試すが、魚とのコンタクトは無い。トローリングでも反応は無く、やはり簡単ではなさそうだ。
太陽も登り、熱くなってきた。午前中もいよいよ終了である。釣れなかったか・・・。と、諦めて帰り始めた時、岸際で作業をする漁師さんの姿が見えた。
「ちょっと待って!あの中を見てみたい!」そう言って、走っていた船を止めてもらい、漁師さんにもお願いして獲れた魚を確認させてもらった。
沈んだ罠を回収する地元漁師の方。
中には何匹も魚が入っていたが、特に目を引く魚がいた。
クリプトテルス系の魚(Hexapterus)
中から取り出された一匹目。想像以上に大きい魚が出てきたので自然とテンションも上がる。
ナイフフィッシュ(notopterus borneensis)
これは見れてラッキーな魚かも。罠から出ようと足掻いたのか、身体には線状の傷がくっきりと付いていた。
しかし、不意に覗いた罠の中から、まさかこんな魚まで登場するとは思ってもなかった。流石はカリマンタンだな、としみじみ実感する。午前中は魚を釣ることは出来なかったが、魚が見られただけでも充分だ。そこからは一旦家に戻り、お昼休憩を挟む。
午後からは予定通りフラワートーマンを狙いに行く事にした。時間が半日しか無いので、昨日調子の良かったB湖へ向かう。B湖なら、きっと手っ取り早く遊べるはずだ。ルアーは昨日同様に、スピナーがメインとなるが、合間にミノーやスプーン、トップなどをローテーションしていく。
丸々太ったフラワートーマン。ヒレに欠損が無く、非常に美しい個体だ。
やはり、この湖は格段に魚影が濃い。良い場所には必ずと言って良いほど魚が着いており、ルアーを通せば高確率で反応が返ってくる。スピナーをサーフェイス気味に引くと、引き波を立ててチェイスしてくる魚達。堪らなく興奮する光景だ。
夕方には爆釣タイムに突入し、投げれば魚が掛かる状態に。楽しすぎる。半日の釣行でも十分満足する結果となった。
釣りも終わり、家で釣具を整理していると、Uさんが何やら不思議なものを見せてくれた。
こ、これは一体・・・。
この異形の物体、実はこの辺りで一般的に使用されるトローリング用のルアーらしい。今日の午前中、Uさんがトロ―リングしているときに引っ掛かってきたそうだ。このルアー、よく見るとかなり面白い。ボディに空いた穴からは、仰々しい程に針が飛び出ている。「絶対に逃がさないからな」というメッセージすら感じる。ちょっと怖い。実際にローリングすると優秀なルアーらしく、結果も伴うらしい。案外レベルの高いルアーなのかもしれない。こういった独自の文化を目の当たりにするのは大変面白いのだ。
翌朝。どこの湖で釣りをしようかと相談した結果、初日に訪れたA湖でやってみようという結論になった。A湖を選んだ理由としては、数は釣りにくいものの、やはりその中でも青色個体の捕獲率が高いという点にあった。ビックリマン高田も、初めて釣った青色個体はA湖だったという。
今回のツアー日程も残すところ1日半。明日の昼には移動しなければならないことを考えると、実際は今日で最終日のようなものだ。
実感は薄いが、どうやら時間も無いようで。ならば、少ない可能性でも賭けてみるしかないのだ。
今日もブラックウォーターの支流を登り、湖を目指す。
棘の生えた植物に絡まれながらも支流を登り、登り切ると湖が見えてきた。初日以降、訪れていなかったA湖だ。青空とブラックウォーターで彩られた風景が、今日も目の前に広がっている。やはり何度見ても、この景色は格別だと感じた。
到着後、先日までと同様に船を二手に分けて釣りを開始する。釣り続け時間が経つにつれ、空には太陽が高く昇り・・・。いよいよ真上に登った太陽から、絶え間なく降り注がれる日差し。
そして、船上は灼熱へと変わっていった。めちゃくちゃ暑い。そして、なかなか釣れない。正確に言うと、フラワートーマンは散発的に釣れるのだが・・・。やはり連日に比べて魚の反応は薄いと感じる。湖も違うので、まぁ当然の事なのだが。手を変え、品を変え、色々と試すものの、青色の個体は現れない。
夢中でキャストを続ける。灼熱だが、集中力は途切れない。
投げ続けるが、流石にA湖は甘くない。自分でも驚くほどに早く午前中が終了。湖畔にある小屋にて休憩タイムとなった。
しゃがみ込んでいるのは筆者。
疲れが溜まっているようにも見えるが、数日前よりは格段に元気だ。
昼食後は、各々昼寝をしたり泳いだり、自由な時間を過ごす。ある時Uさんが「ウツボカズラが見たい」と言った。船に同船していた少年にそれを伝えると、近くの茂みから探し出し、一つ取ってきてくれた。
僕自身、この植物を見るのは初めてだ。
中にはまだ消化液が残っており、溺れた虫が沢山浮かんでいる。消化液を綺麗に洗えば、この植物はコップとしての使い道もあるとか。
のんびりと昼食タイムを過ごし、午後から釣りを再開。二手に分かれ、先ほど来た方向とは逆に船を進めていく。
時刻は2時過ぎ。相変わらず、魚からの反応は無である。無風に静まり返る湖面は、少し傾き朱色を帯びる日差しを、ギラギラと照らし返している。
キャスト音、そして着水音。自分を含めた周りの生き物から出る音が、クリアに聞こえる様な静かな空間だ。この感覚。この空気。釣り人なら、なんとなく肌で感じるモノがある。根拠の無い、得も言われぬ緊張感。忘れられない瞬間が訪れる空気だった。
「こういう時ってなんか起きるんですよね。」とビックリマン高田が言う。彼も同じ心境だった事に少しだけ驚く。
そして、ソイツは突然やってくる。「ゴンッ」と、いつもと変わりなく伝わったバイト。そこからは何度も繰り返したやり取りだ。特に慌てること無く、慎重さを欠いたまま浮いてきそうな魚を眺めている。しかしその魚を見て、僕達の冷静は一瞬で吹き飛ぶことになった。
「青だ!!!」一気に緊張感が走った。
そして一瞬で臨戦態勢になる我々。とは言うものの、既に魚は浮いてきており、特に頑張ることはなかったのだが・・・。いつも以上に慎重にランディングしてもらった。
出た。遂に出た。待ち焦がれた、本命の青色だった。
フラワートーマンの青色個体。
全体的なブルーにオレンジの模様が入って、息を飲むほどに美しい。
尾の端まで綺麗に入った模様。
この魚に会うためにここまで来たんだ。
眺める時間も程々にし、弱る前にリリースする。
黒い水の中でも、格段に映える魚体だった。ボガグリップを開き、そこからスルリと抜けた美しい魚体は、真っ黒い湖の中にゆっくり消えていった。
「あー、終わったー。」一言で言うと脱力だった。もう悔いはない。達成感しかない。カリマンタンの奥地で、大いに夢を見させてもらった。出会った人達、生き物、全てに感謝だった。
メインタックル
ロッド:TULALA Elhorizonte70
TULALA Pimenta55
リール:シマノ クロナークCI4 150
アブガルシア ロキサーニパワーシューター
ライン:PE2号+リーダー40LB
旅行手配:Chilltrip